面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「レスラー」

2009年06月18日 | 映画
プロレスラー三沢光晴さん、試合中に倒れ死亡(朝日新聞) - goo ニュース


ノアの三沢の訃報が流れたからというわけではなかったのだが、ちょうど都合が合ったので「レスラー」を観に行った。
とはいえ、若干のミーハー心も持ちつつ席に着いたのだが、エンドロールが流れて場内が明るくなると同時に、そんなミーハー心は雲散霧消した。
映画を観る前に三沢のニュースをいろいろ読んでいたが、この作品の封切りと時期が重なった訃報に、何か因縁めいたものを感じずにはいられない。
「人生は全て必然」と考えているが、自分の人生とは関係なく、これもある種の“必然”と言えるのかもしれないと思うと居たたまれない…

1980年代、全米ナンバー1の人気を博したプロレスラーのランディ・“ザ・ラム”・ジョンソン(ミッキー・ローク)。
50代となって年齢的な衰えを隠せない今でも、スーパーのアルバイトで糊口をしのぎつつ、ドサ廻りの興業に出場していた。
リングでは、かつての名声はまだまだ威光を放ち、先々では熱狂的なファンからの熱い声援が絶えることはなく、それが彼の心の拠りどころであった。
ある日ランディは、ステロイドをはじめとする様々な薬の副作用から心臓発作を起こし、緊急手術を受けて一命をとりとめたものの、医師からは引退勧告を受けてしまう。
馴染みのストリッパー・キャシディ(マリサ・トメイ)に顛末を打ち明けると、家族と連絡をとるよう勧められた。
長らく会っていなかった娘のステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に会いにいったランディ。
最初は拒絶されるものの、キャシディのサポートもあって関係を修復し、ディナーの約束をしたのだが…

哀愁漂うランディーの後姿は、たまらなく愛しい。
その姿がまた、かつて一世を風靡したミッキー・ロークと見事に重なり、可笑しいほどに哀しい。
また、ランディーが思いを寄せる場末のストリッパー・キャシディを演じるマリサ・トメイの演技は、物語に更なる彩…いや、痛々しさを添えて素晴らしい。
年齢的にどうしようもない肉体的な“熟れ具合”が、ランディーとの心の交流に深い味わいをもたらし、放散する艶と相まって息苦しいほどに切ない。

上映時間を忘れて見入っているうちに、神がかり的なラストシーンへ導かれたが、観終わってから振り返る度に、“熱い哀しみ”がこみ上げてくる。
三沢のニュースに関係なく、またミッキー・ロークの“自伝的作品”という意味合いも関係なく、ランディーの生き様を通して、「男」という生き物の悲しくもおかしい、どうしようもない「性(さが)」を、エグい程に曝け出す珠玉の傑作。


レスラー
2008年/アメリカ  監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド