(シリーズ「08憲章」【3】へ)
週末ですので気楽にいきましょう。私も大きな仕事を終えてちょっと虚脱しているような感じです。
「08憲章」の署名者は依然増加中で……というか勢いが強まっている模様。
署名者名簿は発表された「08憲章」に添付されていた303名を「第一次」として、ネット上では第二次、第三次という形で新規署名者名簿が公開されています。この辺の情報はタレ込みサイト「博訊網」を定点観測していれば転載記事で拾えます。
●「博訊網」
http://news.boxun.com/
で、先ほどこのサイトをのぞいたところ、今日(12月14日)は「第四次名簿」が転載されていました。たぶん前日(13日)の署名者をまとめたものかと思われますが、これが何と1231名にものぼり、「08憲章」の署名者総数は2500名を超えました。
中国本土の署名者について職業を見ていると、すでに知識人よりもホワイトカラー、ブルーカラー、農民、大学生、自営業など「フツーの人」の方が多くなっている印象です。
これとは別に、拘束された劉暁波氏の釈放と「08憲章」に盛られている主張の実行を求める署名はすでに3000名を突破。胡錦涛政権の発足以来4年余にして経済・社会状況が最悪の状況下で、こういう動きが勢いづいているというのは容易な事態ではありません。
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民主化というのは金鐘氏もインタビューで指摘していたように、時間をかけて段階的に進めていく長期的な悠長なテーマで、本来であれば暴動が頻発しているほど生活に行き詰まった庶民からは見向きもされないものです。
しかし「08憲章」の「08憲章」たる所以は非常にまとまった具体的な民主化方案であることと同時に、中共一党独裁体制に正面からダメ出しをしている点。民主化には興味がなくても、特権階級とその悪行三昧を真っ向からぶった斬る部分は実にわかりやすいものです。庶民もそれを日常的に見慣れているだけに、この一節に溜飲を下げるというか、ある種の爽快さを伴って快哉を叫ぶことでしょう。
お固いようで意外にポップ。現在の行き詰まった社会状況下において大衆受けするポイントといえます。「08憲章」の本旨からは少しズレているのかも知れませんが、当局からみれば火種として機能しかねない非常に恐ろしい部分です。
この当局が「08憲章」の発起人の一人である劉暁波氏を拘束したものの、それ以上に大きく踏み込む大弾圧を行っていないのは興味深いところです。
党中央の迷いや躊躇を示しているのかも知れませんし、署名者への監視や署名者増加の防止策などは行いつつも、デモや暴動という形で爆発しない限りは模様眺め、ということかも知れません。もちろん、爆発すれば3月のチベットのときのように「六四モード」を発動して、なりふり構わぬ武力弾圧という「人民戦争」になるでしょうけど。
ですから、「08憲章」は金鐘氏がインタビューで語ってくれたような意義深い民主化方案であるものの、いま現在の中国社会では「火種」としての役を振られています。「民主化なんて無理」という風に流してしまうこともできますが、「民主化」として語らずに、蓄積された庶民レベルの不満を爆発させかねない「導火線」あるいは「信管」として考えれば、これはどうにも無視できないものなのです。
もちろん「一時は話題になったけど結局は不発」になる可能性もあり、現状ではそういう展開が五分五分というより、むしろ四分六分の六分が「不発弾」というのが冷静な認識といったところでしょう。七分三分の七分という方がより適切かも知れません。
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さて、恥を忍んで申し上げることになりますが、金鐘氏に対する私のインタビュー記事の原文(中国語)は金鐘氏によって記事仕立てにされた上で、香港紙『信報』電子版に掲載されました。
●『信報』電子版
http://www.hkej.com/template/forum/php/forum_details.php?blog_posts_id=7020
標題とリードが追加された以外はほぼオリジナル通りです。金鐘氏が当ブログと私を持ち上げ過ぎているのですが(orz)、これは香港における「08憲章」の扱いはまだまだ不十分だ、という同氏の認識によるものかも知れません。
一方で、中文媒体において「08憲章」に関するニュースは多いものの、その意義深さを語った記事はそう多く出ていません。その意味で、「08憲章」宣言について簡潔かつ的確に、しかも発起人と親しい者が語るという点で、記事の長さも含め間尺に合った適切なものと金鐘氏が判断したのかな、と考えているところです。
その判断を裏付けるかのように、早速転載が始まりました。上記「博訊網」をはじめ、現時点でニュースサイトなど7つのウェブサイトがこの記事を転載しています。
掲載も転載も、コソーリ活動で慣れていますので私にとってサプライズではないのですが、中国観察の世界では第一人者である金鐘氏と一緒に仕事ができたこと、そして金鐘氏がその記事を原文で発表してくれたことが、もんのすごーく嬉しいです。
昨夜,同氏からメールが届きました。チャットや会話などはできないものの、写真などのコンテンツを仲間うちで共有するというサービスが香港で普及していて、それを利用している金鐘氏が「お友達名簿」に私を加えてくれた、というものです。ナカーマ(AA略)であります。
そういったことも含めて、今回は心身ともに消耗する仕事でしたが、疲労しながらも充足感に満たされています。
手前味噌で申し訳ありません。m(__)m
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以下は余談の余談です。
インタビュー記事などと取っ組み合っていた11日に、AMAZONに注文しておいた「いきものがかり」のニューシングルと、松本零士氏の傑作「ザ・コクピット」の第一巻が届きました。
この文庫サイズのコミックは以前に全巻まとめてオトナ買いしたので拙宅にある筈なのですが、如何せん私の仕事場は香港のゲーム週刊誌の編集部の如く、様々なものが雑然と積み上げられて腐海としか表現しようのない状態で、一度消えてしまったらもう僥倖に期待するほかない、といった状態。
ここ数日、このシリーズの中でも名作が揃っている第1巻が無性に読みたくて仕方がなかったのです。それが修羅場の最中に届いてしまいました。
幸い、エントリーは12日未明に出すことができたので、朝になったらいつもの喫茶店で一服しつつこれを読もう、と思っていました。
ところがインタビュー記事を「中文媒体にも出す」という金鐘氏からのメールが来たため、万一に備えて自宅待機を余儀なくされることに。orz
昨日(13日)、土曜日ということもあって平日はリーマンで賑わうのが嘘のように静かな喫茶店で、1時間かけてようやく念願を果たすことができました。そのあと今度は「音速雷撃隊」と「鉄の竜騎兵」(ザ・コクピット第2巻)が観たくなってDVDでウルウルしましたとさ。
という訳で楊枝削りです。
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そういえば、カレン族の正月の集まりに招かれるお礼に作ったカンバッジも昨日届きました。今年もあと半月なんですね……。
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一種の勲章ですね。
蝶の羽ばたきのような小さな出来事が、独裁体制に穴を開けることができれば、更なる喜びも。
12月10日のブログ記事
> 「08憲章」の原文を読んでみると、その内容がもう凄いのなんの。
> ●縦覧中国
> http://chinainperspective.net/ArtShow.aspx?AID=92
のURLの魚拓が、次のように誰かが取ってくれていました。
http://s01.megalodon.jp/2008-1212-1634-34/chinainperspective.net/ArtShow.aspx?AID=92
署名サイトが、サイバー攻撃にさらされているようですが、さもんありなんです。
ネットは便利なようで不便でもありますね。
中共のやりそうな事です。
今回の憲章は、中華連邦制を謳うなど、中国政府としては納得の行かない文章が盛りだくさんです。
特に、台湾に関する部分は逆鱗に触れたんじゃないでしょうか?
しかし、シンセン在住さんによると、好意的な反応が多いとのこと。
農民や軍人まで署名に加わるとは、前代未聞と言えるでしょう。
知識分子だけなら、書斎派のお花畑で済みますが、どうもそうではなくなりつつあるようで、政府もドキドキなのではないでしょうか。
拘束されて釈放された人々は、軟禁され、ネットや電話などが使えない状態に置かれていると聞きました。
彼らの無事を祈るしかありません。
海外では、NYTがいち早く記事を載せています。この辺は、良くも悪くもNYTといったところでしょうか。また、08憲章の全文は既に、New York Review of Booksという著名な雑誌に英訳されています。
私の個人的な印象ですが、海外でも反応はいまいちという印象を受けます。アメリカでは、ブッシュ大統領は死に体ですし、何よりビッグ3救済云々で政府・議会とも手が一杯のように見えます。さらにオバマ次期大統領も、イリノイ州知事逮捕をめぐるドタバタに巻き込まれています。この件をきっかけに中国で大規模な騒乱が起きるなら話は別ですが、そうならない限り、海外の反応は冷たいものになるような気がします。
http://jp.epochtimes.com/jp/2008/12/html/d50139.html
に、次のように載っています。
署名者の一人、香港開放雑誌編集長・金鐘氏が「08憲章」に関して日本のブログ作家への質門に対する回答を公表し、「08憲章」の由来について紹介した。
良い活躍です。
日本にいる中国人留学生にも知らせてあげなくっちゃ。
むこうは静かなようですが、温胡チームはどうする
気なのでしょう。まさか「華麗にスルー」作戦でし
ょうか。
いくら在野の「言論」をもってしても、中共がそれ
に反応しない限り何も変らないのが現実。実力行使
以外に体制変革がなしえないのですから、党、政府
側は「実力行使」という事態への対処に自信を持っ
ているのでしょうね。
十数年前西安で日本人老夫婦が強盗に会い金品が奪われ夫が殺害された時遥か離れた他省に逃亡した犯人を僅か数日で逮捕した。13億の人口の中から良く捜したものと感心したら在日中国人曰全国津々浦々まで党、公安等の監視網が有るので簡単だと。この党、公安、軍の監視体制が一党独裁体制の国家維持装着だと。朝日が報道出来ないのは文革を賞賛し中国政府の意向にそう報道をすると社主表明通り。朝日の言う民主、人権、自由がいかに胡散臭いか。チベット、新疆の資源略奪人権弾圧には完全無視。日本企業への不当な要求対応への無関心ぶり。朝日の特派員も完全監視下でも無言。
欧米マスコミとは大差有り。
産経の福島香織記者のブログでこちらのインタビュー記事が紹介されていたのでご一報いたしますね。
http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/836273/
福島記者はこちらの隠れファンだそうです(笑)
>一種の勲章ですね。
はい。私にとっては正にその通りです。学生のころ大学図書館で『九十年代』『争鳴』を読みながら、いつかこういう雑誌の編集長にインタビューしてみたいものだと思っていました。20年ばかり経ってその夢がかなった次第です。しかも日本語と中国語の二本立てなので、私はもうお腹一杯。しかし大紀元にまで出るとは思いませんでした。
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>>お疲れさまです。さん
御指摘の通り、一党独裁制の終結、台湾と「対等な立場」での協議、人民解放軍の国軍化そして中華連邦共和国の成立というのは中共政権にとって絶対に譲れない部分です。あとは「08憲章」の内容が庶民レベルでどこまで浸透するかですね。
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>>歩厘さん
現段階で国際世論に多くを望むことはできないかと思います。ただダライ・ラマが「08憲章」を評価する声明を出していますし、米国政府報道官は劉暁波氏の拘束に批判的なコメントを出しています。あとは御指摘のように中国国内で何事かが勃発するか、あるいは海外在住の中国人が頑張るか、ともかくもう少しインパクトが必要だろうと私も思います。
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>>太平門さん
さすがに10億はないでしょう(笑)。ただ官民の間で反目が生じている地域では、「08憲章」をきっかけに対立が激化するところが出てくるかも知れません。
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>>古雑巾さん
党中央が「08憲章」に対して大きなアクションをとらない理由が、対処法をめぐって意見が割れているのだとしたら面白いんですけどね。「胡温体制」としては手をつかねていれば反対勢力に攻撃されますし、「08憲章」がなくても経済がハードランディングすれば経済運営の責任をとらされる可能性もあります。既得権益層という抵抗勢力が手ぐすねをひいて待っていますから、ここは進むのも退くのも綱渡りではないかと。
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>>大罵屁さん
現在の中華人民共和国という枠の中で民主化が実現するとは私は思いません。無理でしょう。馬鹿な私がそう思っているくらいですから、知識人たちはもっとよくわかっている筈。それでも危機的な社会状況に煽られるようにして堪え切れずに立ち上がってしまう、というあたりが中国の知識人らしいところで、私はその勇気と責任感に賛辞を惜しみません。ただ嬉しい誤算というか、署名者数がこうも急膨張するとは当事者たちも考えてはいなかったのでは?
差し当たって私たちにできることは、マスコミなどを当てにせず、この事態を日本国内で周知させることです。前にも書きましたが、より多くの日本人が知ることで署名者たちへの間接的支援となり、その分だけ中共政権が困ります。困った分だけ対日戦略を考える余裕が失われ、またチベットやウイグルをはじめとした少数民族への弾圧も緩みます。ただフリーチベットを叫ぶよりも有効かも知れません。
私が掲げている「中共の嫌がることを真心を込めて念入りにやってあげること」という看板には、そういう含みがあります。
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>>Unknownさん
恐縮です。私もお世辞ではなく福嶋香織記者のブログの隠れファンですよ(たぶん同学年か同い年ではないかと)。今回この「08憲章」が出たときも、ああ北京にいてくれれば……と真っ先に思いました。なにぶん日本では察することはできても空気を嗅ぐことはできませんから。北京から、その空気感を伝えてほしかったです。
インタビューは北京でやらなくても、私のように香港あるいは米国在住の発起人に近い筋をつかまえればいいのです。いま『産経新聞』は北京の野口記者がこの件に関して頑張っていますけど、いま北京でやれることはお膝元だけに逆に限定的であるように思います。香港やワシントンの間接援護が必要でしょう。
それにしても記者ブログというのは非常に面白い発想なのですが、それを記事として電子版で出してしまうのは記者たち(特に中国のような国の特派員)に対して余りに酷ではないかと(福嶋さん、リンクをはって頂き本当にありがとうございます。激務でしょうからお体にはくれぐれもお気を付けて下さい。李肇星のエントリー、とても面白かったです。m(__)m)。
おめでとうございます。
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