monologue
夜明けに向けて
 



いよいよ12万とされる大軍の幕府軍が見守る前でハジマーシュすなわち「創む明日」と呼ばれる芸術家森宗意軒の笛太鼓琵琶で盛り上げ踊り歌い演出する原城(ハライソ)舞台は佳境に入った。戦うことを忘れて愛おしむ、と異国の言葉でコーラスしている。
幕府軍は観客にとどまらず自分たちも踊り唱えずにいられない。ついにクライマックスを迎えるとその時、雷鳴が轟き閃光が奔りすべての一揆衆の命の代わりに、一揆のシンボル四郎だけを引き渡すという裏取引通り舞台中央に16歳の美少年天草四郎(益田時貞)がひとり残された。
雷光に照らされて「わたくしはユダヤ人の王ナザレのイエスJesus de Nazaré, Rei dos Judeus」メサイヤである。世を救う、と宣言した。
そして、「LOVVAD・SEIAOSẨCTISSIM・ SACRAMENTO (最も貴き贄を讃え崇める)」と続けた。
額には☆の印が輝いている。その圧倒的なオーラに撃たれて幕府軍も一揆衆ももう境がなかった。わけがわからないままウオーン、ウオーンとみんなが抱き合い啼きだしたのであった。
それが一揆の終わりだった。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


口裏  


知恵伊豆こと松平伊豆守信綱は仕事とはいえ非道な領主の側に立って後世に大量殺戮者として名が残るのは気が引けた。一揆側の山田右衛門作と口裏を合わせた。伊豆守は息子の日記に二月二十八日の総攻撃ですべての反乱軍を退治したように記させ、たったひとり山田右衛門作が生残ったことにすることに決めた。
そのため、実は領民は可哀そうでひとりも殺さなかったが島原の乱で三万七千の農民が死んで。三万四千は戦死し、生き残つた三千名の女と子供が、落城の翌日から三日間にわたつて斬首されてみんな喜んで死んだことになってしまった。伊豆守の息子、甲斐守輝綱は日記に、「剰至童女之輩喜死蒙斬罪是非平生人心之所致所以浸々彼宗門也」と記している。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




二月二十二日。伊豆守は死んだ一揆軍の腹を腑分けさせて胃腸、腹中の物が青草の類ばかりで米食の跡のないことを見届けた。それで一揆の兵糧はほぼ尽きてしまい、抵抗する気力を失ったと見て一揆軍の軍師山田右衛門作の提案に知恵伊豆は乗って一揆のシンボルである四郎を引き渡してくれるならキリスト教以外の領民たちの命は助けようと約束したのである。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )