Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 362 嗚呼、阪神…

2015年02月18日 | 1983 年 



「安藤!お前が監督をしていたら阪神は勝てん。即刻ユニフォームを脱げ。さもないと…」宝塚市梅野町にある安藤監督宅に差出人不明の手紙が届いた。「現場の責任者への風当たりは強い。夫が阪神の監督に就任した後は宿命だと諦めています」と最近は多少の事では驚かなくなった宏子夫人。しかし手紙に同封されていた " 異物 " に悲鳴を上げた。カミソリの刃とゴキブリの死骸が入っていたのだ。夫の安藤監督は開幕直後の勢いが嘘の様に低迷を続ける阪神の責任を一身に背負っている。そんな夫に野球以外の事に神経を使わせたくない、と脅迫まがいの手紙は夫が目にする前に捨てているが無様な負け方をすると2~3通の手紙が送られて来る。しかし安藤本人は紳士的な外見と違って意外と図太い。監督生活も2年目となると「カミソリでもゴキブリでも何ともないですよ。そんな事で気が済むのならどうぞ送ってきて下さい。いちいち気にしていたら命がいくつあっても足りませんよ」と当初は落ち着いたものだった。

開幕戦こそ負けたが直後の巨人戦で定岡と江川を攻略して2勝1敗と勝ち越して昨年同時期の5勝13敗2分と比べたら大違い。しかし首位巨人が勝ち過ぎて阪神の健闘ぶりが霞んでしまっている。「いくら阪神がソコソコ勝って例年よりエエと言うても巨人を見てみい、関西のマスコミが19年ぶりの優勝気運が高まったと煽ってもシラけるだけだわ」と阪神ファンは冷めている。更に悪い事に開幕から1ヶ月が過ぎると徐々に阪神の調子が落ち始めた。5月10日の甲子園での中日戦に4対8で敗れたのに続き翌11日も7対10で敗れた。試合後の安藤監督は「今日は何も言う事はない・・失礼」と報道陣の前から消えた。既に1ヶ月前の余裕は無くなっていた。負けが込んできた原因は投手陣の踏ん張りが利かなくなってきた事に加えて開幕直後は絶好調で「4割打者の誕生か」位の勢いだった掛布のスランプも。更に真弓が左太腿肉離れ、アレンが左手人差し指を骨折して登録抹消になるなど故障者も続出した。

嘘か誠か最近「関西のスポーツ紙の中でA紙の夏のボーナスは全員カットされるらしい」との噂が渦巻いている。他社は宅配が主なので阪神の勝ち負けで販売数は変わらないがA紙は駅売りが中心なので阪神が負けると売上げが激減するという。事ほど左様に関西地方において阪神の動向はあらゆる方面に影響を与える。刺激的な見出しに定評のあるB夕刊紙に「阪神主力選手に大麻疑惑」の文字が躍った。事実なら大事件だが後追いするマスコミはなかった。記事では大阪新地キタに芸能人が頻繁に出入りすPという高級クラブがあり、そこで夜ごと大麻パーティーが開かれて逮捕者が出た。その店の常連に阪神の選手もいるから怪しい、ただそれだけの事で「疑惑」には程遠い憶測だった。つまりは困った時の阪神頼みで関西ではよくある話だが、その頼みの綱が開幕2ヶ月で路頭に迷った。独走する巨人の姿は遥か先…

巨人は20以上も貯金しているのに阪神ときたら6月5日現在、借金生活だ。思えば5月中旬から下旬にかけての対ヤクルト、広島戦の6連敗が痛かった。「私の計算では悪くて3勝3敗、上手くいけば4勝2敗と踏んでいた。今思うとそれでも甘い考えだったがまさか6連敗するとは…監督の不徳の致す所で弁解の余地は有りません」と安藤監督は項垂れた。続く中日戦は2勝1敗と勝ち越したが相手の中日は今の阪神以上に状態が悪く、監督と選手間がギクシャクしており阪神のお株を奪うかのようなお家騒動を展開中だ。その中日には勝ててもその後の巨人3連戦は負け越した。しかも負けた相手が江川や西本なら分かるが新浦と堀内といった " カビが生えたような " 投手に抑え込まれる体たらくにファンの怒りも頂点に。特にコーチ兼任のヨレヨレの堀内に負けた翌日の関西スポーツ紙はこぞって阪神の意気地の無さと「伝統の一戦」の看板が泣いているという記事が溢れた。

低迷の元凶は一体何なのか?行き着く所は主砲の掛布であり、開幕前の「3割・20本」宣言が虚しい岡田や故障続きで空砲のバースなどの打線の不調にある。開幕前に危惧されていた投手陣はベテランの野村や新鋭・工藤の台頭もあって何とかやり繰り出来ている。真っ先にやり玉に挙げられるのが掛布だ。開幕しばらくは絶好調で三冠王もしくは4割打者か、と騒がれたが5月中旬あたりからパタっと打てなくなった。原因は突然に胸部に激痛が走る奇病を患ったせいだ。現代医学でも原因不明の病で疲労が蓄積すると発症し、痛みだけでなく皮膚の一部が黒ずむ難病だった。激痛を抑える為にサラシをグルグル巻きにして打席に立った。一時、左方向へ流し打ちばかりだったのを憶えている方も多いだろう。「いいねぇ、最近は外角ばかり攻められるので引っ張らずに左方向の打球が多いんですよ。調子の良い証拠です」と掛布は言っていたが真っ赤な嘘。激痛で思い切り振る事が出来なかったのである。

5月の6連敗中の掛布は19打数4安打・打率.211・4打点、直後の巨人戦も12打数1安打と1割を切る打率。しかし当たりが止まっているのは掛布ばかりではない。不振の岡田やバースに加えて2000本安打達成後は極端に打てなくなった藤田、守りと走塁は一流だが打撃は二流の北村、盗塁がフリーパス状態で打撃まで神経が回らない笠間、新人の平田などに強打を求めるのは酷な話。だが打線にばかり低迷の原因を押し付ける訳にはいかない。野村や工藤など奮闘している投手もいるが肝心のエース・小林がだらしない。小林は6連敗中に2度先発したが玉砕。特に巨人戦では新浦に投げ負けただけでなく、新浦にプロ2本目となる本塁打を喫した。掛布に次ぐ高給取りが投手に打たれるようでは巨人に勝てる筈がない。何はともあれ猛虎復活の為に選手一人一人にガッツと自覚を促したい。
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