goo blog サービス終了のお知らせ 

青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

大和と琉球と大陸のはざまでⅡ~屋久島はどこにある? (2)

2010-12-21 20:52:26 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他
 




ヘツカリンドウ7つの謎 1

沖縄県の最北端の島、伊平屋島に行って来ました。1泊2日の予定が、連日の悪天行、船が欠航し、4泊5日の行程となってしまいました。「屋久島はどこにある」は、この後、三島列島黒島の続き、口永良部島、トカラ列島口之島(いずれも主にトカラアジサイとツクツクボウシについての話題)と続く予定なのですが、先に、伊平屋島の報告を行っておきます。

伊平屋島には、今回が2度目4年ぶりの渡島です。そもそも、伊平屋島に注目したのは、トカラアジサイの南限の産地、ということからなのですが、今回の目的は、ヘツカリンドウです。ヘツカリンドウについては、「青山潤三ネイチャークラブ」(一部「青山潤三の世界・あや子版」に再録)に掲載した、「屋久島産と奄美大島産のヘツカリンドウは同じ種なのか?1」に詳しく述べていますので、そちらを参照して下さい。



屋久島産(小豆色で安定的)


奄美大島産(非小豆色で多様)



簡単に言うと、屋久島産だけが、他の地域(大隅半島、奄美大島、沖縄本島など)のものと、明らかに異なります。そして唯一、沖縄本島西北部の離島、伊平屋島産のみが、屋久島産に繋がる形質を有している可能性があります。以前、ネットで「ヘツカリンドウ」をチェックしていた時に、伊平屋島の植物の写真の中に、屋久島以外で唯一「屋久島タイプ」の特徴を示すヘツカリンドウの写真を見かけたからです。

とは言っても、伊平屋島の対岸の沖縄本島産は、大隅半島産や奄美大島産同様に、屋久島産とは全く異なるタイプですし、紹介されたブログ自体がすぐに無くなってしまい、再チェックが出来なかったことなどから、何らかのミスである可能性が強いと思ってはいたのです。

でも、場所が「伊平屋島」となれば気になります。なにしろ、トカラアジサイ(≒ヤクシマコンテリギ)の飛び離れた南限産地であるわけで、この植物も対岸の沖縄本島では欠如して(あるいは別系統のリュウキュウコンテリギに置き換わって)います。そのこともあって、もしかすると、本当に屋久島タイプのヘツカリンドウが生えている可能性があるかもと、調査に向かうことにしたのです。

ヘツカリンドウの生育地は、北限産地(*1)の「辺塚」(大隅半島南部)といい、南限産地(*2)の「辺土名」(沖縄本島北部)といい、「辺境」そのものの地域。撮影には、相当な苦労を要さねばなりません。紆余曲折を繰り返しつつ進めている探索行の、中間報告を行っておきます(*1→正確には甑島、*2→正確には本島中部の石川岳)。

まず、南西諸島の全体像と、伊平屋島の位置関係を。

九州と台湾の間に連なる南西諸島は、大きく3つの地域に分かれます。屋久島・種子島と、三島列島・トカラ列島から成る「北琉球」、
奄美群島と沖縄本島周辺の島々からなる「中琉球」、先島諸島、すなわち宮古島、八重山諸島(石垣島・西表島)、与那国島などからなる「南琉球」です。一般に「琉球」と言う時は「北琉球」を含まず「中琉球」と「南琉球」のみを指すことが多いようですし、行政単位では、「北琉球」と「中琉球」の北半(=奄美群島)が鹿児島県、「中琉球」の南半(=沖縄本島周辺)と「南琉球」が沖縄県です。

生物地理学的には、「中琉球」が、この地域独自の固有的生物を数多く育むのに対し、「北琉球」と「南琉球」は、それぞれ「日本本土」や「台湾」および「中国大陸」などとの、強い結びつきが見てとれます。ちなみに、「中琉球」と「南琉球」は、こと(種形成に至る時間レベルでの)遺存的固有性という視点から見れば、明確に異質です。両地域の間には、一般に信じられているような、生物の固有性に基づく共通性はありません(そのレトリックに対しての問題提起は、拙書「大和と琉球と大陸のはざまで~世界遺産の森・屋久島」に詳しく記述しています)。むしろ、北琉球と中琉球のほうが(極めて複雑ではありますが)地史的な相関性を、より強く備えているのです。

中琉球は、北半部が奄美群島、南半部が、沖縄本島とその周辺諸島(本島南西部の慶良間諸島・粟国島・久米島などと、北西部の伊是名島・伊平屋島)から構成されます。沖縄本島は、地形・地質や生物相から見て、さらに北部と南部に大別出来ます。大雑把に言えば、ちょうど屋久島と種子島がくっついた関係に見てとって良いかも知れません。那覇市などを含む南部は、種子島同様に平坦で、住居地や耕作地として、ほぼ開発され尽くしています。一方、北部は山岳や森林に恵まれ、いわば屋久島に相当する地域で、重要な生物の多くは、この一帯を中心に生育・棲息しています。

北部は、更に2つの地域に分けることが出来ます。ひとつは、島の南部からそのまま北へ延びる“ヤンバル”と呼ばれる地域(行政上は、大宜味村・国頭村・東村)で、本島最高峰の与那覇岳(503m)を擁しています。もうひとつは、標高453mの八重岳を擁する、西へ丸く半島状に張り出した地域(行政上は、本部町・今帰仁村)で、その先に、伊是名島、伊平屋島が続きます。両地域の接点が、名護市です。本島南部と合わせると、おおむね“y字型”を示す、と考えて良いでしょう。

南西諸島の生物相を考える際、忘れてはならないことは、空間的に示された現在の様相のみに囚われることなく、時間軸を伴った、進化の大きな流れの中での一環としての“今”を把握する必要があると言うことです。私たちの眼前に示されている類型は、様々な時代の様々な組み合わせのひとつの断片でしかありません。それを絶対的な類型として答えを決めつけてしまうことは、大きな過ちに繋がりかねません。それぞれの島の互いの相関性は、必ずしも、距離や順列、あるいは地史などに基づいた解析だけでは測り知れない、非常に複雑な入り組み方をしている、ということを、肝に銘じておかねばならないのです。

そのような前提で(ということは、無数に考えられる可能性のうちの、ひとつの組み合わせの類型として)、大雑把に南西諸島各島(南琉球を除く)の相関性を考えると、島々は東西(外内)2つのライン上に連なっている、という見方も出来ます。ひとつは、種子・屋久-奄美-沖縄(ヤンバル)のライン、もうひとつは、三島・トカラ-硫黄鳥島-伊平屋島(-本部半島?)-久米島のラインです。

東(外)側の、沖縄本島(ヤンバル)のすぐ北に位置する島が、与論島。西(内)側の、久米島・粟国島あるいは本部半島から北に続く島が、伊平屋島。行政上は鹿児島県の南端となる与論島が、(一般の人々が感じるであろう)典型的な沖縄の島であるのに対し、行政上は沖縄県の北端となる伊平屋島は、最も沖縄らしからぬ沖縄の島、と言えるように思われます。“沖縄らしからぬ”というのは、観光的な面で、リゾート化していない、という点も、大いに関与しているでしょう。島が平旦でなく、山が多い(沖縄では珍しく連峰を成しています)ということが、リゾート化を阻んできた要因の一つかとは思います。でも、海は、他のどの島にも負けぬほど美しいのですよ。

一方、自然(生物相)という観点から論じると、沖縄の貴重な生物の大半は、ヤンバル地域に集中しています。海を挟みヤンバル地域に対応して位置する伊平屋島は、島の規模から言えばヤンバル地域に遥かに及ばず、よって育まれる生物相もずっと単調ではあるのですが、子細に見渡せば(ちょうど、屋久島と口永良部島の関係のごとく)互いに異なるファウナ・フロラを持っていることが知れます。先に記した「必ずしも、距離や順列、あるいは地史などに基づいた解析だけでは測り知れない、非常に複雑な入り組み方」を、如実に示しているのです。



伊平屋島の最高峰、賀陽山294mから、島の北半部を望む。







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大和と琉球と大陸のはざまでⅡ~屋久島はどこにある?・1

2010-12-10 15:16:15 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他
(東シナ海周遊&長江遡行紀行)

黒島/ハラン7つの謎?(+α)

前回だか前々回だかに、黒島「ハラン7つの謎」をメモした草稿があるのだけれど、どこかに紛れ込んでしまって見つからない、出て来次第紹介します、と記しました。見つけ出したので、この機会に紹介しておきましょう。

