Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#211 スター選手変遷史 ②

2012年03月21日 | 1981 年 



既にお気付きだろうが神話時代の英雄たちはジャイアンツかタイガースの選手であった。もちろん他球団にも阪急・宮武三郎、セネタース・苅田久徳、イーグルス・中河美芳、セネタース・野口二郎など人気選手はいたが神々の域に達する選手は、先の2球団に集まっていた。神話時代の最後を飾るのもまた両球団の選手である。ビクトル・スタルヒンは沢村が兵役に取られた後の巨人を支えた投手である。在籍9年間で199勝、うち完封が65試合、特筆すべきは被本塁打が僅か21本だった事。川上哲治も「彼こそ巨人軍史上最高の投手」と懐述している。白系ロシア人として苦労した後に日本へ渡って来て北海道で野球と出会い頭角を現しプロ入りした。仲間は「スタ」ちゃんと呼び本人も気に入っていた。第二次大戦時中は敵性語が禁止されたために「須田博」と名乗る事を強いられるなど日本でも苦労は多かった。プロ野球史上初となる300勝を達成して昭和30年39歳で引退した。引退から2年後に東京都内で路面電車と衝突事故を起こしてこの世を去った。

スタルヒンが300勝を達成した際のインタビューで「若林さんも45歳まで頑張ったし僕もまだまだ引退する気はない」と引き合いに出した
若林忠志も神の領域の選手だ。28歳でプロ入りし、1万円の契約金を要求する「事件」を起こしたが当時の球界には契約金という概念は無かった。しかも3年契約という前代未聞の条件での阪神入りだった。ひと月に100円も有れば充分に喰えた時代の1万円、日系2世ハワイ生まれの合理主義と言ってしまえばそれまでだが勧誘を受けた数球団を天秤にかけて好条件を得た若林は大した役者だった。この役者ぶりはマウンド上でも発揮された。大学時代に肩を痛めてしまい直球の威力は半減したが、代わりに多彩な変化球を駆使するだけではなく投球フォームも上・横・下と変幻自在だった。昭和12年に肩を再び痛めたが2年後に復帰すると昭和19年まで年平均24勝をあげる大活躍だった。昭和19年にはプレーイングマネージャーとして指揮を執る一方で22勝をあげて優勝している。若林は神々の中では唯一「現代」の世界を覗いた選手で昭和40年3月に天寿を全うした。

この時代は学生野球の人気が高くプロ野球は大学へ進学出来ない人が中等学校卒業後に就く職業で、いわば見世物的存在だった。そんなプロ野球界で人気を博したのが共に20歳代後半の円熟期を迎えた
川上哲治藤村冨美男だった。2人は全く対照的な選手で、川上は一度打席に入ったら何が起ころうと「勝負の場に上がったらそこには無念無想の世界があるだけで息を抜く事は許されない」との信念から打席を外す事はなかった。一方の藤村は逆でストライク・ボールの判定に大げさなジェスチャーで審判に詰め寄ったり適時打を放てば塁上から投手に向かって「ありがとう」と最敬礼。本塁打の際ベースを一周する時は帽子を手にグルグル回しながらホームインし、立ち尽くす捕手に握手を求め渋々応じた捕手の尻をポンと叩いてベンチに戻ったりしていた。この頃にテレビ放送があったなら長嶋登場以前に「ミスタープロ野球」の称号を得ていただろう。当然2人はお互いを意識しあっていて東西対抗戦での余興のひとつ本塁打競争で敗れた藤村が勝者の川上に対して握手を求めた際のぎこちない光景が脳裏に残っている。表現の仕方は違っているものの彼らに共通していたのは学生野球に遅れをとっているプロ野球の開拓者として如何にして人気を集められるか「プレーはプレー。ショーはショー。マナーはマナー」と割り切って精一杯スタンドのファンに応えようとするプロ意識だった。

2人の他にも様々な異名を持つ職業野球人、いわば「職人」がこの時代には数多くいた。「逆シングルの
白石勝巳」「和製ディマジオ小鶴誠」「日本のヨギ・べラ 土井垣武」「ジャジャ馬・青田昇」等々野球に全身全霊をかけた者たちを忘れる訳にはいかない。とにかくこの頃の選手達は型破りだった。代打逆転満塁本塁打を放った後に投手として登板し今で言うセーブをあげた服部受弘(中日)。野口二郎(セネタース)も中京商から法政大へ進学後に中退した「中卒組」の一人で投手としては年間40勝をあげた一方、打者として31試合連続安打を放った投打両方の日本記録保持者だった。別所毅彦真田重男はベンチから敬遠を指示されても「勝負させないなら二度とマウンドへは登らん」「打たれたら向こうの力が上だったと言う事じゃ、相手を褒めてくれ」と真っ向勝負を挑みスタンドから喝采を受けるなど投打共にサムライ達が揃った古き良き時代だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする