面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「やじきた道中てれすこ」

2007年11月17日 | 映画
実にくだらない、面白い時代劇ロードムービー。
なんてことない筋、どうってことない物語。
しかし、なぜか画面に吸い込まれてしまい、和やかに時間が過ぎていく。

細か~く、いろんな落語の噺からネタをつまみ食いして構成された展開は、大人の童話(艶話という意味ではなくて)として、ゆりかごに揺られながら映画を観ているよう。
タイトルにもなっている「てれすこ」をはじめ、「高尾」「狸の賽」「三枚起請」「天神山」「骨つり(野ざらし)」「かけとり」。
ざっとテイストを感じる噺をピックアップするだけで、これだけのネタが挙げられる。
落語は、長い年月を経て生き残ってきた物語で、それぞれの噺には笑いの要素が散りばめられており、ひとつひとつの場面をチョイスしてうまくつなげれば、そらそれだけで面白い話ができあがるというもの。
やられた…というか、そんな風にして脚本を作るのはズルイぞ!

そして主演の中村勘三郎(弥次郎兵衛)、柄本明(喜多八)、小泉今日子(お喜乃)の3人の達者ぶりには、感心も得心もした。
いわゆるチャンバラモノではない時代劇の登場人物として、絶妙の味わいを醸し出している。
この3人だからこそ、2時間余りに渡って、観客を画面に引きつけ続けることができたと言える。

中でも、やはり勘三郎の台詞のリズム感が、実に耳に心地よい。
江戸っ子の言葉はリズムが命。
いわゆるチャキチャキの江戸っ子のキップの良さというのは、リズミカルな言葉遣いによるものであり、一流の歌舞伎役者としての勘三郎の面目躍如である。
そして、勘三郎のリズム感を微妙にずらして受ける、柄本明の台詞回し。
波長の短い音に、波長の長い音がミックスした、二人で醸し出される得も言えぬリズム感がまた、小気味良い。
二人の“一流演劇人”の掛け合いは、それだけで一つの芸と言える。

また、絶妙に配された脇役陣も芸達者揃い。
特に、吉川晃司と藤山直美には、ちょっとやられた感あり。

最近の映画館はイスの座り心地が良いが、大きめのイスにすっぽりと包まれるように座り、何も考えずにボーッと画面を眺めているだけでいい。
決してどこにも力を入れて観てはいけない脱力系映画。
ほどよい満腹感…いや、違うな。腹八分めな映画である。
これは続編が出てもいいぞ!ていうか、結構観たいぞ♪


やじきた道中てれすこ
2007年/日本  監督:平山秀行
出演:中村勘三郎、柄本明、小泉今日子、ラサール石井、間寛平