フェイスブックの研究者チームが、単語を振動に変えて腕に伝える機器を開発した。100分のトレーニングで100の単語を認識できる。
スマホに届いたメッセージを、腕に伝わる振動だけで「読み」たいと考えたことがあるだろうか? フェイスブックの研究者チームが、まさにそれを実現するデバイスを開発している。言葉を現実世界の「Poke」(ポーク=指ちょん)にしてくれるのだ。
フェイスブックの研究者たちは、ギブスのような形状をしたウェアラブル機器を試作した。中にはアクチュエーターがあり、それが動くと特定の音に対応したパターンの振動が腕に伝わる。研究者は被験者たちに4つの異なる音素(単語を構成する機能を持つ音の最小単位)を区別させることに成功した。わずか3分でだ。このプロジェクトの技術面を先導するアリ・イスラー博士によれば、100分の訓練を受けた被験者たちは、100の単語を90パーセントの確率で認識できるようになったという。
今回の研究成果は、2018年4月21日からカナダのモントリオールで開催されるCHIカンファレンス(ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems :CHI 2018)で発表される。
今回のプロジェクトは点字とタドマ(Tadoma: 盲ろう者が話者の唇、顔、のどを手で触って言葉を理解する)に着想を得たものだ。プロジェクトが今後進んでいくと、たとえばスマートウォッチが振動で特定のメッセージを伝えるようになるかもしれない。現在「ブーッ」と鳴るだけのスマートウォッチが、会話などの活動を邪魔することなく、何が起きているのかをあなたに伝えてくれるのだ。聴覚や視覚に障害を抱える人々が、もっと容易に情報を得られるようになるかもしれない。
フェイスブックは2017年4月のF8開発者会議で、秘密のハードウェア開発部隊「ビルディング・エイト(Building 8)」が進めるこのプロジェクトをチラ見せした。 当時、プロジェクトは開始から6カ月を経た段階にあり、 フェイスブックは100語の判別が可能になることを期待するとコメントしていた。
それ以降今日までに、技術は改善されたように見える。今回の研究論文の共著者であるイスラー博士は、メール取材に応じて「最新の研究では、100分間トレーニングを受けた人々は90%の正確さで100語を認識できるようになりました。追加で100分間のトレーニングを受けて、500語を認識できるようになった人もいましたよ」と語った。
振動で言葉を伝える機器がどのように動作するか、映像が参考になる。試作機はコンピューターに接続され、試作機を腕に着けた被験者は、コンピューターを操作して異なった音素や単語の例を選択する。選んだ音素や単語は振動となり、腕で感じ取れる。
腕の上下にある様々なアクチュエーターの動きで異なる単語が表現される。被験者がいくつかの単語を区別できるようになると、研究者がテストをする。「会議は何時ですか」といった質問がコンピューターの画面に表示され、被験者は振動で伝えられた答えをコンピューターに入力しなければならない。
試作機は不格好でトレーニングは長い時間がかかる。現時点ではスマートウォッチの実現はまだ遠い。学習と使用はもっと簡単であるべきだし、精度も必要だし、もっと小さくしなければならない。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の上級研究員とMITの皮膚感覚研究所(Cutaneous Sensory Lab)の主任研究員を務めるリネ・ジョーンズ博士は、フェイスブックで進められている研究は将来が約束されていると考えている。ただ、ジョーンズ博士は、皮膚が耳や目と同等の情報処理能力を持つセンサーではないとも指摘する。そのため、どうしても必要な時以外は使いたくならないだろうとも考えている。
「どんな時でも、機器がブーッというのは嫌なものですけどね」とジョーンズ博士はいう。
振動で言葉を伝えるデバイスが本当に効果的なものになるには、もっと速くなる必要もあるだろう。イスラー博士は、このウェアラブル機器を小型化すると同時に、腕に単語を伝えるスピードを上げることにも取り組んでいると述べた。現状では、1分間に伝えることができる単語の数は4~10である。短い文章ならよいが、もっと込み入った内容のメッセージを伝えるのに十分な速さとは言えない。

試作機は、音声をはっきりした振動に変換して皮膚で感じ取れるようにする
by Rachel Metz 2018.04.18