日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 続編ではありませんが、前回の「補遺」のようなものです。

 前回皆さんから寄せて頂いたコメントにレスするつもりで、また自分の考えをまとめてみるつもりで書いてみます。

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「ここまで冷めた見方をするのは香港人の民度ゆえなのか、それとも中国本土と違って香港には言論の自由があるため本音で語ることができるからなのか。」

 と私は前回の文末に書きましたが、私自身の見方は後者。中国本土における中共への不信感や嫌悪感は相当なもので、それに危機感を持ったからこそ江沢民が反日風味満点の「愛国主義教育」を導入した訳です。

 外から見ると単なる「反日」のようですが、中共政権にとっては威信低下の改善と求心力向上を狙った、つまり「反中共」という餡を覆い隠すための「まんじゅうの皮」が「反日」です。むろん当時は反日姿勢をとった方が対日外交上お得だった、ということもあるでしょう。

 ところが改革・開放が深化するにつれ、様々な理由から「貧富の差」や「汚職の蔓延」、「失業」あるいは「失地農民」といった問題が目につくようになりました。このため当初は分厚い皮(反日)で餡を包んだつもりが、いつのまにか薄皮まんじゅうになっていて、危うくその皮が剥げかけたのが昨年の反日騒動です。

 中共政権にとって「反日」は一種の便宜的かつ戦略的なお題目だったのですが、本気で「反日」を唱えている民間組織の馬鹿どもを別とすれば、生活者にとっても「反日」を掲げてひと騒ぎし、蓄積された鬱憤、特に「官」への恨みつらみを晴らしたかったのでしょう。

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 大学生やニートは生計を考える必要がありませんから、そういった問題には比較的呑気でいられるのです。もちろん大学生の中には低所得層出身の苦学生がいて、そういう連中には社会の現状について某かの問題意識があるかも知れません。しかし親元の経済状況が仕送りに反映されて学生の間にも大きな「貧富の差」が存在することから、そうした問題意識が大学生全体で共有されることがないのだと思います。

 さて昨春の薄皮が剥げかけた反日騒動を経験して、中共も民衆が「反日」をお題目にしていること、そして餡を包んでいる「反日」という皮がずいぶん薄くなってきている、ということを学習したようで、それ以降は靖国問題であれ尖閣問題であれ、反日分子の活動を厳しく取り締まっています。「SAYURI」が中国本土で上映禁止になったのはその極端な例です(笑)。

 同じ理由からネット上の言論に対する規制も強化されつつあります。恐らく言論の自由があるとすれば前回紹介した香港のBBSでの声のように、「九・一八」でありながら「反日」にとどまらず、別の方向に話題が飛んでが盛り上がっていっただろうと思います。

 その実例といえるかどうか。……胡錦涛政権が発足した当初、反日サイトの活動やネット上での反日言論への規制を強化したことがあります。すると反日を語れなくなった糞青(自称愛国者の反日信者)は意外なことに中国国内の社会問題に目を向ける素振りを示しました。胡錦涛の対日路線がほどなくダメ出しされて対日強硬論が台頭することで糞青も本来の姿に戻っていったのですが、あの短期間に垣間見せた変化は非常に興味深いものでした。

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 ここからは香港の話です。前回紹介した香港のBBSは嫌中共&民主化熱望が基本スタンスになっているので、中共への点が辛くなっている部分があります。それを割り引いて考える必要がありますし、あそこの連中も中共への嫌悪感を示す一方で「反日」的傾きがない訳ではありません。

 ただ香港人は世代ごとに異なる経験をしており、例えば現在の第一世代は大躍進やその無理が祟って発生した飢餓地獄から逃れるため香港に密入境しています。

 当然ながら政治運動への嫌悪感=中共嫌いという心理がありますが、一方で「新中国を成立させた」という中共への評価や中国本土への望郷意識もあります。

 ですからこの世代の中共に対する見方は複雑で、ひとくくりにできないといえるでしょう。

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 第二世代は英国統治下の香港で生まれ育ち、教育を受けて社会人になっていますから、中共政権へのいかがわしさを感じています。それを決定的にしたのが1989年の天安門事件で、香港での支援デモにも学校単位・職場単位で参加しています。中国返還後の中共からの政治的抑圧もあって、中共への好感度は限りなく低いです。

 ……むろん政治的傾きには個人差がありますから、これは一般論にすぎません。個人差といえば、香港時代の私にとって最初で最後の日系企業から転職した後、やはり転職組のローカルスタッフが集まって鍋をつついた際に日本人では私だけに声がかかって参加したことがあります。そのとき以前は受付嬢だった女性から、

