日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 さあ、にわかに盛り上がって参りました。全国各地で陳情・デモ・スト・暴動など「官」に対する抗議活動が頻発するなか、党上層部でも何やら始まったのでしょうか。これはちょっと剣呑です。



 ●【緯度経度】北京・伊藤正 発展には軍事力が必要(MSN産経ニュース 2008/12/27/16:57)
 http://sankei.jp.msn.com/world/china/081227/chn0812271706000-n1.htm

 今月3日付の中国人民解放軍機関紙「解放軍報」は1ページをつぶし、軍長老の遅浩田・前中央軍事委副主席兼国防相の回想記を掲載した。その数日後、軍事系など複数の中国国内のサイトに、遅浩田氏名の「発言」が相次いで現れた。

 この発言は、2005年4月の中央軍事委拡大会議での講演とされ、内容の一部は当時、海外に流出したが、偽造説もあった。台湾武力解放のみか、米国打倒と日本殲滅(せんめつ)を主張、核使用さえ肯定する過激な内容で、退任(03年)後の発言とはいえ、荒唐無稽(むけい)すぎるとみられたからだ。

 しかし、消息筋によると、発言は本物であり、各サイトから削除もされていない。遅氏がこの発言をした当時、各地で反日デモが吹き荒れ、陳水扁総統ら台湾独立派への非難が高潮していた。劉亜州、朱成虎将軍らの強硬論が跋扈(ばっこ)し、朱将軍は対米核攻撃の可能性さえ、公然と唱えていた。

 彼らの主張は、遅浩田氏のそれと同工異曲だった。そのポイントは、胡錦濤政権の「平和と発展」戦略に対する批判である。同戦略は1984年にトウ小平氏が唱え、87年の第13回党大会以来、継承されてきた党の基本路線であり、基本的な世界認識である。

 しかし遅浩田氏は、同戦略はいまや限界に達し「完全な誤り、有害な学説」と一蹴する。なぜなら一国の発展は他国の脅威になるのが古来、歴史の法則であり、「戦争権抜きの発展権はありえない」からだ。

 同氏は、中国が発展する中で中国脅威論が起こったのは当然とし、日本はかつて、中国の発展を阻止するため侵略戦争を起こしたとの見方を示した上で、今日、日米は再び中国の発展権を奪い、現代化のプロセスを断ち切ろうと決意していると主張。

 さらに「例えば中国が原油を2010年に1億トン、20年に2億トン購入するようになれば、列強が黙っているだろうか」と反問、「軍刀下での現代化が中国の唯一の選択」と強調して、戦争への準備を促している。(後略)



 問題の遅浩田による基地外発言はこちら。

 ●戰爭正在向我們走來
 http://www.wyzxsx.com/Article/Class20/200808/46681.html

 戦争狂ジジイの荒唐無稽な発言が出回ることよりも、これまで基本的に中国の最高指導者・胡錦涛(国家主席)に従っていた人民解放軍の主流派、そしてその代弁者である機関紙『解放軍報』が、わざわざ1頁を割いて対外強硬派・遅浩田の回想記を掲載したことの方が深刻なように思われます。

 2005年春の「反日騒動」から「呉儀ドタキャン事件」へとつながったような、胡錦涛にとって極めて危険な反対勢力からの巻き返しが再び始まった、ということなのでしょうか。そして軍主流派も、それに靡いた?

 このあたりは、少し寝かせて様子をみる必要があるように思われます。

 なるほど最近にも中国の調査船による尖閣諸島付近の領海侵犯事件がありました。また国防部の報道官が空母建造への野心を明確に、またオフィシャルな形として初めて示しました。いずれも外交部がタッチしていない、というより外交部をないがしろにして出し抜いた軍部の行為です。

 中国における「肩書だけは最高指導者」の胡錦涛にとっては、折からの恐慌不安や危険な社会情勢に加え、頭の痛いネタがまたひとつ増えた格好。困った出来事ということであれば、景気後退に伴って就業機会の創出や財政出動の予算配分をめぐって、「中央vs地方」「地方vs地方」という対立軸が水面下で密かに深刻の度を深めているように思うのですが、そのことはひとまず措きます。

 ともあれ、軍部における対外強硬派の台頭を単純に考えるべきではないでしょう。「もうやろーぜ戦争!」というノリ、あるいは国民の不満を外に向けさせるための策謀、というにしてはお粗末すぎる観があります。少なくとも胡錦涛サイドの発想ではないでしょう。

 むろん、隣国の日本としては、それでも「万が一」に対する備えをしっかりとやっておく必要があります。その重点が尖閣諸島付近であることは言うまでもありません。

 ただし、今回の軍部の動きは、それがただならぬものだけに、中国がいま直面している経済・社会状況を反映したメッセージを示すもののように私には思えます。そもそもメッセージの発信者が本当に軍部なのか、どうか。

