青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第59回)

2011-07-20 20:30:41 | 野生アジサイ



幻の“ヤナギバハナアジサイHydrangea kwangsiensis”探索記/広西壮族自治区融水苗族自治県九万大山③


2011.7.8
融水発、AM6:30。汪洞着AM10:00。バスの車窓から、目を皿のようにして、野生アジサイのチェックを続けていたのだけれど、目に入るのはアカネ科コンロンカ(近縁種)の白い花ばかり。いずれにしろ、目的のヤナギバハナアジサイは、昆明植物研究所所蔵でチェックした1958年の標本のデータにある最奥の集落“平時”の辺り、あるいはさらに隣町の河池側に越える峠の付近まで行かねば現れないことでしょう。

でも、ヤナギバハナアジサイはともかく、そろそろカラコンテリギが現れても良いと思うのですが、どこまで行ってもコンロンカばかりです。やや標高の低いところが主体ですが、(峠近くの高標高地まで)至る所に生えていて、ついついカラコンテリギと見間違えてしまいます。

バス終点の汪洞から平時の集落に向かい、徒歩で1時間ほど歩いたところで車に便乗、平時の集落を通り過ぎてAM11:50峠頂に到着。

峠のすぐ手前で、道脇の林内に咲くヤナギバハナアジサイを見つけました。おそらくカラコンテリギと左程変わらない外観をしているのでは?という予想に反して、鮮やかな青紫色(装飾花弁が淡く青味がかった白、装飾花の“目”の部分と正常花が濃青紫色)の、まるでガクアジサイそのもののような花序です。葉は、標本や「中国植物志」の図で見る通り、細長い革質、縁はほぼ全縁でほとんど鋸歯は生じません。“柳”と言うよりも“夾竹桃”のイメージです。

コアジサイ群のうち、ガクアジサイ亜群をガクウツギ亜群から分ける指標形質、花序柄がある、子房が半下位、正常花弁の基部が幅広い、といった特徴は、見事に合致します。加えて、濃い青紫色の正常花と薄っすら青味がかった装飾花。どこから見ても、間違いなく「ガクアジサイ亜群」の一員です。












(左写真の左はジョウザン)


ヤナギバハナアジサイの正常花(花弁、蕾、子房、雄蕊)。



写真左下に見えるのがヤナギバハナアジサイ


九万大山の峠を越えます。貴州省や湖南省との省境も目と鼻の先です。



ジョウザンの雌蕊花柱と柱頭は、一見雄蕊の花糸と葯に紛らわしい。


ジョウザン。左下写真の束になって上伸するのが雄蕊の花糸、その外側の左右に広がるのが雌蕊の花柱。花糸はすぐに脱落しますが、花柱はしばらくの間残ります。


ヤナギバハナアジサイ。ジョウザンの雄蕊の花糸に似ていますが、こちらは雌蕊の花柱です。花の終わった子房(果実)はガク筒部が球状味を帯び、全体の外観もジョウザンに似てきます。




左ジョウザン、右ヤナギバハナアジサイ。


左ジョウザン、右ヤナギバハナアジサイ。




左半分がヤナギバハナアジサイ、右半分がジョウザン。大きさが明らかに違います。


(左上の葉と蕾&子房のみジョウザン)

昨夜の豪雨は、今朝になって止んでいたのですが、再び雨が強くなってきました。この数日雨の気配は全く無かったものですから、雨具は用意してきていません。ずぶぬれになって撮影を行い、チェックしつつ歩いて山を下ることにしました(幸いしばらくして雨は止みました)。

九万大山一帯の最高峰は2000m前後(0000、0000)ですから、この辺りの稜線は、おそらく1500m前後ではないかと思われます。峠頂は1200mぐらいではないでしょうか? 最奥の集落で1958年の標本データにある「平時」までの、標高差500m程の下り道です。その間、林内の茂みに、ぽつぽつとヤナギバハナアジサイが姿を現します。標高にして700m~1200mくらいでしょうから、ちょうどカラコンテリギの主要生息域と一致します。

興味深いことに、山一つ隣りの、花坪・南山・芙蓉村・龍背にあれだけ多かった(ほぼ同一標高、花坪では1700m付近まで)カラコンテリギは、全く一株も見られません。カラコンテリギは、比較的低所では5月、標高1200m付近なら6月中旬が開花盛期でしょうから、この時期にはまだ咲き残っている株もあるはず、開花後も装飾花が目立ちますから、生えていれば間違いなく見付けることが出来るはずです。ということは、この一帯にカラコンテリギは分布していないと考えて良いでしょう。