「中共に統治されるくらいなら、日本軍に占領された方がずっとマシ」

 と真顔で言われて答に窮したことがあります。

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 第三世代は天安門事件当時はせいぜい児童、という歳ですから、天安門事件に伴う香港での騒ぎを体験、というよりかすかに記憶しているに過ぎません。ただこの世代は香港の民主化要求や自由を規制する法律制定への反対運動(2003年の50万人デモ)などを通じて民主、自由、人権といったものの価値を知っており、それに制約をかけようとする中共に好感は持っていません。

 ただ香港では中国返還に伴って香港型愛国主義教育ともいうべき「国情教育」なるものが教育のカリキュラムに組み込まれました。まずは日本による侵略だの南京虫事件だのといった中共史観を叩き込み、反右派闘争や大躍進、文化大革命などはサラリと流し、天安門事件は完全スルー(教科書にも記載なし)。

「中国は多党制で中共が善政を敷いている」

 といった白々しい虚構を教わります。……第三世代は学生時代の最後にこれを受けて成人していることが気になります。

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 第四世代は現在在学中ですから、「国情教育」でどこまで染めあげられるか戦々兢々。とりあえず必修科目である北京語は一応話せるようです。ただ香港ディズニーランドに押し掛けた中国本土からの観光客のマナーの悪さと程度の低さには反感を持っていたようですから、そうした角度から、

「おれたちは大陸の奴らとは違う」

 という優越感のような意識はあります。

 ただ前述したように、いずれの世代においてもその底流には「反日」ないしは「侮日」意識があります。政治意識の高い連中を別とすれば、「反日」は基本的に中共史観を鵜呑みにしていること、第二次大戦で日本が香港を占領したことによるもの。一方で中国本土に対しても優越感を持ち、台湾の愛すべき素朴さを田臭と貶す「小中華意識」が、日本文化を受容しつつも「小日本」(侮日)という感情を心の隅っこに貼り付かせているのです。

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 BBSによってはそうした「反日」色が露骨に出ているところもあります。ただ、カラオケで私に「反日」で挑んだA君などは例外というよりビョーキであり、普通の香港人はそこまで馬鹿なことはしません。

 他にやる人間がいるとすれば、「反中共」「反日」「反香港政府」と何事でも先頭に立って騒ぎまくり、その騒ぎっぷりが人気を呼んで前回の立法局議員選挙では最多得票を記録し当選した梁国雄(通称「長毛」)くらいのものでしょう。あれも眺めている分には面白いのですが、要するに馬鹿の類です。

 香港人が台湾人と異なるところは、中共の悪政を知識としてではなく、体験として実感しているところです。天安門事件でのデモや2003年の50万人デモ、中国本土からの観光客のマナーの悪さと程度の低さ、そして自分は体験していなくても、第一世代から「体験」として語り継がれている様々なエピソード。

 要するに「肌で感じている」訳で、そこに比較的高い政治意識が加われば、前回紹介したBBSのような反応になる訳です。

 ただ香港は実質的に中国の植民地であり、言論の自由などはあっても政治的には普通選挙制すら未だに許されていません。如来様の掌の上で飛び回る孫悟空のようなものです。

 キツい言い方をするなら、党の意向で司法を無視してどうにでも料理されてしまう中国本土の国民が「政治的畜類」であれば、香港人は「半畜類」といったことになるでしょう。

 ミニ憲法ともいうべき「香港基本法」の附則が定めるところによれば、仮に普通選挙が実現されたとしても、自分たちが選んだトップ(行政長官)が中共の気に入らない人物であれば、全人代常務委員会によって「無効選挙」とされてしまいます。

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 救いのない社会という訳です。しかも「五十年不変」ということになっていますから、2047年には事実上の中国本土化が行われても文句が言えません。こういう環境においては、目の見える人ほど辛い思いをし、一種の絶望や諦念に苛まれることでしょう。実際、条件が整えば移民する、という人が少なくない理由のひとつもそこにあるのではないかと思います。

 ただ最後に改めて強調しておきますが、香港人の大多数は中共史観で極彩色を以て描かれた日本というものを鵜呑みにしており、底流には「反日」「侮日」意識があります。

 いま「保釣運動」(尖閣防衛運動)はごく一部の活動家によるものとなっており、香港市民の多くから無視されたも同然の状態になっています。でも香港社会に閉塞感が充満し、その不満を中共にも香港政府にも持ち込めないといった状態になったら、どうなるかわかりません。

 中国返還を翌年に控えて先行き不透明な状況が香港社会を覆っていた1996年当時と同様、「保釣運動」が市民から支持され、平時なら伏流水でしかない「反日」を爆発させることで鬱憤を晴らす、ということになる可能性はあると思います。




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