H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

若手医師セミナー2020  Q&A

2020-08-28 | 臨床研修


8月21日に行われた若手医師セミナーでの,皆様からの質問とそれに対する回答です。青木眞先生のブログに掲載されましたが,こちらにも上げておきます。

 

1. 質問者 : 医師 内科 50代
 質問 : 体液分画の推測で、身体所見が変化するのはどの程度のvolume変化があった時でしょうか

間質(浮腫)に関しては,身体所見で分かるほどの変化は3−4kgと言われています。細胞内液や血管内に関しては,具体的なvolumeを記載したものは聞いたことがありません。血管内に関して言えば,例えば頸静脈が座位で認識できるようになればCVP上昇と捉えますが,それが具体的にどれ位のvolumeかというのは正直私にもわかりません(単にvolumeの問題だけでなく心機能にも関連します)。

 

2. 質問者 : 薬剤師 30歳台
 質問 : サードスペースはどのように考えたら良いのでしょうか。

急性膵炎や腹部手術後などに血管外に体液が移動して,しばしば戻りにくいスペース(分画)という意味でサードスペースと表現されています。細胞内と血管内以外の「仮想上」のスペースという意味で使われます(細胞外液とも同義ではありません)。なぜか腎臓病の教科書にはサラッとしか書かれていないことが多く,サードスペースに確固とした定義はないように思います。私自身は最近,その言い方をあまり使ったことはありません。

 

3. 質問者 : 研修医2年目
 質問 : 浮腫は酷いですが,血管内容量は減ってるという状況も多いと思うのですが,どのように対処すればいいですか?
少し細胞外液を入れながら,利尿薬でいいのでしょうか?

いわゆる ”million-dollar question” ですね。もっとも難しい状況のひとつだと思います。例えば,肝硬変やネフローゼで低アルブミンで,浮腫が著明な場合とかですね。ご指摘のやり方を試みる場合もありますし,もとの病態の治療を行うこと(治療可能であれば低アルブミンの治療をする)などでしょうか。

 

4. 質問者 : 薬剤師 40代
 質問 : Drから「ハーフ生食いれて」と言われたときに、「生食と5%Gluを同量で割ったもの(KN1号液)」だと思っていたのですが、「生食(0.9%食塩)と注射用水を同量で割ったもの」と言われたことがあります。注射用水で割ると等張にならないと思うのですが、これを点滴してよいものなのですか。

ハーフ生食とは,厳密に言えばDrのおっしゃる通りだと思います。たとえば糖尿病性ケトアシドーシスや非ケトン性高浸透圧性昏睡の治療のときに用いられます。しかし多少のブドウ糖が入ってもよければ1号液で代用してしまうこともあります。等張でないと点滴できないということはないと思います。

 

5. 質問者 : ICU Dr
 質問 : アルブミンを投与すると血管内の浸透圧が上がり間質から水を引っ張るということはあるのですか?いわゆる術後のサードスペースに逃げている病態で有効だったりするのですか?見当違いな質問だったらすみません。

アルブミンを投与して「血管内の浸透圧を上げて間質から水を引っ張る」というのはイメージとして分かりますが,本当にそうなのかはっきりしません。同様にアルブミンを投与して,ラシックスを投与して浮腫の改善を目指すというのも,よく言われます。しかし,アルブミン投与後にラシックスと投与して利尿効果が得られるのは,間質から水を引っ張ってくるわけではないようです。アルブミンはラシックスのキャリア蛋白として働いており,より多くのラシックスが尿細管腔に到達するため利尿効果が得られるとされています(Burton Roseのテキストより)

 

6. 質問者 : 研修医
 質問 : 3rd spaceってよく聞きますけれど,なんでしょうか?間質のことでしょうか.

質問2の回答を参照下さい。

 

7. 質問者 :  
 質問: 低アルブミン血症で浮腫がある患者さんでもナトリウム過剰でしょうか。またその場合でも利尿剤が有効ですか。血管内脱水に陥ることが多い印象ですが。

基本的には浮腫のある患者は,Na過剰と考えていいと思います。低アルブミンがあると利尿薬は効きにくくなると言われています。(質問5も参照)

 

8. 質問者 : 新人薬剤師
 質問 : 抗菌薬治療において、糖液で溶かす場合と生食で溶かす場合で、効果に違いはありますか?