ハランの謎:その1
ハランは、大都市の都心部をはじめとして、日本中どこにでも植えられています。葉の鑑賞の為といわれますが、それほど美しいというわけでもないのに、なぜこんなにも普及しているのでしょう。

ハランの謎:その2
お寿司や弁当箱の中仕切りに利用されるようになったのは、何故? いつ頃から、どのような地域で、利用が始まったのでしょうか。

ハランの謎:その3
野生種は? 中国渡来と考えられてきたみたいですが、中国にはハランそのものが分布しない可能性も。同属種は中国や台湾に多数あるので、それらとの関連を含む実態は?

ハランの謎:その4
黒島・諏訪之瀬島・宇治向島のトカラ火山列島地域にのみ自然分布しているのは何故? 3島とも本当に自生? かつては広い地域に分布していたものが、分布の端の辺境の地にだけ残ったのか、それともこの辺境の自生地から、中央へと広く普及していったのか。

ハランの謎:その5
黒島は、ハラン属(ハラン=広義のユリ科)の分布北限地であると同時に、ササ属(スズタケ=広義のイネ科)の分布南限地。お寿司の中仕切りや包み葉としては、葉の広い笹の仲間も利用されているはずですが、唯一、黒島にその両者が自生することは、何か意味がある?

ハランの謎:その6
黒島の古老に聞くと、現地ではハランを全く利用しない由。餅菓子などを包むのには、主にアオノクマタケラン(ショウガ科)の葉を利用しているらしい。中国や台湾では、ハラン属をどのように利用しているのでしょうか(一部地域では漢方に利用)?

ハランの謎:その7
ハランに限らず、狭義のトカラ列島と三島列島を跨いでの、トカラ火山列島共通固有分布種というのが、少なからず存在します。
そのなかには、トカラカンアオイのように、鳥などの他生物や、海流による拡散が、まず考えられない種も含まれます。一般には、各島の成立は、火山の活動により比較的新しい時代になされたもの、と考えられていますが、はるか以前から、基盤となる共通陸塊が存在していた、と考えることは出来ないでしょうか? その古陸塊は、近くの屋久島(意外に共通分布種が少ない)とではなく、中国大陸(大陸棚)との関連をもっていた可能性もあるかも知れません。

プラスα:その8
●黒島は、東京成田国際空港と、台北桃園国際空港の、ちょうど中間地点。(香港便などを含む)どの機もこの島の真上を通過し、ここでルートの微調整をします。

●黒島はまた、大阪・神戸-上海間船便の中間地点でもあります。2日目の朝、黒島を左手(右手)に見て、翌朝上海(神戸・大阪)に入港するのです(注:数年前から、このコースを通らず、瀬戸内海~九州西方コースを採るようになった)。

●黒島はまた、第二次大戦中、沖縄近海に向け九州の基地から飛び立った特攻機隊員が、最後に目に焼き付けた陸地です。この島の真上を飛行したのち、米軍の艦隊に向けて突撃玉砕したのです。

●黒島はまた、古代の海賊船、遣唐使船、さらには現代の密入国船に至るまでの有象無象が、その近海域を徘徊している一帯に位置しています。いわば、日本の玄関口でもあるのです。

●黒島はまた、、、。

最後の2項目は、一方(7)は、数100万年~数1000万年単位の、地史、あるいは生物の種の成立に関わる歴史、もう一方(8)は、現代から、せいぜい一万年前ぐらいまでの、人間の歴史。次元の異なる、混沌とした時間と空間の矛盾をそのままに、“ハラン”の謎に迫っていきたいと考えています。


とまあ、何年か前に、大見えを切ろうとしたのですが、一向に計画が進行する気配はありません。

近く(もしかしたら数日後)、伊平屋島での調査を終えた後、黒島にもヘツカリンドウ(黒島に分布するか否かは不明)の探索に行くかも知れないので、となれば、たぶん7回目の渡航となります。これまでの6回のうち、最初の3回はツクツクボウシの鳴き声調査、後の3回はトカラアジサイの調査です(大半は、トカラ列島口之島とセット)。最初に渡島したのは1980年だったように覚えています。平均して4~5年に一度の割合で訪れていることになります。

