功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

【特集:ジャッキーの失敗⑥】『ナイスガイ』

2010-08-23 22:33:39 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「ナイスガイ」
原題:一個好人
英題:Mr. Nice Guy
製作:1997年

●主人公のジャッキーはテレビでも人気の名コックだったが、あるとき女性記者をマフィアから救った際に、彼女が持っていた証拠品のビデオテープを(知らない内に)受け取ってしまう。これに気付いたマフィアのリチャード・ノートンは、荒くれ者どもを利用してビデオテープを奪おうと襲い掛かってくるのだが…。
本作は、ジャッキーの盟友であり武術指導者としても高名な洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の監督作だが、ファンの間では「ストーリーが杜撰すぎる」と問題視されている作品である。確かに、この強引なストーリー構成には疑問を感じる部分が多々あり、いくらジャッキー映画(あるいはサモハン監督作)だとしても許容しきれない雑さが見受けられる。全体の作風を見る限り、ストーリーにジャッキーが口出しした痕跡は見られないので、今回の失敗はサモハンに原因があると見て間違いないだろう。
 元々、サモハンの手掛ける映画作品にはストーリー性の薄いものが多かった。作風についても、行き当たりばったりな展開・必要の無くなったキャラクターは即座に殺す・しつこいギャグでストーリーを足止めする等々…どれも映画作品を作る上では致命的な欠点ばかりが目に付く。しかし、それでいてサモハン映画が香港でトップに君臨し得たのは、完成度の高い功夫アクションもさることながら、ブツ切りのストーリーをエンターティメントに昇華してしまうほどの手腕があったからに他ならないのだ(中でも『五福星』と『上海エクスプレス』はその"ブツ切り昇華"から生まれた傑作中の傑作で、次々と起こるイベントと個性豊かなキャラクターが作品の成功に貢献している)。
しかし、自信作だった『イースタン・コンドル』の興行的な失敗を境に、サモハンの監督作から勢いが失われていく事となる。辛うじて『サイクロンZ』では持ち直したものの、『ぺディキャブ・ドライバー』では劉家良との初共演を台無しにし、古装片の『戦神 ムーン・ウォリアーズ』では無個性な内容に終始。続く『金城武の死角都市・香港』でも野暮ったい出来に留まり、ようやく『ワンチャイ/天地風雲』で復活するのだが、90年代当時のサモハンは(製作者としても役者としても監督としても)際立った作品に巡りあっていない。彼にとって、この時期は正に"暗黒の時代"だったのかもしれない。
 過渡期の真っ只中にあったサモハンが監督に収まったこと、ハリウッド上陸で浮き足立ったジャッキーが本作をサモハン任せにしたことが本作の失敗に繋がったのだと考えられる。せめてリチャード・ノートンを動かして、ラストバトルに持ってきていたら幾分か結果は変わっていたと思われるのだが…。どちらにしろ、ジャッキーとサモハンの両者にとって、本作は苦い思い出の残る作品となったことだけは間違いないだろう。
さて、ジャッキーは数々の失敗を経験しながらも、映画の都・ハリウッドへと旅立った。しかし、そこでは香港映画とは勝手の違う様々な制約が待ち構えていた。保険会社との制約で思うように動けず、スタントシーンも容易に撮れなかったジャッキーは、たびたび香港に帰郷しては映画出演を続けていた。そんな中、彼の元に香港の映画スタッフから大型企画が舞い込んでくるのだが…次回、やっとこさ最終回です(次項に続く)

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Z)
2010-08-26 23:58:38
あれだけ動けるノートンが置物になってたのは勿体なかったと思います。
まあサモ・ハンにしてみれば
「ジャッキーVSノートンは『シティハンター』で一回やってるから同じ事やっても仕方ない」と判断した結果かも知れませんが・・
それならそれで他の「見せ場」を作るべきでした。
「やけに薄っぺらな屋敷潰して大団円」は幾らなんでも・・・

「死角都市・香港」は金城ファンの女の子に貸した翌日、「面白くない」の一言と共に突っ返された思い出しかありません。個人的には金城そっちのけでサモ・ハン、ユン・ピョウ大活躍だったので満足しましたが。

返信する
返信! (龍争こ門)
2010-08-29 02:21:24
Zさんこんばんは!

>「ジャッキーVSノートンは『シティハンター』で一回やってるから同じ事やっても仕方ない」
 印象が被るから避けたというのは十分考えられますね。しかし、そのためにノートンの見せ場が無いままテキトーに爆発で終わらせてしまったのは実に残念でした。

>「死角都市・香港」
 この作品での金城はどっちかというと準主役的なポジションにいましたが、あんまりパッとしませんでしたね。作品そのものもテンションも低く、相変わらずサモハンはバリバリ動けていますが、全盛期と比べると随分落ちます。
個人的には、ラストバトルを見辛い暗闇でやっちゃったのには不満を感じました(そういえば『メダリオン』の序盤とクライマックスも終始暗いステージが舞台だったような気が…)。
返信する

コメントを投稿