(「上」の続き)
で、この韓正・市長が上司の陳良宇とは正反対に、実は「擁胡同盟」の一員である模様。それも政治生活の振り出しが共青団書記という経歴からすると、「擁胡同盟」の中でも正統な胡錦涛嫡流というべき「団派」(共青団人脈)のようです。
いわば敵対する独立王国・上海に胡錦涛が打ち込んだクサビですね。上海に回されて江沢民や陳良宇など上海閥に囲まれて、色々意地悪されたりしたのかも知れませんが、見事にポストプレーを成功させた、といったところでしょう。ちなみに経済の専門家で市民の受けは悪くないそうです。
http://news.xinhuanet.com/ziliao/2003-02/20/content_737996.htm
その韓正。「陳良宇解任」という激震の中でとりあえず市当局をうまく掌握したようで、上海市報道官が「中央の決定を擁護する」つまり上海は陳良宇解任を支持する、という声明を発表しています。
江沢民時代以来、独立王国たる地位を維持してきた上海がついに中央に屈した瞬間です。恭順宣言といっていいでしょう。新華社による第一報からわずか約3時間後にこれが『明報』電子版の記事になっています。
●上海市政府は中央の決定を擁護(明報即時新聞 2006/09/25/04:10)
http://hk.news.yahoo.com/060925/60/1tmch.html
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とはいえ不測の事態に備えて、この日のうちに様々な措置がとられたようです。まず韓正による市当局の掌握ですが、実際には陳良宇をひっくくるために中央紀律委員会から調査要員が多数送り込まれていますから、上海市当局の中で韓正は孤立していた訳ではないようです。
しかも陳良宇解任直後の25日午後3時から開かれた緊急党幹部大会を仕切ったのは、「進駐活動」をすんなりと運ぶため北京から応援に駆け付けた党中央組織部の賀国強・部長。中央政治局委員を兼ねている高官です。他に同じ中央組織部の李建華・副部長もこの会議に参加しています。
上海市報道官による「恭順宣言」が行われたのはこの前後のことでしょう。陳良宇失脚作戦が事前から計画的に練られていたことがうかがわれます。
賀国強は大会の席上、韓正をトップとする上海市当局の新体制を中央は信頼していると言及、幹部の動揺を防ごうと努めました。韓正もこの場で「中央に従う」と恭順表明を行う一方、経済面では中央によるマクロコントロールを受け入れるとも表明しています。
なお、この大会には上海市党委員会常務委員の中で呉志明・市公安局長と沈紅光・市党委員会統一戦線部長の2名が欠席したと『星島日報』が報じています。陳良宇同様、中央からの調査チームに拘束された可能性があります。
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血迷った幹部が非常の挙に出る可能性にも手当てが行われました。
空港や駅、港には武警(武装警察=準軍事組織)が派遣されて警戒態勢をとり、幹部の上海脱出を防ぐ措置がとられ、一方で上海市政府では局レベル以上の全ての役人にパスポート提出命令が出されました。まるで戒厳令下のような物々しさです。
香港・マカオへの通行証も「進駐軍」がまとめて没収し、百名余りの副市長レベル幹部については、出国や出境(香港やマカオに出ること)が必要な場合は党中央紀律検査委員会と中央組織部の認可が必要ということになりました。また、現在欧州とオーストラリアを視察中の海外視察団(3コ代表団)には視察中止命令が出ています。
なお、警備にあたっていた武警は他省から回されてきた部隊とする市民もあり、このことからも緊急党幹部大会を呉志明・市公安局長が欠席したことに関心が集まっているようです。
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●『太陽報』(2006/09/26)
http://the-sun.orisun.com/channels/news/20060926/20060926022732_0000_1.html
●『成報』(2006/09/26)
http://www.singpao.com/20060926/local/876821.html
●『明報』(2006/09/26)
http://hk.news.yahoo.com/060925/12/1tmrb.html
http://hk.news.yahoo.com/060926/12/1tp9x.html
●『星島日報』(2006/09/26)
http://www.singtao.com/yesterday/loc/0926ao03.html
●『香港文匯報』(2006/09/26)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0609260007&cat=002CH
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ところで、陳良宇解任という激震に揺れた上海ですが、これは上海要路者の社会保障資金の流用疑惑に対する調査の過程で陳良宇の汚職が明らかになったことで起きた出来事にすぎません。
調査チーム側である中央紀律検査委員会の干以勝・秘書長は26日に開いた記者会見において、陳良宇の一件を徹底的に捜査すること、また目下のところ上層部からの圧力のようなものは受けていないと表明(どっち側からの圧力?)。
一方で、捜査がさらに進行するにつれて、陳良宇以外にも「逮捕者」が出る可能性を示唆しています。役人や企業経営者などが動揺しているのもそのためです。
●『星島日報』電子版(2006/09/26/12:41)
http://hk.news.yahoo.com/060926/60/1to72.html
●『明報』電子版(2006/09/26/18:10)
http://hk.news.yahoo.com/060926/12/1tnph.html
●『星島日報』電子版(2006/09/26/19:03)
http://hk.news.yahoo.com/060926/60/1tp6q.html
●『明報』電子版(2006/09/26/20:20)
http://hk.news.yahoo.com/060926/12/1tp8y.html
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消息筋によれば、この社会保障資金の流用事件について中央紀律検査委は3月に密告を受け、6月中旬から調査チームを上海に常駐させ、7月から人員を増派するなどして捜査を本格化。
7月中旬に30余名、8月上旬に20余名、8月下旬に40余名と「進駐軍」の兵力を逐次増強し、最終的には100名以上が上海に常駐した模様で、「総勢180名」とする報道もあります。
この間、調査チームは80回以上の座談会を開き、市当局の幹部などから事情聴取を行っていたそうです。
●『香港文匯報』(2006/09/26)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0609260008&cat=002CH
●『成報』(2006/09/26)
http://www.singpao.com/20060926/local/876811.html
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党中央紀律検査委の上海常駐を拒めなかった時点で上海閥が頽勢にあったことが垣間見えます。
それでも胡錦涛は十分に手配りをした上で前進を重ねていったようで、『蘋果日報』(2006/09/26)の報道によれば、陳良宇の元秘書だった泰余・上海市宝山区長(当時)を拘束した8月22日は陳良宇が北京で開かれた中央外事工作会議に出席して上海を空けているタイミングを狙ったとのことです。
元秘書が陥落したことで危機を感じた陳良宇は公開の場に努めて多く顔を出し、汚職撲滅を訴えるなどして健在ぶりをアピール、同時に中央の追及から逃れようとしましたが、結局逃げ切れなかったことになります。
今回の陳良宇拘束も上海閥系の中央政治局委員が留守である時機を狙ったもの。陳良宇が上京して党中央政治局の会議に出席したところ党中央紀律委のレポートによって断罪され、身柄を拘束された9月24日には、曽培炎が欧州訪問中、華建敏はマカオに出張しており、賈慶林と郭伯雄はそれぞれ江西省と蘭州軍区を視察中で北京を留守にしていたのです。
突如という感じを私たちに与えた陳良宇解任というアクションも、実は絶好のタイミングをはかって実施された奇襲作戦。このあたりに権力闘争の気配がにじみ出ているように思えます。
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上海閥といえば肝心の江沢民は何をしていたのかといえば、江沢民は『江沢民文選』による多額の印税収入でホクホクしていた隙を衝かれたか、あるいは軍主流派という武力をも背景にした「擁胡同盟」に追いつめられて手も足も出せなかったというところでしょう。
もうひとり、現役上海閥では最高実力者である曽慶紅・党中央政治局常務委員(兼国家副主席)については、自らの身を守るために「擁胡同盟」になびいた可能性を指摘する声が出ています。
折しも「六中全会」(党第16期中央委員第6次全体会議)が10月8日から11日まで北京で開催されると発表されたばかりです。来年開催予定で大型人事や世代交代の行われる第17回党大会の前哨戦となるこの重要会議で、陳良宇は改めて断罪され、処遇が決まることになるでしょう。上海閥をはじめとした「反胡連合」にとっては苦いイベントになりそうです。
●「新華網」(2006/09/26/19:05)
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-09/26/content_5140866.htm
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なお、9月26日付の上海の地元最大手紙『解放日報』(上海市党委員会機関紙)は1面の大半を割いて陳良宇解任のニュース、その解任されたポストを韓正がそっくり代行するとの通達、そして賀国強による臨時党幹部大会での演説を配し、さらに同紙評論員による論文「中央の決定を断固擁護し、上海市をよくする仕事に全力で取り組もう」(上海閥の敗北宣言?)を掲げています。
党中央政治局員の失脚劇という大ネタですから、各記事ともども、紙面(pdf)を記念に保存しておくのもいいかも知れません。
http://epaper.jfdaily.com/html/2006-09/26/content_478454.htm
……ところで素朴な疑問なんですが、上海市長だった韓正、いくら胡錦涛派とはいえ汚職まみれの上海で独り身ぎれいにしていたのでしょうか。
いやいや、ちょっと気になっただけです。
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