最初の渡島時に印象に残っていることのひとつは、船が陸地に接岸出来ず、牛と共にクレーンでつり上げられてボートに移動し、上陸したことです。それから30年が経ち、船は直接港に接岸出来るようになりました。でも、集落は小さく、宿や商店も僅かしかないことは、30年前と変ってはいません。最も変化があったのは、島中に“分不相応な”、まるで山岳ハイウエィーとも言うべき立派な道路網が張り巡らされた、ということでしょうか(その話については、項を改めて考察してみたいと考えています)。

その“山岳ハイウエィー”の一角から、小さな沢(島の北面の中里川源流)を詰め、最高峰・櫓岳622mを中心とした主稜線を縦走する「自然観察路」が作られています(以前は、全く道のない山の急斜面をしゃにむに登って、稜線に達したのです)。原生林の中に細い(でもしっかりした)トレイルが切り開かれている以外は、特に人為的な手は加わっていない、気持ちのよいトレッキングコースで、「あなたのお気に入りのフールドは?」という質問を受けた時には、迷わずここを挙げることにしています。

ハラン(広義のユリ科植物で、オモトなどにやや近縁?)の野生状態での分布地は、宇治向島、黒島、諏訪瀬島の3か所。花は極めて地味(ほぼ褐色)で、カンアオイのように、地面すれすれに咲くようなのですが、僕はまだ、野生状態では出会ったことがありません。黒島山上部雲霧帯の原生林の林床を、ちょうど本土のササ類のように、一面に群落を成していることからも、明らかに在来の野生原植生であると思われます。

一帯は、屋久島と共に分布南限を成すアカガシ林で、巨大なオオタニワタリが、あちこちの樹の幹や枝に着生するなどして、トロピカルなイメージが醸し出されています。でも、仔細に観察すると、ハラン以外の多くの植物も、一癖も二癖もある不思議な存在で、この島独自の植生を構成していることが分かります。

●スズタケ:ササ属としての分布南限(スズタケ属として独立の属を設置する見解もある)。【→屋久島のヤクザサはヤダケ属(ちなみに西表島のコザタケササはメダケ属)】。
*黒島の低地帯を広く覆うササは、メダケ属のリュウキュウチクです。

●トカラカンアオイ:三島~トカラの固有種。【→オニカンアオイ、クワイバカンアオイ】
*分布域の島々は、成立以来ほかの大陸島と繋がったことがないと思われ、なおかつ、それぞれの島と島の間は、深い海溝で閉ざされていることから、なぜ島と島をクロスオーバーして分布するのか、大きな謎と言えます。

●オキナワテイショウソウ:分布北限種。トカラ、奄美、沖縄、八重山の各島、台湾を経て、東シナ海対岸の沿海部に至ります。【→ホソバハグマ、キッコウハグマ】*本種のように、屋久島には分布せず、黒島や口永良部島や口之島などの“トカラ火山列島”にのみ分布する植物や動物・昆虫は、かなりの種数に登るはずです。

●トカラアジサイ:分布北限種。黒島から、口永良部島、トカラの各島、(奄美大島には産せず)徳之島を経て、沖縄本島の西北部に位置する伊平屋島(ちょうど今、僕が滞在しているところ)に至ります。【→ヤクシマコンテリギ、コガクウツギ】*なお、ほかに黒島産の野生アジサイとしては、ヤマアジサイ(屋久島、種子島とともに、分布南限)と、タマアジサイ(地域固有変種トカラタマアジサイ、種を大きく捉えれば、南=台湾、北=本州中部に隔離分布し、黒島は中間域に当たる)が知られてます。

●ビロウドカジイチゴ:別称ハチジョウイチゴ。伊豆諸島、西~南九州沿岸部、トカラ列島。【→リュウキュウイチゴ、ヤクシマキイチゴ】

いずれも、屋久島には産せず、それぞれ黒島には分布しない別の近縁種に入れ替わります(【→】)。

逆に、ツクツクボウシは、黒島産と屋久島が共通、一方、種子島産やトカラ列島産は、本州産と共通します。




アラカシ原生林中の小渓流の周辺。ハランのほか、スズタケ、トカラカンアオイ、オキナワテイショウソウ、ヤツデなどが見える。




ハラン(地域固有)、トカラカンアオイ(地域固有)、オキナワテイショウソウ(分布北限)、ツワブキ。後方の林床はスズタケ(分布南限)の群落。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする