一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「法テラス」が照らしているもの

2007-04-07 | 法律・裁判・弁護士

かれこれ15年くらいお世話になっているお店(居酒屋と小料理屋の中間)での話。

2年前にご主人が亡くなって、今はおかみさんと板前さんでやっています。  

ご主人の相続のときにはご主人の友人の弁護士にいろいろ相談したのですが、その弁護士にご主人の残した負債の整理を依頼したところ、おかみさんの意図を無視して「相手がこれで、というからこれで和解してきた」と勝手に和解してきてしまったそうです。
しかしその条件では資金繰りが厳しいので、返済が難しいといったところ、事務局の女性から「あなたを見損なった」などと恫喝された挙句(どうもこの先生、事務局の女性とデキているのか頭が上がらない様子)、弁護士のほうから辞任してしまい、あとはこちらに相談しろ、と 法テラスを紹介されました。

法テラスの相談センターに行ってみると、弁護士が2,3人出てきて曰く「返済するのが無理なら自己破産しちゃえばいいんですよね」ですと。

もともと負債をチャラにしたければ相続放棄とか限定承認とかがあったのですが、そもそもご主人名義の契約だったお店を引き継ぎたいという意思があったので、負債も引きついでがんばろうとしていたので、最初からバンザイするならしている話ではあります(細かいことはわからないのですが5年くらいかければ返済可能の由)。

さらに、法テラスの費用として毎月5000円ほどが引き落とされるそうです。  

私は法テラスって無料だと思ったのですが、HPの民事法律扶助業務のところを見ると  

援助開始決定を受けると、弁護士又は司法書士等の費用や裁判費用を立て替えます。受任又は受託を予定している弁護士又は司法書士がいない場合は、援助開始決定後、半月から1ヶ月で弁護士又は司法書士等を紹介します。立替費用については、原則として毎月分割で償還(お支払い)いただきます。  

となっています。

おかみさんは5000円を20ヶ月くらい払い続けることになっているようなので、法テラスが立て替えた相談料は10万円くらいになるのでしょう。
依頼人の話を聞いて結局「自己破産しろ」だけのアドバイスに10万円というのはいかがなものなんでしょうか?  
もちろん、私は依頼者側であるおかみさんの話しか聞いていないので、バイアスがかかっているかもしれませんが、おかみさんは月々5000円の支払いの意味、相談の対価の妥当性について今ひとつ理解できていないように見受けられました。  

「民事法律扶助業務」というのは要するに費用の補助と相談先の紹介であって、法テラス自身がに相談にのってくれるわけではないのに、「法テラス」という公的機関で弁護士を紹介されるために依頼者側はかえってその弁護士に遠慮をしてしまう、たとえば報酬についても「法テラスのお墨付き」と思ってしまう、ということなのかもしれません。 
その結果、立替制度が依頼者のための費用の補助ではなく、紹介を受けた弁護士のための報酬回収代行という側面が大きくなってしまう(=「扶助」をする相手が依頼者でなく弁護士)というしゃれにならないことになってしまうかもしれません。

理屈で言えばこの辺は法テラスの問題ではなく、弁護士の提供するサービスと報酬の妥当性という、いわば弁護士自治の問題なのですが、法テラス自身は自分が紹介した先の提供するサービスのモニタリングは行っていないのでしょうか。

企業であれば、サービス内容に比べて報酬が高い、とかそもそもこの人に相談していいのか不安(≒得意分野じゃなかったかなぁ)、というような弁護士には「次は依頼しない」という市場原理で対応することができるわけですが、個人には「次の相談」というのはほとんどないわけで(あるとすると、それだけ厄介ごとが起こると言うことなのでそれはそれで大変ですし)、サービスの評価や報酬の妥当性についてはほとんど情報がないわけです。

