H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

あなただけではない

2020-08-19 | 臨床研修


雑誌『総合診療』8月号に掲載された深田絵美さんのエッセイを読みました。山中克郎先生がFBでも紹介されていましたが,深田さんは研修医担当のカリスマ事務として名古屋方面の学生・研修医の間ではつとに有名な方です。初めてお目にかかったのは,もう10年以上前でしょうか。大船GIMにも初期の頃に研修医を連れて来て下さったこともあります。

深田さんがおられる部屋(通称深田部屋)には研修医たち(ときには指導医も)が立ち寄って身近にあった出来事やちょっとした相談事などを話してゆくそうです。このエッセイでは,ある女性研修医が受け持ちの患者さんが亡くなられたあとに「もし自分でなかったら」その患者さんの予後は変わっていたのではないか・・そんな気持ちを吐露する様子が描かれています。

これを読んだとき(そうそう・・)ととても共感するものがありました。

 「もし自分でなければ,もっと優秀な医師だったら」

これは,内科医として30年以上仕事をしてきた今でも,そう感じる瞬間があります。目の前にいる患者さんの診断がよくわからなくて,どう判断したらよいのか迷うことがあります。これがもし自分ではなく「あのTierney先生だったら・・たちどころに診断が分かるのではないか?あの○○先生なら,もっとよい治療ができるのではないか?本当に自分でいいのか?」
そうやって自問自答します。

 

深田さんはこのエッセイの最後をこう締めくくっておられます。
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「自分でいいのか」という不安と,「自分が診なければ」という責任感の間で,臨床現場にしがみつくようにして彼らは学んでいく。そして駆け出しの研修医たちが,謙虚な気持ちで臨床に向かう時に見せる成長は,たくさんの講義の聴くのにも勝る,医師になる確かな瞬間なのだなとつくづく思う。
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研修医たちの気持ちをよく理解された深田さんならではの文章です。彼らを見守る眼差しがとても優しく温かいです。

 

「自分でいいのか」という不安を自覚しつつ「自分が診なければ」という責任感に揺れ動きがら,それでも前に進むしかないのが研修医に限らず医師という仕事です。それは今の自分にできることを(限界も知りつつ),精一杯やるという「覚悟」のように思います。

 

私がその研修医さんに伝えたいこと,それは「あなただけではありません」ということです。その気持ちは「自分の能力を過信せず謙虚な気持ちを持ち続けることの証」だと思います。どんな医師であれ,その気持ちを失くしたときは進歩が止まるときです。

大切なことなので,もう一度言います。

あなただけはありません。わたしもそうです。

コメント (2)
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