蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

「国家の自縛」佐藤 優 著 (産経新聞社刊)を読む。

2005-10-19 04:54:45 | 読書感想(ぜひ読んで見て下さい!)
 10月19日(水)

 「国家の自縛」。外務省が切り捨てた異能の外交官佐藤優氏の前著「国家の罠」に続く二冊めである。

 前著、「国家の罠」があまりにも面白くその感想をブログに投稿したところ、記事を読んでいただいた「喜八ブロ」さんが本書の出版を教えてくださったのである。

 田舎暮らしゆえの不便さ、注文した本屋から届いたの電話を受け、軽トラで駆けつけ、買ってきて早速読んだ。
 これがまた面白く一気に読み終えた。

 今度の著書は、産経新聞社の元モスクワ支局長、現在は同社正論調査室長の斉藤勉氏と佐藤優氏との対談形式で書かれておりとても読みやすい。
 
 本書は、「国家の罠」の解説書とも読め、「国家の罠」が書かれた経緯、著者のこれまでの背景が読みとれ余計に興味を深くした。

 本書を読んで、佐藤優氏の人間としての深遠さ、文明批評の確かさに頷かされた。
 若き日に日夜研鑽されたであろう神学、哲学研究に裏打ちされた明確な自己の視点がある。
 佐藤氏が神学科を選んだのは母上がクリスチャンで、その影響を受け自身もクリスチャンになったためとのこと。
 情報の「プロ」と自他ともに認める方がクリスチャンというのは少し意外であった。
 これだけ頭脳明晰な方がクリスチャンになられたというのは、よくよくの思索の結果かと推察される。
 512日間の独房生活、そのなかでの思索と執筆、並みの人ではない。その背景に信仰の強さが有ったのかと感じた。
 おそらく佐藤氏の精神の強靭さをもってすれば時代を遡って、キリシタン棄教の拷問にも耐え切り聖人に列せられたのではないかと想像した。
 そして佐藤氏は神学についてこう語っている。

 「神学というのは裏の学問、虚の学問なんです。法学も哲学も文学も医学も理学も、全部こういうのは実の世界の学問なんです。…
 AとBという考え方がぶつかった場合、表の学問では論理整合性の高いほうが勝って正しいとされる。しかし、神学の場合は大体、正しい理論がまけます。間違えた理論の方が政治を使ったり暴力を使ったりして正しい理論をやっつけるんですね。これが神学の歴史です。
 しかし、よく考えてみると、とてもこれはバランスがとれる。正しい理論が勝っちゃうと、世の中正しい人だらけになっちゃいますよね。そうするとつまんないじゃやないですか。悪い奴が勝っても、…うしろめたさがあるんですね。負けた連中は少数派になっても俺たちは正しかったと考えると、それなりの自分たちの自信がでてくると。その両方があってちょうどバランスがとれるんじゃないかと思うんです。
 ですから、そういうものの考え方っていうのは、普通の大学へ行った人とは違う感じになる。『負けたよー』と言ってもその人が間違えたとは思わないっていう訓練がされているから、あまり偏見にとらわれずに、まずその人と会って、言っていることを聞いてみる。それまでは判断しませんっていう感じの訓練がよくなされるんです。」
 
 今、私たちは日々情報ラッシュの中に立ち往生させられいる。そこでは、つい面白いほうに眼を奪われがちである。マスメディアが今日、報じていることのをどこまで信じていいのか分からない状況に置かれてはいるのではないか?
 
 今、私たちにこそ、佐藤氏の言う「」神学的訓練が必要なのではないかと思った。

 とにかく佐藤氏は、私なんかにはただ混沌としか見えない世界各地での紛争の実態を明快な包丁捌きで図式化し提示してくれる。
 
 そして、最後にこんごのことにつて、
 
 外交官にはまったく未練はないし、われわれ情報やというのは表に浮かび上がったら、その瞬間で終わりですよ。…ただ、情報の関係者だけでなく外交官も学者たちも外国人は、私を通じて日本人というのはどういう生き方をするのかって見ているんですよ。本当に信頼できるのかと。北方領土問題は私が仕事の方便でやっていたのか、それとも日本人として本気で領土を取り返そうとしていたのかと興味を持ってみています。だからみっともない形で外務省を辞めることはできないんです。
 私や鈴木宗男さん、東郷和彦さんの担当した北方領土交渉は、歴代総理の命令に基づいて国策として行っていたのですが、それが時代の転換の中で「犯罪」とされてしまったのだと言う認識を私は最後まで述べ続けていきます。
 しかし、いつか裁判も終わりますから、その後は現実からできるだけ離れたところで、具体的には「日本国家のあり方」、伝統的言葉遣いで言うところの「国体」の問題に取り組みたいですね。
 …日本の国家形成を思想史的に掘り返し、整理して、考える種を提供していく。」

 なんと高邁な姿勢ではないか。
 このような人物を国策捜査で「偽計業務妨害」とは、何と言う不毛な白昼夢をわれわれは見せ付けられているのか。

 まさに「国家の自縛」以外の何ものでもないのではないか。
 
 高裁での無実を信じたい。