「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

エピローグ(1)

2005年11月20日 09時42分59秒 | 「境界に生きた心子」

 我々は誰しも皆、愛し、求め、苦しみ、人を傷つけながら生きていく。
 心子はこの上もなくラジカルな姿で、その舞台を踏んでいった。
 心子の生きざまは万人のものだ。
 心子の問題は我々自身のものだ。
 心子は我々を代表してその重みを担っていったのだろうか? 
 それらを抱えて、心子は力の限り生き抜いたのだ。

 人は世に生きて、様々な実績や家族などを残していく。
 それは次の世代へと受け継がれていく。
 それが人の生きた足跡であり、この世に蒔いていく種だ。
 だが人生の値打ちはそれだけだろうか? 
 心子は何を残したのだろう? 
 優れた能力も兼ね備えながら、なるほど形あるものは残せなかったかもしれない。
 しかし心子は、他の何物にも変えられない想い出を残していってくれた。

 心子と僕、二人の恋人としての交流は、わずか一年余りの年月だった。
 しかしその間に、一生かかっても得られないくらいの劇的な経験を、心子は僕に贈ってくれた。
 僕が忘れかけていた清廉で無心なものも思い出させてくれた。
 業績やDNAは残らなくても、心子の魂は果てなく生き続けていく。
 人の心に残る生き方こそが、何よりもかけがえのないものなのだ。

(続く)


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