日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 何だか最近、当ブログは主題である中国観察の真似事からやや遠ざかっている観がありますので、少し舵を戻しておきます。

 折よく前々回のコメント欄で「はふふ」さんからご質問を頂いたので、今回はそれに対するレスという形で。……ただ回答になっているのかどうか自分でも危ぶんでいますし、丹念に記事を示しつつ話を進めていく訳でもありません。

 まあ雑談のような気楽さで俯瞰してみる、ぐらいの心持ちで書いていますので、そのつもりで読んで頂ければ幸いです。

 まずは「はふふ」さんのコメントから。

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 ●Unknown (はふふ) 2006-09-18 15:42:26

 どうも、いつも読ませていただいております。

 なんか上海閥がそうとう追い詰められているそうですが、北京に従わない離反的な派閥って上海と広東以外あるのでしょうか?

 結構あるのだろうとは思うのですがネット上を探してもなかなか無いものでして。

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 以下は私のレスです。

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>>はふふさん

 コメントありがとうございます。

 報道をみる限りでは、上海閥は確かに以前より攻め込まれているようです。ただ、どこまで崩されるかは「六中全会」(党第16期中央委員会第6次全体会議)、そして来年の第17回党大会まではなかなか見きわめにくいように思います。

 政治勢力間の力関係は、そういうイベントにおける人事権の掌握度という形で最も明確に表れると私は考えています。

 例えば2つの政治勢力による抗争があったとして、その一方が優勢な状況に持ち込むことに成功しているとします。それでも野球でいえばコールド勝ちとか大差をつけている、というくらいの圧勝状態でないと思い通りの人事はできません。

 それでも100%思惑通りになることはまずあり得ず、相手の顔を立てたバランス人事が必要になりますし、優勢とはいえ僅差であれば、人事そのものに手がつけられないことになります。

 その好例が昨年秋の「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)です。当時、胡錦涛サイドは敵対勢力に対し優勢な状況にありました。開催前には人事異動に関する下馬評が海外メディアによってあれこれと報じられ(胡錦涛の腹心を昇格させる一方で上海閥の要職者を閑職に回す)、香港の親中紙なども異動を示唆する記事を飛ばすほどでした。

 ところが、実際には胡錦涛のサイドの優勢が柔道でいう「効果」に毛が生えた程度のものだったため、とうとう人事そのものが行われませんでした。腹心昇格に持ち込めるだけの力がなく、敵対勢力の勢いを削ぐ人事を強行することもできなかったからです。

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 そもそも100%思惑通りの人事が実現した、ということがありません。少なくとも中共政権が改革・開放政策に舵を切って以来、トウ小平が最高実力者として君臨していた期間も含め、日露戦争における日本海海戦のような「完勝」の前例がないように思います。

 民主化運動に始まり、最後には軍隊を投入して天安門事件という血の弾圧を行った1989年夏の中共における緊急事態下でもそうでした。民主化運動に理解を示し、武力弾圧に強く反対した趙紫陽らをトウ小平は失脚させ、上海市のトップだった江沢民を総書記に大抜擢するといった戦時内閣的なシフトをとりはしましたが、一方で血しぶきを浴びた軍隊の親玉である楊尚昆らを要職に就かせるといった論功行賞人事を避けることができませんでした。

 下って1992年、トウ小平が深センや広東省を突如視察して回りました。その間に発表した南巡講話を以て改革再加速の大号令が発せられ、保守派は事実上、政治勢力としての実質を失いました。

 それでも同年秋の党大会では胡錦涛の大抜擢などがありつつも保守派にも配慮したバランス人事が行われ、翌1993年の全人代(全国人民代表大会=立法機関)での任期満了による指導部改選において、前評判の高かった朱鎔基の首相起用が見送られ、保守派である李鵬首相がブーイングのなか続投することになった経緯があります。

 後に鉄腕宰相とうたわれることになる朱鎔基の首相就任が5年遅れたことは、定年制導入により首相就任期間が短縮されることにもなりました。これはトウ小平にとっても中国にとっても痛恨事ではなかったか、と私は考えています。

 ……さて、現在の政争に話を戻します。当ブログではしばしば政情を整理する便宜上、「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)、「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)という言葉を使います。胡錦涛擁護勢力を「同盟」としたのは、胡錦涛と人民解放軍主流派との間に政治的取引が行われたとおぼしき形跡があったからです。一種の契約関係ですね。

 一方の「反胡連合」、すなわち反胡錦涛諸派連合と殊更に称したのは、この政治勢力が実際は「諸派」の寄せ集めであり、それぞれ異なる思惑や主張を持ちつつ、中央政府ないしは胡錦涛に異を唱える点において結束しているのみ、という空気を常に感じていたからです。

