青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

ヘツカリンドウ(辺塚竜胆)とアズキヒメリンドウ(小豆姫竜胆)-2

2011-01-10 15:48:08 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他

Swertia tashiroiの2つの系統について Ⅱ

大和と琉球と大陸のはざまで~屋久島はどこにある?[10]

一昨日、16日ぶりで、那覇に戻って来ました。朝、「アズキヒメリンドウ」を撮影後、9時の船便で運天・名護経由で辺土名、「ヘツカリンドウ」の再探索のため、湯野岳~与那覇岳~森林公園と、いつものごとくハードスケジュールのはしご登山をこなし、夜、高速をヒッチハイクして那覇へ。

昨日の地元の新聞に、伊平屋島に関する面白い記事(正確には、載るべき伊平屋島が載っていないという興味深い記事)が載っていたので、その話を紹介します。

「ふるさと納税」という話題。各自治体が、どれだけ寄付を受けたか、という一覧表です。寄付の多くは本土からのもので、おおむね知名度の大小に比例し、観光主体の自治体ほど潤っている、ということらしいのです。

沖縄県の41市町村の3年間の統計では、伊平屋村は計36万円で39位。最下位の南風原町(那覇に隣接する沖縄県で唯一海に面していない小さな町)、40位の北大東島村(太平洋の真ん中の孤島、ちなみに南大東島は38位)に、かろうじて勝っている程度で、南隣の小さな島の伊是名村の10分の1強、人気の竹富町の約50分の1、那覇市(3400万円)の約100分の1です。

ちなみに、伊平屋島は、面積では、先島地方の西表・石垣・宮古を除く沖縄本島周辺の島としては(本島の属島とも言える伊江島以外では)久米島と並ぶ大きな島なのです(久米島町の納税額は約30倍)。

そして昨年度に限れば、伊平屋村の納税額は、何とゼロ円!ゼロ円は渡名喜村とただ2つだけ(久米島町750万円、那覇市2200万円)。

でも、僕が本当に驚いたのは、そのこと自体ではありません。この記事については、1面2面ぶちぬきで載っていて、どこそこの自治体では納税額が少なく、どこそこは多い、その理由を推察し、少ない各自治体では、どのように今後の取り組みを考えているかなどを、詳しく解説しているのですが、(本来なら最も重点的に紹介されるべき)昨年度と3年累計を合わせれば断トツ最下位の伊平屋村については、なんと一言も触れられていない!のです。

伊平屋島の、一般的な(存在感が希薄という)位置付けが、端的に表れているような気がします。

以前にも述べたし、後ほどまた詳しく述べる予定でいますが、一言で言うと、最も沖縄らしからぬ沖縄の離島、ということでしょう。沖縄の象徴とも言うべき周囲の海、なかんずくリーフは、沖縄でも一番を争うほど美しいのです。では、何が沖縄らしからぬイメージの原因となっているのでしょうか?

山が多いことは、一つの要因になっているのかも知れません。島全体が山なみをなし、山と山の間には、広い平地もあります。全島平旦だったり、島全体が山で覆われていたりすればともかく、山と平地が交互にあり、水田にも恵まれているというのは、沖縄の離島のイメージでは無いのかも知れません。

一般の日本人か思い浮かべる“沖縄の離島らしさ”というのは、ある意味では(都会の若い女性に受ける要素の)重厚ではない“薄っぺらさ”が、必要とされるのかも知れない。この島では、他の沖縄の離島に付きものの、都会風のチャラチャラした女の子の姿を、あまり見かけない様に思います。反面、地元の若者の定着率は、かなり高いようです。「過疎と観光の島」ではない、地域としての“健全さ”が感じとれます。

年末年始、僕が島の施設に滞在することになって、役場の(臨時)職員のかた2人が、詰めてくれることになりました。ともに20代の若者で、といっても奥さんも子供もいるのですが、日中調査に出かけていることの多い僕のために(夜は僕一人)、交互に留守番をしてくれるというわけです。大晦日も元旦も出勤ですから、申し訳ない思いでいっぱいです。地元出身の安里君と、夫人が島の方という玉城君のお二人。玉城は「たましろ」と読みます。同じ字で「たまき」という職員の方もいて、こちらは地元の方。同じ沖縄でも、地域によって読み方が異なるわけです。

玉城君の出身地は、沖縄本島南部の糸満です。2年前、奥さんの実家のある伊平屋島に移り住んだのですが、糸満と伊平屋島の、
風土や風習の余りの違いに、面喰ったと言います。糸満-伊平屋島間は約100㎞。反対方向の東北東に100㎞行けば、沖永良部島の先に到達します(*)。

調査で繰り返し登った島の最高峰の賀陽山(293.8m)には、沖縄県最北の1等三角点が設置されています。ちなみに、沖縄県の山のうち、この賀陽山だけが山名に“山(さん)”がつきます。沖縄県の山の大半は、高きも低きも“岳(だけ)”なのです(**)。

太平洋戦争後、北緯27度線以南が日本領土から切り離され、アメリカの統治下に入ったというのは周知の事実ですが、この島のみは例外で、27度線の北に位置しています。ちょうど僕が滞在していた島の南端の宿舎のすぐ前を、北緯27度線が横切っているのです(***)。

