面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「9/10 ジュウブンノキュウ」

2006年11月21日 | 映画
監督の7回忌を兼ねて、7年ぶりに集まった岐阜・明星高校野球部の9人の仲間たち。
久しぶりの再会を喜んだが、今回の同窓会にはもう一つの目的があった。
それは、7年前に皆でこしらえたタイムカプセルを開けること。
メンバーは一人一つずつ鍵を持っていて、全員で鍵を持ち寄って初めて開錠できる作りとなっている。
食事をしながら思い出話に花を咲かせるが、どうもお互いの記憶に微妙なズレがある。
段々と話がかみ合わないところが噴出し始め、雰囲気が悪くなったところで、キャプテンだった坂本の音頭で、タイムカプセルを開けることに。
鍵穴は、メンバーでの最後の試合となった夏の高校野球地方予選決勝戦での打順に合わせて作られている。
順番に鍵を差し込んでいくのだが、最後に鍵穴が一つ残る。
あれ?自分達は9人で決勝まで勝ち進んだのに、なぜ鍵穴が10個あるんだ?
何かおかしい…

萩尾望都の名作「11人いる!」を思い出した。
あちらは、10人のはずのメンバーが11人いて“一人多い!”というところから始まるミステリーだが、本作は9人のはずのメンバーが、“もしかすると一人少ない?”という疑問が生じるところから始まるミステリー。

同窓会の会場となった洋館の一室で繰り広げられる会話の応酬。
ここのグループ、向こうの二人と、あちこちで話題に上る昔話だが、微妙に場面にズレがあり、なんだか尻のすわりの悪~い雰囲気になっていく。

見ている観客は、実はもう一人いることが何となく分かる。
しかし、それが誰なのかは全く分からない。
え?その鍵の持ち主は、もしかして監督?
いやいや、そんなことはないない。
あ!そういえば…
でも、それって…誰??

現実と非現実が交錯し、何が虚で何が実か、観ているこちらは区別がつかなくなってくる。
決勝では大敗して甲子園には出られなかったものの、9人のメンバーで力を合わせて闘った最後の予選。
苦楽を共にして、固い結束で結ばれた仲間達。
まばゆいばかりの青春時代の記憶に、大きな空白がある…?

人間の脳は、楽しい思い出が残るようにできているとか。
そして記憶は、確実に正しいものが脳の中に記録されているとは限らない。
いや、“正しい記録”が“都合のいい記録”に置き換えられていることがある。
しかし、一度育まれた“熱い友情”は決して消えるものではなく、その友情に結びついた記憶は、しっかり残っていくものなのだ。
本作を観て、改めて感じた次第。

ぐいぐい物語の中へと引き込まれていく、シチュエーション・ミステリーの傑作。
バラバラに繰り広げられる会話が、一つのポイントへと収斂されていく展開が小気味良い。

すごい面白い映画やのに、なんでこんな短い期間しか上映されへんの??
今日、もらったチラシでは、今週だけの上映!
善は急げ!ぜひ、ご覧あれかし!


9/10 ジュウブンノキュウ
2005年/日本  監督:東條政利
脚本:なるせゆうせい
出演:中泉英雄、関谷正隆、武田裕光、藤川俊生、鈴木淳評、金井勇太


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