 ひとつの可能性としては、まあ「2.26事件」型でしょうか。歪んだ形の経済発展モデルが主要先進国の景気後退を受けて行き詰まり、一方で超格差社会を現出させてしまったことに対し、正義感の強い青年将校~佐官クラスが実力行使によって胡錦涛政権批判を行う、というものです。

 ただ軍主流派の代弁者である『解放軍報』までが味方をしているのであれば、そういう鉄砲玉的なアクションとは別物ではないかと。個人的には、既得権益層がアンチ江沢民路線といっていい「科学的発展観」を奉じる胡錦涛政権にプレッシャーをかけ始めた、というカタチの方にリアリティを感じます。

 ――――

 中国の改革開放政策はちょうど30周年を迎えたところですが、これを眺めるに三つの段階に分けられるように思います。

 第一段階は政策自体に対する保守派、すなわちイデオロギーに忠実な左派という「抵抗勢力」による強力な掣肘です。これは当時の最高実力者・トウ小平による南方視察によって1992年初め、

「まず目指すべきは富国強兵。そのためには、とにかく大胆な改革開放政策の断行だ!」

「中国の国情に照らした社会主義のカタチだから、これでいいのだ」

 という形でケリがつけられ、「抵抗勢力」としての保守派は事実上、潰滅しました。

 第二段階は江沢民によって始められたイケイケ路線です。「とにかく大胆な改革開放政策の断行だ!」というトウ小平の錦の御旗を掲げての成長路線。GDP成長率が伸びればそれでいい、というもので、開発効率の善し悪しは問われませんでした。

 要するに誰も通らない道でもそれを通せば成長率は伸びます。都市の規模に照らせば不相応に豪華なイベントホールの建設も効率でいえば無駄ですし浪費ですが、建設すれば数字(成長率)はアップしますし、建設させた地元政府のトップにとっては目に見える業績として残ります。

 一方で各地が競うようにして盲目的な外資導入を行いましたが、民度の反映として労働集約型を主とした市場を海外に求める加工貿易が柱にならざるを得ません。しかも高度成長期の日本とは異なり、自前のソフトパワーなどありませんから、工作機械も技術も重要部品も輸入して、中国ではただ組み立てるだけ。その結果、輸出に依存し過ぎる、現在のような対外依存度の高い経済構造になってしまいました。

 さらに、政治制度改革はタブーとされていたため富の再分配が極めて歪んだ形となり、超格差社会が現実のものに。また政治制度改革不在の必然的帰結により、党幹部の汚職や特権濫用といった行為も格差の拡大に拍車をかけました。

 そういう粗放な経済政策をやりたい放題やったところで後を任されたのが胡錦涛と温家宝による「胡温体制」。イケイケ路線に破綻の兆しが出てきたところで江沢民からバトンを渡されるという、最も美しい形で「胡温体制」はババを引かされることとなりました。これが2004年9月のことです。

 そして、ここからが第三段階。簡単にいえば江沢民がやりたい放題やったそのツケを支払う、尻拭いをする以外に活路はありませんでした。このため胡錦涛は成長率信仰を批判し、規模の拡大よりも開発効率を重視する「科学的発展観」を掲げ、江沢民路線を事実上否定する経済発展モデルの模索に入ります。

 しかし、「胡温体制」はここで強力な抵抗勢力の妨害に苦労することとなります。第二段階、江沢民のイケイケ路線のもとで甘い汁を吸い、潤いに潤った「既得権益層」です。「科学的発展観」は開発効率を重視するとともに、格差の是正にも重点が置かれています。それを表現したのが「調和のとれた社会」という意味の「和諧社会」なのですが、要するに既得権益層にとっては甘くない環境となりました。

 こうした抵抗勢力を黙らせ,潰滅させるような指導力は胡錦涛にはありませんでした。それゆえ胡錦涛政権は主導権争いめいた政局を重ねに重ね、昨年10月の「十七大」(第17回党大会)で、ようやく「科学的発展観」をトウ小平理論などと並ぶ党の基本方針に据えることに成功しました。

 とはいえ、これはあくまでも字面だけのこと。党中央はもとより、全国各地の地方政府の末端まで「科学的発展観」が浸透するようになったかとえば、ノーと言わざるを得ません。実際には「不調和」であることで潤う既得権益層による面従腹背が相次ぎ、「和諧社会」という単語も反故にされ、重要会議の公文書などから消えてしまいます。「和諧社会の建設を目指す」が「社会の和諧を促進するようにする」と、大幅に後退してしまったのです。

