医療マーケティングの片隅から

医療ライター・医療系定性調査インタビューアーとして活動しています。独立30年を機に改題しました。

幹細胞再生医療への過剰な期待はやめよう

2014年05月19日 | 医療・健康



前回に続きMMB勉強会での話から。
聖マリアンナ医科大学の形成外科学教授で幹細胞再生治療学の特認教授である井上大先生の講演でした。幹細胞治療の現状と問題点を、私たち素人にも非常にわかりやすく話してくださいました。

印象的なメッセージとしては、

現在のところ成功している再生医療技術はコラーゲンやヒアルロン酸、臓器の細胞の1部、遺伝子や医薬品などを用いてもともとその人が持っている体性幹細胞を騙し、目覚めさせ、ムチで叩き、働かせて組織の再生を促しているに過ぎない。いわば「貴方任せ」方式。
それなのに、「夢の治療」だの「若返り」だの、マスコミは過剰に報道しすぎ。

ということでした。
マスコミ過剰報道の件は、マスコミだけではなく、渦中の研究者も「若返りで社会に貢献したい」とかなんとか、近いことを述べていたように思いますが・・・。

再生医療技術というと、幹細胞と臓器の細胞をシャーレの中で組み合わせて培養し、新しい臓器を体の中に移植するといった医療を想像しますが、現実はそこまでではないようです。実際、いま成功しているのは臓器の培養まで。それを体内に移植した段階で、栄養補給路がないため細胞が死んでしまうそうです。「仏つくって魂入れず」ではありませんが、臓器というブツはできても、それをしかるべきところで機能させることまでは至っていません。「耳の軟骨ですら実現していない」とのこと。

しかも、幹細胞が何かのエラーを起こしてがん化しないとも限りません。その検証には長期間かかります。

「移植した細胞ががん化することなく、患者さんが人生を全うすることが再生医療のゴール。評価が定まるのは20年先」

だそうです。

しかしながら、研究費の公費助成には単年度の研究成果が求められます。いきおい、本質的な意味づけを度外視して、短いマイルストーンで得られた結果が一人歩きする→それをマスコミがもてはやす…の悪循環に。

さらには、再生医療を目指す若い医師が「一発狙い」になっているとの批判もありました。まだ「脆弱」であり、冷静に「一歩ずつ足下を照らして進めることが必要」な幹細胞再生医学であるべきなのに、

「できるか?できないか?に心を奪われ、すべきか?すべきでないか?の判断ができなくなっている」

と井上教授はおっしゃいます。科学者も、将来的なビジョンをもつのはいいけれど、軽々に実用化の見通しやメリットを語るべきではないのだろうと思います。

それにしても、企業もそうですが、短期的な成果主義は何かと弊害がありますねえ。国の研究支援のあり方はこれでいいのだろうか?とかねてより疑問に思っていたので、わが意を得たり、の講演会でした。

さて、とりあえず、わたくし、「幹細胞コスメ」なるものは当面使わないことにしました。
幹細胞コスメも自分の幹細胞を騙して、揺り動かして…の類。おそらく、ほとんどの製品で長期毒性はまだ検証されていないからです。それ以前にこの手のコスメは価格が異様に高くて手が出ない、というのもありますが…。


酩酊カメラマン ラクーン関根さん

 

 

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