たぶんないと思います。

 

9. 質問者 : 薬剤師 20代
 質問 : 貴重なご講演ありがとうございます。1日に必要な輸液量は喪失量と維持量の合計とありましたが、水分量としての上限などはあるのでしょうか。お時間ありましたらご回答お願い致します。

腎機能(溶質および自由水の排泄能力)によると思います。

水分量の許容量は,腎機能と溶質負荷の量によって決まります。たとえば普通の食事をしている人の一日の溶質負荷は約600mOsmとされています。腎機能が正常であれば尿浸透圧は50〜1200mOsm/Lとされています。

600mOsm/日の溶質(ツブ)を50〜1200 mOsm/Lの濃度で排泄するとすれれば,取り得る尿量は0.5L〜12L/日になります(実際に自分で紙に書いて計算してみて下さい)。ここで腎機能がGFR25ml/minになると,取り得る尿浸透圧は約半分の範囲(150〜600mOsm/L)くらいになります。このとき,尿量の取り得る範囲は,1L〜4Lになります。つまり,これが水分量の許容範囲になります。さらにほぼ末期腎不全になると,300mOsm/Lにほぼ固定され(等張尿),尿量の幅は2L前後になります。

腎機能に合わせて,排泄できる水分量は12L →4L→2Lとなります。これ以上の自由水を投与すると,水貯留で低Na血症をきたします。これが,free waterの投与限界(許容範囲)ということになります。実際には,溶質負荷の量が変化すると,さらに変動の幅は変わります。

 

10. 質問者 : 医師 内科 50代
   質問 : 熱中症の多い時期、脱水の際、経口で補正する場合があります。生食を飲むことはなく、電解質の多いOS-1でもNa50mEq/l
Glucose1.8%です。血管内に入れる場合と、経口にて補正する場合は、全く異なると考えたほうが良いでしょうか。

すみません。よくわかりません。経口摂取の方が,腸管からの吸収というステップを踏むので,おそらくは許容範囲は大きいとは思いますが。

 

11. 質問者 : 医師 内科 (元々は放射線診断科) 60代
  質問: 内科を標榜して15年になる放射線診断医です。大変分かり易い御講義有難う御座います。ど素人で始めた内科の仕事でいつも悩むのが輸液の内容でしたが、今回の講義のおかげで今までより少しは医師らしい捌きが出来そうです。今後ともよろしくお願いいたします。

お言葉ありがとうございます。

 

12. 質問者 : 医師 内科
 質問内容 : 生理食塩水とヴィーンFの使い分けはいかがでしょうか?

ほぼ同等と考えていますが,生理食塩液の方がClが圧倒的に高いし,実は生理的ではないので,より生理的に近い成分として考えるなら。リンゲル液(ヴィーンF)を使います。ただ患者の腎機能に問題がなく,よほど大量輸液をするのでなければ,そこまで厳密に考えなくてもいいんじゃないかと個人的には考えています。

生理食塩液を大量(例えば数L以上)に投与すると,高Cl性アシドーシスをきたす可能性があると言われています。Critical care の領域(たとえば外傷など)で大量輸液をするような場合でなければ,なさそうな気がします。私自身は経験がありません。

 

13. 質問者 : 医師 50代 医師
   質問 : 28歳の大工さんの症例では尿ナトリウムがとれれば濃縮で高値でしょうか 2例目の症例では正常でしょうか

二つの考え方があります。まず細胞外液量が低下しているので,尿中Naは原則として低値になると予想されます。ただし尿中Naが少なくても,尿量そのものが著しく少なければ濃縮されて,見かけ上尿中Na「濃度」は予想よりも高めにでることは考えられます。この場合でも,FENaは低値になると思います。

2例目も細胞外液量として低下しているので,原則として尿中Naは低いことが予想されます。

 

14. 質問者 : 医師 内科 30代
   質問 : フルイトラン投与中、水分摂取ができない状況で2日間過ごした後に下腿浮腫を伴うの低Na血症(109)で入院した高齢者女性がいます。夜勤帯に生理食塩水で補正後のFENa,浸透圧は脱水パターンでした。
質問1、補液で補正後の尿生化学は、参考になるのでしょうか? - 夜間に尿中Na、Kが測定できない場合、低Na血症の原因は何を指標に判断すればよいでしょうか?
質問2、浮腫と脱水パターンが両立する場合はあるのでしょうか?フルイトランが原因になりうることはあるのでしょうか?

 

回答1)補液をすると直後から尿生化学は,すぐに変化してしまうことが多いので,できれば最初の尿をとっておいて検査することが望ましいです。

それでも,たとえば著しく低値であれば参考になる・・といった使い方はできます。夜中に尿中Na,Kが測定できないことは病院によってはいくらでもあります(当院も以前そうでした)。その場合でも,病歴,身体所見からおよその見当はつけられることが多いと思います。

回答2)質問3と同じことですが,実際には経験します。ここでいう「脱水パターン」が何を意味しているかをはっきりさせる必要があります。「循環血漿量低下」という意味なら,よくあります。つまり心不全や肝硬変など,身体全体としては,Na貯留だが循環血漿量は低下していて,尿中NaやFENaが低値となるパターンです。サイアザイド利尿薬は,低Na血症をしばしば起こす原因になります。

 

15. 質問者 : 外科医
 質問 : アルブミンの使い方で質問です。術後のサードスペースに水が逃げているといわれる状態でアルブミンを使うと血管内に水を引き込むことができるのですか?もしできるならばアルブミン投与後にラシックスを打つと尿が出てくることがあるのですか?

質問5の答えを参照下さい。

 

 

(写真は2019年京都で行われた日本プライマリ・ケア連合学会で展示されていた昔のリンゲル液)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする