青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

大和と琉球と大陸のはざまでⅡ~屋久島はどこにある?・1

2010-12-10 15:16:15 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他
(東シナ海周遊&長江遡行紀行)

黒島/ハラン7つの謎?(+α)

前回だか前々回だかに、黒島「ハラン7つの謎」をメモした草稿があるのだけれど、どこかに紛れ込んでしまって見つからない、出て来次第紹介します、と記しました。見つけ出したので、この機会に紹介しておきましょう。

ハランの謎:その1
ハランは、大都市の都心部をはじめとして、日本中どこにでも植えられています。葉の鑑賞の為といわれますが、それほど美しいというわけでもないのに、なぜこんなにも普及しているのでしょう。

ハランの謎:その2
お寿司や弁当箱の中仕切りに利用されるようになったのは、何故? いつ頃から、どのような地域で、利用が始まったのでしょうか。

ハランの謎:その3
野生種は? 中国渡来と考えられてきたみたいですが、中国にはハランそのものが分布しない可能性も。同属種は中国や台湾に多数あるので、それらとの関連を含む実態は?

ハランの謎:その4
黒島・諏訪之瀬島・宇治向島のトカラ火山列島地域にのみ自然分布しているのは何故? 3島とも本当に自生? かつては広い地域に分布していたものが、分布の端の辺境の地にだけ残ったのか、それともこの辺境の自生地から、中央へと広く普及していったのか。

ハランの謎:その5
黒島は、ハラン属(ハラン=広義のユリ科)の分布北限地であると同時に、ササ属(スズタケ=広義のイネ科)の分布南限地。お寿司の中仕切りや包み葉としては、葉の広い笹の仲間も利用されているはずですが、唯一、黒島にその両者が自生することは、何か意味がある?

ハランの謎:その6
黒島の古老に聞くと、現地ではハランを全く利用しない由。餅菓子などを包むのには、主にアオノクマタケラン(ショウガ科)の葉を利用しているらしい。中国や台湾では、ハラン属をどのように利用しているのでしょうか(一部地域では漢方に利用)?

ハランの謎:その7
ハランに限らず、狭義のトカラ列島と三島列島を跨いでの、トカラ火山列島共通固有分布種というのが、少なからず存在します。
そのなかには、トカラカンアオイのように、鳥などの他生物や、海流による拡散が、まず考えられない種も含まれます。一般には、各島の成立は、火山の活動により比較的新しい時代になされたもの、と考えられていますが、はるか以前から、基盤となる共通陸塊が存在していた、と考えることは出来ないでしょうか? その古陸塊は、近くの屋久島(意外に共通分布種が少ない)とではなく、中国大陸(大陸棚)との関連をもっていた可能性もあるかも知れません。

プラスα:その8
●黒島は、東京成田国際空港と、台北桃園国際空港の、ちょうど中間地点。(香港便などを含む)どの機もこの島の真上を通過し、ここでルートの微調整をします。

●黒島はまた、大阪・神戸-上海間船便の中間地点でもあります。2日目の朝、黒島を左手(右手)に見て、翌朝上海(神戸・大阪)に入港するのです(注:数年前から、このコースを通らず、瀬戸内海~九州西方コースを採るようになった)。

●黒島はまた、第二次大戦中、沖縄近海に向け九州の基地から飛び立った特攻機隊員が、最後に目に焼き付けた陸地です。この島の真上を飛行したのち、米軍の艦隊に向けて突撃玉砕したのです。

●黒島はまた、古代の海賊船、遣唐使船、さらには現代の密入国船に至るまでの有象無象が、その近海域を徘徊している一帯に位置しています。いわば、日本の玄関口でもあるのです。

●黒島はまた、、、。

最後の2項目は、一方(7)は、数100万年~数1000万年単位の、地史、あるいは生物の種の成立に関わる歴史、もう一方(8)は、現代から、せいぜい一万年前ぐらいまでの、人間の歴史。次元の異なる、混沌とした時間と空間の矛盾をそのままに、“ハラン”の謎に迫っていきたいと考えています。


とまあ、何年か前に、大見えを切ろうとしたのですが、一向に計画が進行する気配はありません。

近く(もしかしたら数日後)、伊平屋島での調査を終えた後、黒島にもヘツカリンドウ(黒島に分布するか否かは不明)の探索に行くかも知れないので、となれば、たぶん7回目の渡航となります。これまでの6回のうち、最初の3回はツクツクボウシの鳴き声調査、後の3回はトカラアジサイの調査です(大半は、トカラ列島口之島とセット)。最初に渡島したのは1980年だったように覚えています。平均して4~5年に一度の割合で訪れていることになります。

