『これは父(91歳)と父の弟(88歳)の子供の頃の話です。』
いつも、ばあさんのお茶飲み友達として訪ねてきたのがサトばあさん。
サトばあさんがある日からおかしくなり、真昼間だというのに提灯を下げて上がって来る。
「塩を貸してくれんかな?」
そんなことを昨日も言ってきたが、又言い出した。
ばあさんが
「昨日、貸したのにどうしたんナ?昨日持って行ったじゃぁねぇかな。」
そんなことを言いながらお茶を飲んで、サトさは又提灯を下げて家に帰ったと思ったが・・・・
そのまま家に帰らなかった。
中が大騒ぎ、どうしたものかと思案した末、
「神様の仰せで狐が憑いたんだ」と、峰さが高鳥谷神社の前で神主の真似をして祈祷をした。
お盆に散らした45枚の方角の書かれている小さな紙切れにご幣を近づけ、
偶然に付いて来た紙に書かれている方角にばあさんがいるーという神の仰せだということで
たった五戸のは俄かに大騒動となり、その方角を中心にそこらここらの聞き込みから始まった。
もう秋は深まり、霜も来るような日も続いた。
聞き込みの話で、
「胡桃沢の辺りで小さなばあさんが首に手ぬぐいを巻いて、昼間だっちゅうに提灯を下げて下って行ったに」
・・・誰かが聞いて来た。
それが神様の仰せの方角であったのかどうかは知らないが、
三日目くらいにどこかの田んぼの藁塚で見つかった。
履き物はなく、足は霜焼けが激しく、衆が戸板に乗せて担いで来た。
狐に憑かれておったので、峰さが家の戸間口で狐を払う祈祷を施した。
寝床に運んだ時には狐もすっかり抜けており、軽くなっていたという。
それは神様の言う事だからほんとだに・・・中の人が口々に言っていた。