法テラスが一般市民の法律サービスへのアクセスをふやす、という役割を持つとするなら、そこまで踏み込む必要があるのかもなぁ、と思った次第です。


それで、件のおかみさんですが、実は取引先のお米屋さんが破産してしまい、管財人の弁護士から来た「代金9000円」の督促状を忘れて支払い期限を過ぎてしまい、お詫びかたがたその弁護士に電話したときに、その弁護士の対応がよかったので自分の状況を相談したところ、非常に親身かつ現実的なアドバイスをしてくれたので、その弁護士に相談している、ということです(法テラスへの月々5000円の支払いはあと十数回続くらしいですが)。

ということで、おかみさんは今は先の目処もたって、お店に専念できると明るく話してました(でも、「愚痴聞いてもらっちゃって」と勘定をまけてもらったのですが、そのへんの人の良さは心配なんですよねぇ)。


「法テラス」は、「法で社会を照らす」「日当たりのよいテラスのように安心できる場所」という思いを込めて名付けられたそうですが、今のところははからずも「一般市民が弁護士などから容易に法律的なサービスを受けるのは難しい」という現状を照らしているような感じがします。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 美しい日本語? | トップ | 知事選の結果 »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おひさしぶりです。 (toshi)
2007-04-08 14:18:04
ごぶさたしております。
法律扶助協会(法テラスの運営によって、現在はそちらへ移管されました)にて、4年ほど扶助審査委員をしておりました。
「10万円」といいますのは、単なる相談料ではなく、その後約半年に及ぶ代理人弁護士の報酬のことを指すものと思われます。たしか私が審査委員をしていた頃は債権者数によって12万から17万(破産の場合)、任意整理は債権者ひとりあたり2万円(つまり、時間がかかっても、たとえば5名の債権者となんらかの和解的解決を行う場合には10万円程度の報酬)となります。ご指摘のとおり、法テラスの「扶助案件」はけっして無料ではなく、立替制度です。毎月5000円から1万円程度の立替費用を継続してお支払いいただくこととなります。
また、弁護士にとって、扶助案件は、残念ながら「食べていける事件」とは言いがたいところがあり、みんなで困っている市民を助けるための「公益活動」の一貫として認識しております。(このあたりは、資金面でどうしても弁護士の手弁当には限界があり、扶助事件を法テラスという法務省、つまり国に明渡してしまわざるをえなかった経緯があります。いままで手弁当で頑張ってきた弁護士さんのうち、国の監督下になるのが嫌で、法テラス事業に参加したくてもできない人がたくさんいるのも現状です)このあたりは異論もあるところですし、また人様のブログを炎上させる種をまくことも控えますので、舌足らずのコメントとなってしまい、申し訳ございませんが。
ただ、その女将さんのおっしゃっていることが事実だとすれば、一番上に書かれている法律事務所はいろいろな面において「懲戒」対象事由に該当すると思われます。
返信する
追加ですが (toshi)
2007-04-08 14:26:46
私がgo2cさんのエントリーを拝読して思いましたのは、やはり弁護士は説明義務をもっと尽くす必要があるなと痛感します。おそらく、女将さんも、こういった制度について、よくわからないままに、毎月の立替金の支払を継続しているのではないかと思います。
医療過誤の医師側代理人を務めることが多いのですが、診療時と紛争勃発時の「ちょっとした説明」次第で、紛争が収まるのか長引くのか、大きく分かれます。法テラスができた意味は「市民に近づく法律家」が大きなテーマですが、そうであるならば、こういった事例をお聞きすると「まだまだ掛け声だけ」といった気持ちになりました。
法曹人口が大量に増加しますが、今後の大きな課題を背負ったまま突入していることに、法曹として不安を抱きます。
返信する
Unknown (まつい)
2007-04-08 16:35:49
 以前やりとりをさせていただいたことがあります、大阪の弁護士のマツイです。
 toshiさんが仰るように、10万円という金額からすれば、1時間程度の相談だけで終わったわけではなく、何らかの委任契約を弁護士との間でしているかと思います。
 ただ、これはやはり専門家である弁護士の方の責任だと思いますが、依頼を受けた弁護士の方できちんと相談者に理解してもらえるように、説明が尽くされていないのだと思います。どういう内容の契約をしているのかという基本的なところを!!
 消費者契約法の実体部分の改正について検討作業が進んでおり、業者の説明責任、情報提供義務の強化といった側面を弁護士の方は強調していますが、足下をみる必要があると改めて思いました。
 管財人の弁護士が親切な人だったようで、最後、ちょっとだけほっとしました。
 たまに聞きます、任意整理を受任して、弁済原資などを依頼者に確認、説明せずに、勝手に話をまとめていくという代理人の話を・・・。 
返信する
制度としては難しい問題ですね (go2c)
2007-04-09 00:24:07
toshiさん
マツイさん