沖縄県では、ほとんどの離島に飛行場がありますが、伊平屋島と伊是名島にはありません。沖縄本島により近い伊是名島では、伊平屋島に比べればフェリーの欠航(波が4m以上あると欠航、冬場は何日も欠航が続くこともあります)はずっと少ないとのこと、従って急ぎ本島に渡らねばならぬ時は、漁船で伊是名島に渡ってから、改めてフェリーに乗る、という手段をとる場合もあるようです。ちなみに伊是名島の観光客向けのキャッチフレーズは“ハブのいない島”。伊平屋島は、本島からより離れているのにもかかわらず、ハブの巣窟なのです。

前に、伊平屋島の存在感の薄さ、ということに触れました。でもそれは観光客的な視点で感じること。逆に言えば、観光化されていない分、本来の“沖縄らしさ”が残っているとも言えます(昨日、那覇への帰りに車に乗せて頂いた、高校教師で沖縄の民俗を撮影しているアマチュアカメラマンの平良さんの重点的フィールドの一つも、伊平屋島だそうです)。

そして、なんと言っても、魅力に溢れた生物相。もっとも、魅力的であることと、“派手”であることは異なります。伊平屋島に対侍する沖縄本島のヤンバル(与那覇岳の周辺地域)には、ヤンバルクイナをはじめとした“スター生物”がいて、全国からの注視を集めているわけですが、そこに居を構える環境庁の自然保護センターでは、地味な伊平屋島には全く無関心なようで、調査のために足を運ぶことは皆無らしいのです。

この自然保護センターでも数日お世話になったのですが、地元の職員や琉球大学からの派遣調査員の方々の親切さとは対照的に、館を取り仕切っている本省からの出向であろう若いキャリアの人の、この上もなく嫌味で非人間的・差別的な態度には、心底がっかりしてしまいました。

ひるがえって伊平屋島。民間のリゾート施設が全くといってほど無いこの島にあって、唯一の大規模な公共施設である交流センターを、年末年始、僕が一人占めして使っていたことになるのですが、その間、役場の職員をはじめとした島の方々から、様々な形での暖かいもてなしを受けました。何よりも、島の自然や風土の解明と紹介に、皆で取り組んでいこうという積極的な姿勢が感じられたことが、嬉しかったです。

そのお返しに、微力ながら僕も(調査や広報の)一端を担うことが出来れば、と思っています。安易に受け入れ態勢を作ることにより、素朴な重厚さが失われて、チャラチャラした軽薄さに覆われてしまいかねないのですが、その心配は、この島に限っては大丈夫でしょう。

この後「あやこ版」では、今月いっぱい、伊平屋島と対岸のヤンバル地域の「ヘツカリンドウ&アズキヒメリンドウ」探索記を掲載していく予定です。並行して「青山潤三ネイチャークラブ」のほうでも、「アズキヒメリンドウ」についての報文を載せて行くつもりでいます(開始前に報告します)。よろしく。

(*)沖縄本島の「与那覇岳」然り、石垣島の「於茂岳」然り、西表島の「コザ岳」然り、、、。沖縄県だけでなく、南西諸島全域を通じて、「岳」の山名が主体であるように思えます。徳之島の「井之川岳」、奄美大島の「湯湾岳」、諏訪瀬島と中之島の「御岳」、屋久島の「宮之浦岳」ほか、九州本島に入って大隅半島南部の「稲尾岳」や「与甫志岳」、、、。大隅半島の付け根の「高隅山」辺りから「山」が現れ、「紫尾山」「霧島山」「市房山」「国見山」「大崩山」「祖母山」「阿蘇山」、、、と続きます。

(**)伊平屋島から約100㎞の沖永良部島から更に約100㎞で奄美大島、更に100㎞でトカラ列島諏訪瀬島、更に約100㎞で屋久島、更に約100㎞で九州本土南端の薩摩・大隅半島。南に目を転じると、伊平屋島から約100㎞の沖縄本島南部の糸満から、約250㎞で宮古島、更に約100㎞で石垣島、更に約100㎞で与那国島、更に約100㎞で台湾です。伊平屋島は、九州と台湾の、ほぼ中間地点(距離ではやや九州寄り、緯度ではやや台湾寄り)に位置していることになります。

(***)。伊平屋島は、有人島としては、むろん沖縄県の北端に位置しますが、無人島では、さらに100㎞ほど北東にある硫黄鳥島(奄美鳥島)が沖縄県の北端となります。緯度の上では徳之島の西方に相当しますが、なぜか鹿児島県ではなく沖縄県に所属し、しかも、位置的に近い伊平屋村ではなく、反対側の南西方向に更に100㎞以上離れた久米島町の管轄となります。



1月8日朝。伊平屋島の宿舎から、対岸のヤンバルの山々を望む。どこが最高点か判別し難い、なだらかな山なみが続く。




1月8日夕。ヤンバル環境庁センターの上の畑から、伊平屋島を望む。8つ程の山が南北に連なり、左から2番目が賀陽山。




朝の伊平屋島宿舎前の海岸。青い海は、暴風雨の日も、晴れている日も、いつも同じような表情。背後の山の右が賀陽山




島の南端の宿舎のすぐ前に、北緯27度線が横切っている。



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