青山潤三の世界・あや子版

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屋久島および伊平屋島のヘツカリンドウ(アズキヒメリンドウ)について

2011-01-13 22:21:27 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他

★青山のPCの状態が悪く、予定していた更新ができませんので、急遽、臨時の記事を投稿しました。尚、この後もしばらく、更新が出来ない可能性がありますが、ご了承ください。




ヘツカリンドウ/沖縄本島産と奄美大島産(上段1列)



アズキヒメリンドウ/伊平屋島産と屋久島産(下段1列)





ヘツカリンドウSwertia tashiroiは、北は鹿児島県の大隅半島や甑島から、屋久島、奄美大島を経て、南は沖縄県の沖縄本島や久米島に至る地域に分布する、リンドウ科センブリ属の野生植物。八重山諸島(石垣島・西表島)産は、ヘツカリンドウと同一種に含める見解や、近縁別種のシマアケボノソウS.makinoanaとする見解がある。
各地域産がどのような関係にあるのかについては、ほとんど全くと言って良いほど検証されていない。ことに、屋久島産と他の地域(沖縄本島、奄美大島、九州大隅半島)産との間に、著しい色彩の違いがあるらしい、ということは、指摘されてはいても、深く詮索されることはなかった。
屋久島産の花色の基調は、全て濃小豆色(蝦茶色、赤褐色、チョコレート色)。基本的な色調や斑紋は極めてよく安定していて、花冠内面の色調が白色(帯淡緑色、帯淡青紫色)になることや、花弁先半部や周縁に青紫色の班紋が出現することはない。
一方、奄美大島産や沖縄本島産の花色の基調は、うっすらと緑がかった白色(沖縄本島産はしばしば地色が薄紫色を帯びる)。花色、斑紋、花弁の数(4~7枚)や形(細長いものから円形に近いものまで)の変異は著しいが、基本的に地色は常に白(~淡緑、淡青紫)色、斑紋も青紫色で、小豆色や赤褐色を帯びることはない(九州の大隅半島産と沖縄本島中部の石川岳産は、白い花のみが咲くが、多様な変異の中の一形質が安定して出現しているものと考えている)。
このように、屋久島産と、その他の地域産とは明確に特徴が異なるのにもかかわらず、両者の関係は積極的に検討されていなかった。その理由は、奄美大島産や沖縄本島産のバリエーションが余りに豊かなために、「奄美大島や沖縄本島にも、紫色系の花が出現する、屋久島産の小豆色に連続しているのでは」と推測されてしまっている可能性。それと、全体の姿に、草丈が高いものや低いもの、葉が広く大きいものや狭く小さいものがあり、その多様な細部の変異にのみ目が行って、基本的な形質を基にした比較に取り組もうとする姿勢自体を、欠いていたからではないかと思われる。
これまでヘツカリンドウの種内分類群として報告されたものとしては、奄美大島産により記載された、変種オニヘツカリンドウvar.latifolia、沖縄県伊平屋島産により記載された、品種ヤエザキヘツカリンドウなどがあるが、前者は生育環境の違いに伴って出現する、多様で著しい変異を示す生態型の一つ、後者は八重咲きの個体変異に過ぎず、本質的な系統を探る分類形質とは無関係と考えてよい。

伊平屋島は、沖縄県の西北端に位置する、一島一村からなる離島である。筆者は、野生アジサイのトカラアジサイHydrangea kawagoeanaの探索に、度々この島を訪れている。トカラアジサイは、鹿児島県の三島列島黒島・口永良部島・トカラ列島の各島に分布し、なぜか奄美大島に欠如、徳之島と沖永良部島を経て、与論島や沖縄本島ではなく、伊平屋島に現れる、という不思議な分布様式を示している(屋久島のヤクシマコンテリギH.grossaseratta、台湾や中国大陸のカラコンテリギH.chinensisと同じ種とする見解もある)。
筆者は、そのトカラアジサイの探索と並行して、ヘツカリンドウの調査も行ってきた。この島のヘツカリンドウは、屋久島以外では唯一、小豆色の花が咲くのである。屋久島産同様に、例外なく地色が小豆色(屋久島産より色が淡く、チョコレート色と言ったほうが良いかも知れない)で、先半部に濃小豆色の多数の斑点を散布する。奄美大島と沖縄本島産は、著しく個体変異に富み、あらゆる班紋パターンが出現すると言って良いほどだが、屋久島産や伊平屋島産に共通する色彩・斑紋の個体は、全く見出せない。
伊平屋島の生物相は、トカラ列島や屋久島と、何らかの繋がりを持つように思われる。筆者は、その繋がりは、人類の活動が始まるより遥かに以前の、琉球弧が形成された、数100万年前まで遡って検証しなければならないと考えている。数100万年の時間の中で、沖縄の島々と、九州や、台湾や、中国大陸は、様々な組み合わせで、繋がったり離れたりを繰り返してきたはず。伊平屋島のトカラアジサイやヘツカリンドウも、その永劫の時間の流れと共に、今に至っているのである。
沖縄本島や奄美大島(および九州大隅半島)のヘツカリンドウと、屋久島や伊平屋島のヘツカリンドウ(仮に“アズキヒメリンドウ”と名付けておく)は、全く別物(別種?別亜種?別変種?)の可能性がある。今後、分布北限とされる鹿児島県甑島や、分布南限とされる久米島の探索、石垣島・西表島の近縁種「シマアケボノソウ」との関係などを調べたうえで、結論を出したいと考えている。

