面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「シェルター」

2010年03月26日 | 映画
カーラ(ジュリアン・ムーア)は、しばしば凶悪事件の裁判に出廷し、専門的見地から証言を行っている精神分析医。
解離性同一性障害疾患を認めていない彼女は、3年前に夫を殺害された痛ましい過去があるが、一人娘のサミー(ブルックリン・ブルー)を心から愛し、慈しみながら女手一つで育てていた。

ある日カーラは、自分と同じく精神科医である父ハーディング博士(ジェフリー・デマン)の研究所に呼びされ、デヴィッド・バーンバーグ(ジョナサン・リス・マイヤーズ)という患者を紹介される。
「興味深い患者だ」と、何やら意味ありげにデヴィッドに引き合わされたカーラは、精神分析のために幾つかの質問を彼に投げかけるが、その答には何も異常は見られなかった。
下半身不随のために車椅子生活を送っているというデヴィッドは、礼儀正しいごく普通の青年だった。
隣室で二人のやりとりを見ていたハーディング博士のもとへカーラがやってくると、博士はデヴィッドが一人でいる部屋に電話をかける。
「ハーディングだ。アダムはいるか?」
「あいにくですが、ここには僕しかいません。」
「それなら、アダムを呼んでくれ。」
博士が呼びかけた途端、急にデヴィッドは首を仰け反らせて、激しく表情を歪めた。
次の瞬間、目つきや声色まで一変したアダム・セイバーと名乗る人格が現われたデヴィッドは、それまでの物静かな態度が嘘のように雄弁になり、先の質問に全く異なる回答を返してきた。
そしてあろうことか、車椅子から平然と立ち上がってみせる。

しかしデヴィッドを解離性同一性障害とは認めないカーラは、主人格はあくまでもアダムであり、交代人格としてデヴィッドを作為的に“演じている”ものと診断した。
その見立てを証明するために本格的な調査を開始したカーラは、ある高校の卒業アルバムから、デヴィッド・バーンバーグという男性が実在することを突き止める。
デヴィッド・バーンバーグの母親(フランセス・コンロイ)を訪ねると、そこで意外な事実を聞かされる。
デヴィッドが16歳のとき、事故で下半身不随となってしまったこと。
過酷な治療に耐えても報われることはなく、その結果信仰心を失ってしまったこと。
そして25年前の1982年、森の中で何物かによって惨殺されてしまったこと。
当時6歳だったアダムがデヴィッドの悲劇を報道で知ったものと推測したカーラは、バーンバーグ夫人とアダムを対面させた。
すると、デヴィッドの人格となったアダムは、デヴィッド本人しか知りえない情報を語り始め、カーラとバーンバーグ夫人を動揺させる。

デヴィッド、アダムだけでなく、更にウェスという人格も現われる男に対して、カーラはそれぞれの人格の過去について調査を進めていくうちに、科学では説明しようの無い「シェルター」という超常現象へと突き当たる。
そしてそのことが、彼女を抜き差しならぬ惨劇へと導いていく…

「フォース・カインド」「パラノーマル・アクティビティ」と、超常現象をテーマにした作品が相次いで公開されている。
その流れに続くように「シェルター」が登場。
“異性人との接触”、“悪霊との対峙”の次は、“土着の民間信仰”。
物語は、ひとりの精神科医が、解離性同一性障害という精神疾患を持つとされる患者を診察するところから始まるのだが、その相手が抱える問題は医学で解決できる類のものではないという事実にたどり着く。
そして真相が解き明かされる中で鍵となるのが“信仰心”だ。

人間の脳の働きでさえ論理的に分析し、コントロールしようとする医学。
そんな最先端の科学に従事する人間が、信仰というおよそ科学とは程遠いものに助けられ、救いを求めるというアイロニー。
一見、映画の形をとった布教活動か!?と思ってしまうが、科学によって何でも解決でき、なにものをも支配できるとする尊大な態度に対する強烈な警告である。
そしてそれは、「金融工学」という名の科学によってもたらされた、現在の世界的な不況に対する戒めかもしれない。
人間、人知を超えたものへの“畏れ”を抱き、謙虚に生きるべきなのだ。

ジョン・カーペンター監督の「遊星からの物体X」を思い起こされたラストが印象的な“スーパーナチュラル・ホラー”。


シェルター
2009年/アメリカ  監督:マンス・マーリンド、ビョルン・ステイン
出演:ジュリアン・ムーア、ジョナサン・リス・マイヤーズ、ジェフリー・デマン


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