面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「リヴァイアサン」

2014年10月11日 | 映画
マサチューセッツ州ニューベッドフォード。
かつて世界最大の捕鯨基地として賑わい、文豪ハーマン・メルヴィルの『白鯨』がインスパイアされたという港町から出航した巨大な底引網漁船アテーナ号。
積み込まれた11台の超小型カメラが、様々な角度・視点で底引網漁を追う。


ハーバード大学の人類学者で、映像作家でもある共同監督の二人、ルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェルは、最新の小型カメラを駆使して、我々が見たことのない映像をスクリーンに映し出す。

巨大な底引網によって海中から引き揚げられ、甲板でもがく魚のアップ。
魚を黙々とさばいていく漁師たちの作業風景。
切り落とされて無造作に転がる魚の頭。
その頭を狙って舞い降りてくるカモメ。

人間と海棲生物との関わり、淡々とした生と死の営み。
我々の日常とは明らかに異なる異質な世界が、濃厚な空気を伴って観客に迫ってくる。

そして船体から海に向かって突き出されて設定されたであろうカメラが、波に飲まれて海中に潜り、再び海上に出たかと思うと再び海中に沈み、また海上に浮かび上がり、まるで波間を泳ぐ生き物の目線の如き映像を映し出す。
それはあたかもアテーナ号の目線であるかのような感覚を引き起こし、アテーナ号が映画のタイトルそのままに「リヴァイアサン」(旧約聖書に登場する海の怪物)となって波間を漂っているかのようだ。


人間のセリフは一切ない。
船のエンジン音や網を引き揚げるクレーンの軋む音、浪にもまれてブクブクと泡が沸き立つ音など、自然な音だけが聞こえてくる。
漁師がしゃべる声が聞こえるようだが、何を話しているか聞き取れず、それもまた“ただの物音”に過ぎない存在となる。
そしてその“自然の音”が迫力の映像と相まって、我々の五感をチクチクと刺激する。


摩訶不思議な映像体験は、日常から隔離された真っ暗な劇場でこそ堪能できるもの。
文化の秋に相応しく、リヴァイアサンを追う海王神・ネプチューンの疑似体験を楽しんでみるのも一興。


リヴァイアサン
2012年/アメリカ、フランス、イギリス
監督・プロデューサー・撮影・編集:ルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル


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