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 現在の中共政権における政治勢力と派閥間抗争は、例えば「対外強硬度を高めろ」といった軍非主流派などによる電波系の主張を別とすれば、基本的に利権を軸にして構成されているようにみえます。これが「改革派vs保守派」といったイデオロギー色を主流とし、加えて国共内戦時の指揮系統を反映した人脈が残存していた1980年代の派閥抗争とは異なる部分です。

 で、その利権に関して「中央vs地方」という図式がしばしば浮き彫りにされ、その具体的表現のひとつとして「諸侯経済」という専門用語まであります。ただ「中央vs地方」=「諸侯経済」ではありません。

 「諸侯経済」というのは地方当局が中央政府の示す政策に面従腹背するだけでなく、各地方勢力が経済面で保護主義に走り、外地との経済的往来を排除・遮断する、といった一種の経済的割拠状態です。要するに「中央vs地方」の一方で「地方vs地方」といった対立も起きている状況で、これは中央の指導力が低下する一方で地方勢力の利権追求が極端になると出現する症状といえるでしょう。

 そして、利権が軸になっている以上、もうひとつ無視できない状況が起きている筈だと私は考えています。「諸侯」というのは一般に省・直轄市・自治区といった単位でしょう。この「諸侯」と北京(中央政府)の利害対立が「中央vs地方」ですね。

 ただ利権という点で考えると、果たして諸侯がそれぞれ自らの「領地」をしっかり掌握できているのか、どうか。直轄市のような狭い範囲(面積)ならともかく、例えばある省、ある自治区の中にも「中央vs地方」のような構図が存在するように私は思うのです。

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 やや具体的にいうと「省当局vs県当局」などといったもので、北京から送り込まれたトップに対し、ポストは低いものの地元生え抜きの、いわば地元のボスといった政治勢力が抵抗して言うことを聞かない、ということです。

 実はそうした出来事は私たちの可視範囲内にあり、注意していれば見つけることができます。顕著だったのは昨年夏以来の闇炭坑閉鎖問題でしょう。それから環境汚染問題の中にも同じ属性とみられるものがあります。

 また省当局にしても、胡錦涛から送り込まれた「雇われトップ」に対し、省党委員会副書記、省政府副省長といったポストにある地元生え抜きの幹部が陰に陽に邪魔だてをする、といったことがあっても不思議ではありません。そもそも「どうせこいつはここを勤め上げたら中央に呼び戻されて出世するんだ」という感情がまずあるでしょう。これは日本の会社でもしばしば発生する不協和音だと思います。

 地方が中央の経済政策を無視して突っ走る、という状況にしても、郷、鎮、県、市といった末端からの経済統計を省当局が加算して省単位でまとめてみたら予想を遥かに上回る経済成長率で、中央の政策に背く結果になってしまって狼狽した、ということもあるかと思います。少なくとも胡錦涛人脈の雇われトップは青くなっているでしょう(笑)。

 実際に多くの地区の経済成長が中央の定めた指標(全国単位で8%前後)を大きくオーバーし、全国単位では今年上半期のGDPが前年同期比で10%増を越えてしまっています。

 どうやら通年でも2桁成長になる見込みだそうで、国営通信社である新華社の電子版「新華網」などでも経済過熱を懸念する記事や地方当局が面従腹背で突っ走っているといった報道をしばしば目にします。

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 こうした中国国内メディアによる報道を表面だけをみて鵜呑みにすれば「中央vs地方」という図式になってしまいますが、実際には「諸侯」の内部でも「中央vs地方」的なせめぎ合いが起きている訳です。個人的にはこちらの方が重視すべき事態で、中共政権の今後、そしてその崩壊シナリオを考える上でも注目するに値するのではないかと愚考する次第です。

 要するに「北京に従わない離反的な派閥」が存在するという事態とともに、より深刻といえる状況が同時進行中だと私は思います。

 ただこれは「はふふ」さんが指摘されている通り、ネット上で容易に見つけられるものではなく、とりあえず中国語読解力がなければなりません。日本のマスコミによる中国報道は往々にしてある種の不必要な傾きを持っている上に、表面的な事象の断片だけを追いかけることに終始し、中共政権の行動原理といったような根本の部分をうかがおうとしたり、俯瞰を試みるといった点が欠落しているからです。

 たとえ中国語を読む力があったとしても、ストーカーのように毎日記事を漁り、また巨細を問わずニュースの行間や記事そのものから匂い立つ気配に注意を払う作業が必要です。

 もちろん素人の私にそんな力量がある訳もなく、それゆえ「はふふ」さんの御質問に対して具体例を示すことができません。

 ただ「中央vs地方」という対立軸の一方で、「地方」においても「中央vs地方」(地方当局vs末端レベル)という構図が存在していて、実はその構図の方が中共政権にとっては厄介ではないか、とお答えすることしかできません。誠に申し訳ありませんが、自らの力不足を恥じ入る次第です。

m(__)m




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