お久しぶりです。

法テラスに実情をよく知らないまま、どうもおかしい、という疑問先行で書いてしまったエントリに詳細なコメントをいただきありがとうございます。

やはり今回の話は説明責任の部分は問題だと思います。
法律紛争に縁のない人は「法テラスからの紹介」と言われると、紹介された先にも「お上の権威」を感じてしまうのだな、ということも実感した次第です。


しかし、本人にとっては切実だけど受任する側としては経済ベースに乗らない案件をどうするかというのは難しい問題ですね(小額の債務処理は司法書士にも開放されましたが、原理的には弁護士がペイしないことは司法書士もペイしないでしょうから。)。

結局この問題も、社会のセーフティネットをどこのレベルで張るのかという議論なのかな、と考えています。

医療費については比較的前段階でカバーする国民健康保険制度があります。
ただ、法律扶助への資金面での援助については、弁護士自治への国の介入と言う点で弁護士の側に拒否感(保険点数制度などに振り回される医師会のようにはなりたくない、という)があるでしょうし、一般人としても個人の債務整理に何で税金を使うんだという議論も当然出ると思います。

となると最後は従来同様弁護士の公益活動という部分に依存せざるを得ないのかもしれません。

ただ、あくまでも経済原理で考えるならば、そのような「公益活動」もボランティアとしてではなく弁護士が法的紛争処理に関して職業独占(弁護士自治、のほうが正確でしょうか)の権利を認められていることの対価を負担する活動として考える、という見方もできるのではないかと、部外者としては失礼を承知で考えてしまったりもしますが・・・
返信する
弁護士法72条 (松井)
2007-04-09 16:17:51
 弁護士法72条、非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止ですね。
 三百代言の跳梁跋扈を防止して国民の利益を守るというのが法律の趣旨と言われていますが、もしかしたらこの条文を削除した方が、競争原理が働き、国民にとっては利益ということもありうるのではないかなどと考えたりもします。
 一時期、混乱するかもしれないけど、落ち着くところに落ち着くかどうか。
 悪いサービス提供者は淘汰されていくということになるかどうかですよね。

 ただ現状においても、適切な競争、淘汰によるサービス向上のためには、まずもって弁護士がもっと自らの情報開示をして、情報を提供し、説明義務を果たすことなんだと思います。
 この点、法テラスは大々的な宣伝を発足時にしていましたが、「無料」ということを強調しすぎて、弁護士に依頼するのも無料であるかのような誤解を世間に与えた点、なんだかなぁと。
 以上、つらつらと失礼しました_(_^_)_ 
返信する
弁護士法72条 (go2c)
2007-04-09 23:45:13
非弁行為の禁止については、示談屋とか事件屋の跳梁跋扈を防ぐためには重要だと思います。
ただ、形式的に法人格が違う場合(証券化におけるSPCとアセットマネジャーなど)のときにも適用されるのは実務上厳しい部分もあります(じゃあ、実質上同じならオンバランスじゃないか、という会計的な突っ込みもありますがw)。

このへんの線引きは難しいですよね。


法テラスの「公的機関」かつ「無料」という触れこみは、僕も誤解したのですがちょっとミスリーディングですよね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

法律・裁判・弁護士」カテゴリの最新記事