アズキヒメリンドウ=地色が小豆色(蝦茶色、赤褐色、チョコレート色)、班紋パターンは安定。
小豆色で基半部も濃色【屋久島】
チョコレート色(→☆)で基半部はやや淡色【伊平屋島】

ヘツカリンドウ(リュウキュウアケボノソウ、オキナワセンブリ)=地色は小豆色(蝦茶色、赤褐色、チョコレート色)でない。
一様に白(帯淡緑)色【大隅半島、沖縄本島石川岳】
様々な斑紋パターン(→☆☆)
地色は通常白色【奄美大島】
地色はしばしば淡青紫色【沖縄本島ヤンバル】


(→☆☆)奄美大島産・沖縄本島産の変異の傾向
●花弁の形と班紋の変異は著しい。●一般に山上部原生林の個体は、花被片が細くて華奢。●一般に山麓部の開けた環境の個体は、花被弁が幅広く大型。●蜜腺は単一または二分、形は多様。●花被片の数は4~7枚(現時点でのチェック)。●花弁先半の模様は様々だが、常に濃青紫色。一様に塗りつぶされることが多く、斑点となる場合は、通常、側辺や下辺が濃く縁取られる。●同一地点に生える株でも、花色、斑紋、蜜腺の形状などの変異は多様。●同一株に咲く花にも、花の形、花色の濃淡、花被片の数などに顕著な変異が見られる(花色と花弁の模様は共通する)。●場所により、白一色の個体のみ出現する地域(石川岳ほか、大隅半島産も同様)、多様な色彩斑紋の個体が出現するが白一色の個体は見られない地域、白一色の個体を含む多様な色彩斑紋が出現する地域、地色の青紫色が強く表れる地域、など様々。■茎高や葉の大きさは、環境により著しい変異を示す。人為の手が入った場所の、例えば刈り取られて主茎が切断された株などでは、茎高1~2㎝の株に、小さな葉と、比較的大型の花を多数付けることがある。■当年の実生株と、2年目以降の株では、花数、(開花期を含む)開花状況などに、かなりの差が見られる。

(→☆)伊平屋島産の変異の傾向
●花色は、一般に屋久島産ほど鮮やかではなく、屋久島産に近い赤味強い濃色の個体、やや黒ずんだチョコレート色の個体、明るい茶褐色の個体など。いずれも屋久島産同様、蜜腺から先半分に多数の濃小豆色紋を散布する。●花弁の形は比較的多様で、花色にも(同一株の花でも)かなり顕著な濃淡の差があるが、それ以外の変異は少ない。●蜜腺は単一。●花被片の数は4~6枚(現時点でのチェック)。■については、沖縄本島・奄美大島産と共通。

要約
屋久島・伊平屋島産は、例外なく地色が小豆色(蝦茶色・赤褐色・チョコレート色)で、単一の蜜腺を中心に、先半部に濃小豆色の多数の斑点を散布する。

その他の地域(大隅半島・奄美大島・沖縄本島)では、地色や模様が小豆色になる個体は無い(地色は白・淡緑・淡青紫、斑紋は濃青紫)。奄美大島と沖縄本島産は、著しく個体変異に富み、あらゆる班紋パターンが出現すると言って良いくらいだが、屋久島・伊平屋島産に共通する色彩・斑紋の個体は、全く見出せない。

大隅半島(ネットでの検索画像による)・沖縄本島石川岳産は、白地(帯淡緑色を含む)に緑色の蜜腺を備えただけの、最もシンプルなタイプ。これは、奄美大島・沖縄本島(ヤンバル地域)産に見られる、著しい変異の一方の端の形質が固定されたものと仮定しておく。

本来のヘツカリンドウ(リュウキュウアケボノソウ・オキナワセンブリ)と、屋久島・伊平屋島タイプは、異なる系統に帰属する可能性が強く、近い将来、分類群を分けるべき(別亜種または別種)と考え、アズキヒメリンドウの和名を仮称しておく。

文献上の分布記録がある、甑島、徳之島、久米島産が、それぞれどちらのタイプに属するかの検証。種子島、三島列島、口永良部島、トカラ列島、沖永良部島など、未記録地域の再調査。石垣・西表島産シマアケボノソウとの関係の考察。台湾(文献記録あり)および中国(文献記録なし)などにおける(近縁種の)分布可否のチェック。DNAの解析による、各地域個体群の系統解析。以上を行った後、分類群の再編成を行う。

センブリ属の中での系統的位置付け(アケボノソウ、チシマセンブリ他との比較)。





《参考/アケボノソウ近縁種》左:中国雲南省高黎貢山、右:台湾合歓山

2011年度の調査予定

2011.10.20-10.25○甑島
2011.10.26-10.31■九州(大隅半島)
2011.11.01-11.05×黒島
2011.11.06-11.10×種子島
2011.11.10-11.15×口永良部島
2011.11.15-11.20●屋久島
2011.11.20-11.25×口之島
2011.11.25-11.30●奄美大島(■湯湾岳)
2011.12.01-12.05○徳之島
2011.12.06-12.10●伊平屋島
2011.12.10-12.15●沖縄本島
2011.12.15-12.20○久米島
2011.12.20-12.25○石垣島
2011.12.25-12.31○西表島
2012.01.01-01.05○台湾(北部山地)
2012.01.06-01.10×緑島

●調査済み、■生育地特定、○文献上の分布地、×文献に記録なし










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