最初の渡島時に印象に残っていることのひとつは、船が陸地に接岸出来ず、牛と共にクレーンでつり上げられてボートに移動し、上陸したことです。それから30年が経ち、船は直接港に接岸出来るようになりました。でも、集落は小さく、宿や商店も僅かしかないことは、30年前と変ってはいません。最も変化があったのは、島中に“分不相応な”、まるで山岳ハイウエィーとも言うべき立派な道路網が張り巡らされた、ということでしょうか(その話については、項を改めて考察してみたいと考えています)。

その“山岳ハイウエィー”の一角から、小さな沢(島の北面の中里川源流)を詰め、最高峰・櫓岳622mを中心とした主稜線を縦走する「自然観察路」が作られています(以前は、全く道のない山の急斜面をしゃにむに登って、稜線に達したのです)。原生林の中に細い(でもしっかりした)トレイルが切り開かれている以外は、特に人為的な手は加わっていない、気持ちのよいトレッキングコースで、「あなたのお気に入りのフールドは?」という質問を受けた時には、迷わずここを挙げることにしています。

ハラン(広義のユリ科植物で、オモトなどにやや近縁?)の野生状態での分布地は、宇治向島、黒島、諏訪瀬島の3か所。花は極めて地味(ほぼ褐色)で、カンアオイのように、地面すれすれに咲くようなのですが、僕はまだ、野生状態では出会ったことがありません。黒島山上部雲霧帯の原生林の林床を、ちょうど本土のササ類のように、一面に群落を成していることからも、明らかに在来の野生原植生であると思われます。

一帯は、屋久島と共に分布南限を成すアカガシ林で、巨大なオオタニワタリが、あちこちの樹の幹や枝に着生するなどして、トロピカルなイメージが醸し出されています。でも、仔細に観察すると、ハラン以外の多くの植物も、一癖も二癖もある不思議な存在で、この島独自の植生を構成していることが分かります。

●スズタケ:ササ属としての分布南限(スズタケ属として独立の属を設置する見解もある)。【→屋久島のヤクザサはヤダケ属(ちなみに西表島のコザタケササはメダケ属)】。
*黒島の低地帯を広く覆うササは、メダケ属のリュウキュウチクです。

●トカラカンアオイ:三島~トカラの固有種。【→オニカンアオイ、クワイバカンアオイ】
*分布域の島々は、成立以来ほかの大陸島と繋がったことがないと思われ、なおかつ、それぞれの島と島の間は、深い海溝で閉ざされていることから、なぜ島と島をクロスオーバーして分布するのか、大きな謎と言えます。

●オキナワテイショウソウ:分布北限種。トカラ、奄美、沖縄、八重山の各島、台湾を経て、東シナ海対岸の沿海部に至ります。【→ホソバハグマ、キッコウハグマ】*本種のように、屋久島には分布せず、黒島や口永良部島や口之島などの“トカラ火山列島”にのみ分布する植物や動物・昆虫は、かなりの種数に登るはずです。

●トカラアジサイ:分布北限種。黒島から、口永良部島、トカラの各島、(奄美大島には産せず)徳之島を経て、沖縄本島の西北部に位置する伊平屋島(ちょうど今、僕が滞在しているところ)に至ります。【→ヤクシマコンテリギ、コガクウツギ】*なお、ほかに黒島産の野生アジサイとしては、ヤマアジサイ(屋久島、種子島とともに、分布南限)と、タマアジサイ(地域固有変種トカラタマアジサイ、種を大きく捉えれば、南=台湾、北=本州中部に隔離分布し、黒島は中間域に当たる)が知られてます。

●ビロウドカジイチゴ:別称ハチジョウイチゴ。伊豆諸島、西~南九州沿岸部、トカラ列島。【→リュウキュウイチゴ、ヤクシマキイチゴ】

いずれも、屋久島には産せず、それぞれ黒島には分布しない別の近縁種に入れ替わります(【→】)。

逆に、ツクツクボウシは、黒島産と屋久島が共通、一方、種子島産やトカラ列島産は、本州産と共通します。




アラカシ原生林中の小渓流の周辺。ハランのほか、スズタケ、トカラカンアオイ、オキナワテイショウソウ、ヤツデなどが見える。




ハラン(地域固有)、トカラカンアオイ(地域固有)、オキナワテイショウソウ(分布北限)、ツワブキ。後方の林床はスズタケ(分布南限)の群落。





コメント
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