面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「マイ・バック・ページ」

2011年06月29日 | 映画
1969年。
「安田講堂陥落」という学生運動の終焉を間近で見て、自分がその中にいなかったことに何となく後悔を抱いたまま、新聞社で週刊誌記者として働く沢田雅巳(妻夫木聡)。
活動家を追い続ける先輩記者・中平武弘(古舘寛治)を羨ましく見つめながら、自分も政治運動の取材で活躍したいとの思いを強くしていた。

ある日、梅山(松山ケンイチ)と名乗る男が中平に接触してくる。
彼の情報によると、銃器店を襲ったのは自分たちのグループだと言う。
地下に潜伏する梅山を人目につかないようにするため、沢田は自身の部屋を取材場所に提供した。

「銃を奪取して武器を揃えて、我々は4月に行動を起こす。」
熱く語る梅山の発言に沢田は興奮したが、中平は胡散臭い男だと言う。
中平を見送って部屋に戻った沢田は、梅山と話をするうちに共感を覚え、彼に魅かれていく。

中平から梅山との接触を控えるように諭された沢田だったが、ようやく自分が理想としていた取材に取り組んでいるという高揚感から、どんどん梅山との交流を深めていった。
そしてついに梅山が動いた!
「駐屯地で自衛官が殺害された」というニュースが流れ、梅山が率いる「赤邦軍」が実行したものだと報じられたのだった…


映画評論、文芸、エッセイなどで広く活躍する川本三郎氏が、自身の新聞社入社当時の1969~72年までの日々を綴ったノンフィクションを映画化。
東大安田講堂事件をきっかけに全共闘運動が急激に失速し、新左翼による暴力的な活動が激しくなっていった時代背景をベースにして、川本氏の苦い青春の1ページを描く。

学生時代の“やり残し”感を引きずって社会に出た沢田は、自分がなりたかった左翼的な政治運動を追う硬派な週刊誌の記者ではなく、ごく一般的な週刊誌の記者として働いていたが、心の中では常に「こんなはずではない」という思いに囚われていたことだろう。
そして“変に”焦って取り返しのつかない“大火傷”を負うことになるのだが、そんな彼の姿に思わず身につまされた。
大失敗に陥った経験は無くとも、漠然とした焦燥感や、「自分はもっとできる」という忸怩たる思いを抱いたことのある諸兄も多いのではないだろうか。
そんな経験のある者には、沢田が“昔の仲間”と再会するラストシーンに、様々な思いが胸を去来することだろう。

しかし、「アホな経験」は決してムダなことではなく、必ず人生を滋味深いものにしてくれるもの。
それが分かるのは、ずっと歳を取ってからではあるのだが…


まるでキャラクターが憑依したかのように梅山の空虚さを演じる松山ケンイチと、青春の挫折が体中から滲み出て身悶えする姿が秀逸な妻夫木聡の好演が光る、ハーフ・ビターなヒューマン・ドラマの佳作。


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2011年/日本  監督:山下敦弘
出演:妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、石橋杏奈、韓英恵


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