功夫電影専科

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【特集:ジャッキーの失敗⑤】『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』

2010-08-19 23:23:40 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ポリス・ストーリー2/九龍の眼」
原題:警察故事續集
英題:Police Story 2
製作:1988年

●ジャッキーは『プロジェクトA』以降、旧来の功夫アクションから現代的なフリーファイトへとスタイルを移行し、大規模なスタントシーンを交えた作風に傾倒していった。『スパルタンX』『ポリス・ストーリー』等々…80年代中盤から後期にかけてのジャッキー作品は、まさに全盛の時代を迎えていたのである。
そんな中、ジャッキーは自ら掲げていた「続編は作らない」という禁を破り、『プロジェクトA2/史上最大の標的』の製作に携わった。ジャッキーにとって初の続編製作となった『A2』だが、ストレートなアクション活劇だった前作との差別化を図り、ストーリーとシチュエーションを重視した物語を構築。アクションシーン以外でも様々な試みが行われ、バラエティ豊かな作品に仕上がっている。サモハンとユンピョウが抜け、スタントシーンが激しすぎて飽和状態になったものの、これはこれで「手堅い良作」と言えるだろう。
 この『A2』で手応えを感じたジャッキーは、もうひとつの代表作である『ポリス・ストーリー』の続編製作にも乗り出した…が、残念ながらこちらは『A2』ほどの境地までには至っていない。
本作でジャッキーがやろうとしたことは何となく解る。『A2』は優れた作品であったが、前作の設定をあまり引き継がない方向で作られていた。かつてのメインキャラだった太保や火星はあまり目立っていないし、海上警察もほとんどモブ扱い。唯一前作との繋がりを感じさせるのは、所々に登場する海賊の残党たちだけであった。一方、この『九龍の眼』では前作のキャストを再結集させ、劇中の雰囲気も前作そのままに引き継がれている。そう、ジャッキーは本作で「忠実かつ正当な続編」を作ろうと計画していたのである。

 この作品を語る上で触れておかなければならないエピソードがある。
当時、一通り作品が完成した段階で突然ジャッキーは撮り直しを決行し、メインヒロインであったはずの朱寶意(エミリー・チュウ)の出演シーンは全てカット。当初のシリアスなプロットから路線変更し、今の形になってしまった…という話は皆さんもご存知のはずだ。この初期段階では、序盤に再登場する楚原(チュー・ヤン)&曹査理が黒幕として立ちはだかる予定だったらしい。だが、この路線変更によって楚原&曹査理は本筋とは全く関係の無いキャラになってしまい、完全に存在を持て余してしまっている。
 その楚原&曹査理、劇中で張曼玉(マギー・チャン)を殴り倒すわ、散々ジャッキーに嫌がらせをけしかけるわ、マスコミを利用してバッシングするわと、実に陰湿極まりない嫌がらせを繰り返している。恐らく、初期段階のシナリオでは最終的にジャッキーがリベンジを果たす展開になったのだと思われるが、実際の本編では2人とも"本筋と何の関係も無いお邪魔虫"でしかない。後々ジャッキーが派手にやり返すのなら連中の蛮行にも納得できたのだが、無関係で不快なだけなのだから堪ったものではない。
実はこの大幅な撮り直しは今に始まったことではなく、ジャッキーは昔からフィルムの浪費癖があったのだ。『ヤング・マスター』『ドラゴン・ロード』では膨大な数のアウトテイクを出し、『A2』でも未使用カットが幾つもあると言われている。本作はこの浪費癖のためにプロットがこじれ、主要キャストの出番を削除&登場人物を持て余した末にスタートダッシュを失敗するという失態を演じている。どうせ路線変更をするなら、このへんの嫌なシークエンスはバッサリと省き、爆弾魔VSジャッキーの攻防戦に専念してくれれば良かったのだが…。

 その後、中盤からジャッキーは世間を騒がす爆弾魔トリオと対決。張曼玉を人質に取られ、身代金の受け取りを請け負うことになってしまうが、すぐさま逆襲へ転じる…という緊迫感溢れるストーリーが展開されていく。このへんの雰囲気は前作そのもののノリで、爆弾解体からラストの大爆発までの流れも大変素晴らしい。
また、アクションシーンも前作から更なる進化を遂げており、日常の風景にまでスタントが織り込まれるという異常事態に発展している(笑)。ラストでは林國斌・張華・黎強權との3連戦が繰り広げられ、スタントと功夫アクションが見事に融合した高度なバトルを演出している。後半だけを評価するなら傑作と言っても差し支えないが、つくづく前半部でモタついてしまった事が悔まれる。続編である事を意識し、気を配ったことで失敗をもたらしてしまった…本作はそんな希有なケースであると言えるだろう。
 そして時代は90年代へと移り、ジャッキーは活躍の場をハリウッドへと求めつつあった。『レッド・ブロンクス』でアメリカの観客の度肝を抜き、『ファイナル・プロジェクト』ではワールドワイドな活躍を披露。そして『ラッシュ・アワー』へと至るわけだが、その前にジャッキーはかつての盟友と再会を果たしている。ところが、既にその盟友は昔日の勢いを逸していた…果たして、彼は一体何を望んで"この映画"を創り出したのだろうか?(次項へ続く)

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2 コメント

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返信!(2) (龍争こ門)
2010-08-26 00:00:19
醒龍さんこんばんは、お待たせしました!

>リッキーホイやラム・ウェイを起用して幅が出ていたと思いますし
 役者陣は敵味方共にかなり賑やかでしたね。サモハンやユンピョウが出られない分、頑張ろうとするジャッキーの気概が伝わってくるような絶妙のキャスティングでした。

>クーロンズ・アイの方は問題もありですかね。(日本のせいかもですね)
>ただ確かに後半の展開は良かったですよね。
 『九龍の眼』は『A2』と違って、作品の色が統一されないまま突っ切っちゃった感が強いですね。ストーリーの進行に楚原一味がいちいち噛みついてくるのもフラストレーションを煽る一因となりました。
しかし後半からは醒龍さんも仰る通り、怒濤の展開と凄まじいアクションがとても見事で、それだけに前半のモタつきが惜しいと思っています。

>今見れる香港版と日本版を比較したらどちらがよかったのか
 そういえば、日本版は121分で香港版は105分と尺が違ってましたね。日本版で何が付け足され、香港版で何が削除されているのか……こちらもこちらで気になります。現在フォーチュンスターから発売されているバージョンは121分版だそうですが…。
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続編もの (醒龍)
2010-08-23 13:03:24
こんにちは。毎回楽しませていただいています。プロA2はリッキーホイやラム・ウェイを起用して幅が出ていたと思いますし、(ついでに言うとキュートな女優陣もよかったので)私はどちらかというと1より2の方が好きですね。他にも個人的な思い入れはありますけどね。
クーロンズ・アイの方は問題もありですかね。(日本のせいかもですね)各方面からのプレッシャーがかなりきつかったのでは?と思ったりしています。ただ確かに後半の展開は良かったですよね。撮り直しとなったとしても完成した今見れる香港版と日本版を比較したらどちらがよかったのか。いまさらながらそんな事を考えたりしています。
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