 「和諧社会」という単語が消えたことは、党中央がそれを放棄したことに等しいといえます。

「いまはどう頑張っても、すでに警戒水域に入っている現在の格差を維持するのが精一杯。格差改善などは無理」

 ということでしょう。

 ――――

 「抵抗勢力」は事実上、面従腹背路線の構築に成功したかにみえました。ところがここで全てを流し去る破局が突発します。ひとつは抵抗勢力にとって最大の錬金術であった不動産・株のバブル崩壊であり、二つ目は引き続き起こった世界的な不況がそれです。既得権益層にとって旨味のなくなったこの状況で、いまなお利益の獲得を狙うなら、

 ●中央政府による財政出動の過程で、できるだけ予算を分捕ること。
 ●分捕った予算でイケイケ路線を再開すること。

 といったところかと思います。第二段階に入ってから現在に至るまでの改革開放政策において、その進め方に対立が生じるとすれば、それはイデオロギーでなく利権に絡んだ性質のものです。『解放軍報』まで靡いたかの如き状況は、やはり損得勘定が背後で行われているからではないか。……と、いまはそう邪推するほかありません。

 もし実際にそういう状況だったとすると、これは深刻なことになります。「抵抗勢力」も一枚岩ではないということです。「中央vs地方」と同時に常に存在している「地方vs地方」という対立軸が、この不況下で生き残りを賭けた争いとしてエスカレートしかねません。軍部がもし抵抗勢力の支持に回ったのであれば、そのときに軍部も一枚岩でいられるかどうか、という問題にもつながるのです。

 ……と、遅浩田の基地外発言に端を発した何やらキナ臭い今回の動きについては、材料にも限りがあるため私はこのくらいしか書くことができません。

 ただひとつ、これは抵抗勢力との絡みがあるのかどうかわかりませんが、現在の社会状況下で胡錦涛が容易ならぬ発言をしていることは書きとめておきます。

 ●『解放軍報』(2008/12/16)
 http://www.chinamil.com.cn/site1/zbxl/2008-12/16/content_1584948.htm

 胡錦涛が遼寧省を視察した際、瀋陽軍区に足を運んで行った演説です。

 演説は基本的にいつもの通り、軍は党中央の指示に絶対服従し、団結を強め、「科学的発展観」に基づいてより強力な軍隊を建設せよ、というもので、これが「遅浩田」というアクションに対したものかどうかはわかりません。ただこれも例によって、

「新世紀の新段階におけるわが軍の歴史的使命を果たせ」

 として、もっと勉強しろもっと研鑽しろより熱心に政治学習に励め。……などといつものお題目が続くのですが、最後の部分で胡錦涛は、



「地方経済・社会の発展を支援し、社会の安定を維持する活動を強化するように。軍隊は中央経済工作会議の精神に基づいて全国・全党という大局に臨み、国際的金融危機がもたらす衝撃について有効に対処することで、わが国の経済における安定かつ比較的高速な発展を促進させ、また社会の調和と安定を擁護することに積極的に貢献しなければならない」



 と強調しているのです。

 「国際的金融危機がもたらす衝撃」に対して「社会の調和と安定を擁護することに積極的に貢献せよ」と、極めて具体的な状況設定のもとに出たこの発言は、どうでしょう。

 中国社会が危機的状況に陥ったことが明確になったとき、内乱鎮圧用の準軍事組織である武装警察はもとより、

「社会の調和と安定を擁護する」(=乱を平定する)

 という大義名分のもと人民解放軍も躊躇なく投入する、というニュアンスのように思えてなりません。敵は国外にいるだけではない、ということを強調し、一朝事あらば人民解放軍は速やかにこれを殲滅せよ、という宣言ではないかと。

 胡錦涛からみれば、「国内の敵」は抵抗勢力のような政治勢力や「08憲章」に賛同する者たちだけでなく、陳情・デモ・スト・暴動などによって「官」に対する抗議活動を展開している民衆も含まれるでしょう。

 抗議活動=「官」に楯突いている、となりますから、中共的な解釈としては、この民衆はもはや「人民」ではく、「人民の敵」として断固鎮圧すべき対象となります。

 ――――

 何やら、中国では全てが悪い方向へ向けて動き出したかのような印象です。

 当局は1月末の旧正月で「おめでたいムード」が国民の間で広がって「官」への抵抗も弱まることを期待し、そこまでは安定・団結の演出に全力を注ぐことになるでしょう。

 とはいえ、胡錦涛が瀋陽軍区で念を押しているように、事態が安心して眺めていられる形で推移していくかどうかは,未知数というほかありません。

 いや本当に、中国が不気味な段階へと入ったように思えます。重ねて申し上げますが、全てが悪い方向へ向けて動き出したかのような印象なのです。





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