(シリーズ「08憲章」【2】へ)
◆一党独裁に叛旗!全面的民主化求める異例の檄文「08憲章」
中国共産党による一党独裁体制の終結と全面的な民主化を求めた「08憲章」と題する文書が12月10日、中国の学者や作家、弁護士,新聞記者など303名の署名とともにインターネット上で発表された。
知識人らの連署による政策批判や政治犯釈放要求は過去にも行われてきたものの、300名以上が実名を明らかにして公然と一党独裁を批判するのは極めて異例だ。
「08憲章」は著名な反体制評論家・劉暁波氏らが発起人となって起草されたもので、「一党独裁」と明記してはいないものの、
「新中国は名義上は『人民共和国』だったが、実質的には『党の天下』だった」
「執政党が政治,経済,社会の一切を独占し」
「その結果数千万人の生命が失われ、国民も国家も極めて惨憺たる代価を払うことになった」
などと一党独裁体制を真っ向から批判。その一方で多党制、三権分立、普通選挙制,基本的人権の尊重、共産党色の払拭などといった全面的な制度改革を実現することで中国が健全な民主国家に生まれ変わることができると主張している(囲み記事「『08憲章』の主張」参照)。
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中国当局は強硬姿勢でこれに対処するものとみられ、すでに劉氏ら複数を8日、「国家政権顛覆煽動罪」の容疑で刑事拘束。今後も署名者への監視・拘束が相次ぐのは必至だ。
ただしネット上で各所に転載された「08憲章」は現在でも中国国内から検索することができ、その大半はすでにアクセス不能となっているものの、一部のウェブサイトではいまだに全文を読むことが可能。これについては署名者が出揃ったところで一斉摘発を行うのではという見方もある。
しかし「08憲章」に賛同した署名者数は海外在住の中国人も含め,12日現在ですでに1000名を突破。中国国内では知識人だけでなく労働者、農民、企業経営者,プログラマー、大学生などの新規署名が目立ちつつあり、賛同者が従来の枠を超えて庶民の間にも広がる勢いを見せ始めている。
折しも主要先進国の景気後退を受けて、輸出頼みでやってきた中国経済は失速中。広東省だけですでに数万社が倒産したとみられ、突然の工場閉鎖や解雇通告、また経営者の夜逃げで失業者となった出稼ぎ農民たちが騒いで官民衝突に発展するなどの事件が頻発している。
不動産と株のバブルもはじけて原野商法や高利をうたった違法な資金集めなどの被害者による暴動も相次いで発生。一方で中国独特の歪んだ経済発展モデルが超格差社会という形で行き詰まった状態でもあり、待遇改善を求めるタクシー運転手が地域を越えて連携し、各地で同時多発的にストライキを決行したのは記憶に新しいところだ。
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こうして中国社会に不穏な空気が漂い始めた矢先、基本的に書斎派である知識人を中心に発表された「08憲章」が庶民レベルでも受け入れられることになれば、事態は意外な展開をみせる可能性もある。
署名者には耕地強制収用や再開発事業で生活の場を失った農民や市民など被害者に対する救済活動に奔走している人権派弁護士や、エイズ患者救済活動家などが多数名を列ねている。すでに半ば組織化されている被害者経由で一般市民などへのつながりが生まれていけば……?
あるいは、ユーザー数が2億人を突破し、都市部住民の代弁者として政府も無視できない存在感を示すようになったネット世論が、「08憲章」を好意的に受け止めて盛り上がるようであれば……?
生活に行き詰まって蹶起する事件が多発するなか、「民主化」という悠長なテーマを掲げた「08憲章」が一般層に受け入れられるかどうかは甚だ疑問だが、一党独裁体制やその必然的帰結のひとつである党官僚の汚職や特権ビジネスの蔓延を公に批判する、という凛然たるスタンスが共感を呼んで火種となり、反体制的なムーブメントが生まれるという「大化け」の目も。
ともあれ、中共政権に対する「叛旗」、知識人による「宣戦布告」ともいえる、ある意味歴史的な文書が出現しながら、日本のマスコミによる報道は遺憾ながら未だ詳細に欠け不十分だ。
こうなったら関係者に直接聞いてしまおう、ということで当ブログは無謀にも独自取材を敢行。
中国問題に関する評論や消息筋情報が満載で中国観察には欠かせない、香港の月刊誌『開放』の編集長にして著名なチャイナ・ウォッチャーである金鐘氏に話を聞いた。
同氏は劉暁波氏とも親しく、「08憲章」にもすでに署名している。有数の中国観察家にふさわしく、金鐘氏は「08憲章」の内容に対する充足感と希望を託す心情を吐露しつつも、「08憲章」が直面している厳しい現実を冷静に分析・解説してくれた。
「大化け」はやはり、夢で終わるのだろうか?
金鐘氏が編集長を務める『開放』はチャイナ・ウォッチャー必読の月刊誌。
画像クリックで同誌のウェブサイトへ。
◆「08憲章」の主張
●「自由,人権、平等、共和、民主、憲政」の六点を基本理念とする。
●「一党独裁」と明記していないものの、中共政権に真っ向からダメ出し。↓
「新中国は名義上は『人民共和国』だったが、実質的には『党の天下』だった。執政党が政治,経済,社会資源の一切を独占し、反右派運動、大躍進、文化大革命、六四(天安門事件)、また民間宗教活動や人権擁護運動への弾圧など一連の人権災害をもたらした。その結果数千万人の生命が失われ、国民も国家も極めて惨憺たる代価を払うことになった」
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主な具体的目標は下記の通り。
●多党制、普通選挙制、三権分立の実現と基本的人権の尊重。
●集会・デモの自由、表現の自由、言論の自由、結社の自由、報道の自由、出版の自由、宗教の自由、学術研究の自由の実現。
●私有財産の保護。
●財政・税制改革の断行と社会保障制度の確立。
●環境保護の強化。
●都市と農村の二本立てである戸籍制度の一本化。
●各組織における党委員会は国家による法治を著しく阻害するため廃止。
●イデオロギー色の濃い政治教育や政治科目試験の廃止。
●軍隊の国軍化(現在の人民解放軍は政府ではなく党中央の指揮下にある)。
●香港・マカオの自由な制度を保障し一国家二制度の実質を保つ。
●自由と民主を前提に台湾と対等な立場で協議の場を持ち、最終的には民主的憲法の下に中華連邦共和国の建国を目指す。
●過去の政治運動で迫害された者とその家族に対する名誉回復と国家賠償の実施。全ての政治犯、良心または信仰によって犯罪者とされた者の釈放。
(「下」に続く)