逆に、カラコンテリギの産地には、ヤナギバハナアジサイは見つかりません。カラコンテリギの開花盛期の5月~6月はヤナギバハナアジサイの開花初期に当たるわけですから、生えていれば分からない筈はありません。ヤナギバハナアジサイは分布していないと考えるのが妥当なところでしょう。すなわち、融江(珠江上流)を挟み、一山を隔てて、カラコンテリギとヤナギバハナアジサイの分布が見事に入れ替っているのです。

異なる点は、カラコンテリギは生育地範囲内では非常に個体数多いのに対し、ヤナギバハナアジサイは生育地にも極めて疎らにしか出現しないこと。かなりの稀産種ということが出来ると思われます。

九万大山では、ジョウザンをヤナギバハナアジサイと同所的に(より普遍的で広範囲に)見ることが出来ます。ヤナギバハナアジサイより開花期はやや遅く初期~盛期です。峠頂から少し下った辺りから、ノリウツギも現れます。こちらは開花初期(ちなみに最普通種のアスペラは確認出来ませんでした)。以上の組み合わせは、花坪や龍背などのカラコンテリギ生育地とほぼ同じ(龍背ではアスペラも確認)です。

この一体の特徴は、アカネ科のコンロンカ(近縁種)が、著しく多いこと。やや標高の低いところが主体ですが、峠近くの高標高地まで至る所に生えていて、ついついカラコンテリギと見間違えてしまいます。

なお、カラコンテリギ生育地の山塊(花坪ほか)の、九万大山とは反対側に位置する猫児山にも、カラコンテリギが分布していない可能性があります。この、貴州省東南部や湖南省西南部に接する広西壮族自治区北縁一帯を、便宜上「広西南嶺」と呼ぶことにし、九万大山を「西部」、花坪ほかを「中部」、猫児山を「東部」としておきましょう(いずれも最高点は2000m前後、「南嶺」は、さらに東に広東省北縁山地に続きます)。

猫児山には4月下旬と9月下旬に訪れていますが、カラコンテリギを見た記憶は全く有りません。2005年の4月下旬(22日~25日)には山頂まで徒歩で足を運んでいて、開花最初期のカラコンテリギは、あれば当然チェックし得ているはずです。葉も充分展開しているはずですし、蕾も膨らんでいるでしょうから、見落とすはずはないと思う。この山には、カラコンテリギは生育していないか、ごく少ない(生育地が限られる)と考えて良いと思う。

ヤナギバハナアジサイも見ていないのですけれど、こちらは、前もって知識が無いと葉だけを見てアジサイの仲間と判断するのは困難でしょうし、この時期ぼつぼつ咲きはじめているカラコンテリギと違って、開花期にはまだかなり間があるため、もしあっても見落としている可能性があります。しかし、過去の記録や標本も未チェックのことですし、分布していない可能性も大いにあると思います。

地質が関係している可能性もあります。東部の猫児山周辺は石灰岩地帯、中部の花坪などは蛇紋岩を含む非石灰岩地帯、西部の九万大山は今手元に地質図が無いため未検証です。

「広西南嶺」のアジサイ属コアジサイ群(Series Petalanthaeに相当)の分布は、現時点では次のように想定することが出来ます。
東部:カラコンテリギ=(×)非分布可能性大/ヤナギバハナアジサイ=(?)不明/ジョウザン=(○)分布可能性大
中部:カラコンテリギ=◎豊産/ヤナギバハナアジサイ=×非分布/ジョウザン=○分布
西部:カラコンテリギ=×非分布/ヤナギバハナアジサイ=○稀産/ジョウザン=◎豊産

PM7:00汪洞帰着。町はずれのホテルに投宿。今日、開店したばかり(本来はたぶんまだ宿泊客は泊めない?)、最初の宿泊客で、しかも日本人と言うことで大歓迎を受けてしまいました。未使用のまっさらな部屋に泊まるのはなかなか気持ちが良いものです。お祝い用の食事を無料で御馳走になり、オーナーから、明日一緒に九万大山にハイキングに行こう、と強く誘われ、雨の中の中途半端な撮影のリベンジをしたい気持ちもあったのですが、人と一緒では自由な行動が難しくなってしまう(一か所で時間をかけて撮影が出来ない)し、本来なら宿泊せずに融水へ戻る予定だったこともあり、後ろ髪を引かれる思いで翌朝AM6:30のバスで融水に戻ることにしました。今になって考えれば、もう一日探索を行っておけばよかったと後悔しています。


ちょっと下った辺りではノリウツギがメインとなります。まだ開花初期です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 朝と夜のはざまで My Sentim... | トップ | 朝と夜のはざまで My Sentim... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

野生アジサイ」カテゴリの最新記事