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Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

代理母の迷い「燕は戻ってこない」

2023年01月17日 | 


「OUT」から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける桐野夏生による、予言的ディストピアというキャッチコピーに惹かれて読んでみました。

29歳のリキは北海道の寒村の出身。故郷での介護職を辞めて上京したものの、学歴も美貌もコネもない彼女は非正規の職しか得られない。派遣で病院事務の仕事をするが、食べるのがようやく。高額の報酬に釣られて、代理母になる決意をするが…

冒頭、貧困女子の生活の様子が生々しく書かれています。
昼食は前日に割引セールで買ったコンビニのおにぎり、衣服やアクセサリーを買うなんて夢のまた夢、スタバのコーヒーを飲む余裕もない。
そんな生活に嫌気がさして、リキは元有名バレエダンサーの草桶の子供の代理母になる契約を交わす。
草桶は自分の遺伝子を持った子供を切望するが、妻は不妊治療をしても妊娠できない。
1千万という高額報酬で、リキは草桶の精子を人工授精して妊娠するのです。

しかしこの登場人物たちの、誰も好きになることができない。
リキは貧困生活を嘆きながらそれを打破する努力をする訳でもなし、金がないくせに男を買ったり、代理母の契約をしながらも、産むかどうするかずっと迷っている。
挙句の果ては、草桶の人工授精をした同時期に他の二人の男とセックスしたりする。
草桶はまた金持ちであるせいか上から目線もいいところで、その言動にいらっとさせられる。
草桶の妻も夫に振り回されながらずっと迷っているし、親友の変人りり子がまた無責任に引っ掻き回してくる。
誰にも感情移入できないところで、貧困、妊娠、出産、不妊、代理母といった現実が突きつけられる。

優柔不断でずっと迷い続けていたリキが最後に下した決断には、あり得ないと驚かされるものの、よくやった!と拍手をしたくもなります。
全てに自信がなく主体性がまるでなかった彼女が、初めてキッパリと大きな決断をしたのですから。
その先の不安は拭えないものの、母は強しと言うべきなのでしょうか。
しかし残念ながら、「OUT」ほどのインパクトはありませんでした。

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「ムスコ物語」ヤマザキマリ著

2023年01月08日 | 


あのヤマザキマリが、海外を渡り歩きながら息子と暮らした日々を描く子育て放浪記。
この人のことは、「イタリア家族風林火山」「世界の果てでも漫画描き」「望遠ニッポン見聞録」「ヴィオラ母さん」などで散々楽しませて頂いてきましたが、息子のことをじっくりまとめて読んだのは初めてです。
男の子の母として、興味がありました。

フィレンツェで同棲していた貧乏詩人との間の子として生まれ、その後シングルマザーとなった母と、サッポロ、シリア、リスボン、シカゴとあちこち連れ回され、最終的に自分の意思でハワイの大学を選んだデルス君。
直情径行型、破天荒の母親に比べて、いつも何処か醒めた目で見ているようで、その対比が面白い。

デルスが9歳の時に、35歳の母親は「細くて病弱で現役の大学生」に熱烈に求愛され、サッポロからシリアに渡るのですね。
そのベッピーノ氏は、著者が中学生の時に欧州の電車の中で出会い、イタリアに招待してくれた陶芸家の孫。
いかに長い付き合いだったとはいえ、いきなり14歳上の子連れの日本女性と結婚したいと打ち明けられたベッピーノのマンマはどんな気持であったことか。
そのイタリア人家族と一緒に暮らした時期のことは、「イタリア家族風林火山」に面白おかしく描かれていました。
大家族というのは、パワフルな姑、夢想家の舅、98歳の大姑、お洒落な義妹、鶏30羽、アヒル20羽、犬2匹、猫3匹、そして夫と息子とで構成されていたというのです。いやはや逞しい…
(その時期のことは「ムスコ物語」には書かれていませんが、デルスが13歳の頃らしい)

この本の後書きに「ハハ物語」と題する、息子デルスの文章があります。
サッポロで母と祖母、犬のピエラと楽しく暮らしていた時に、いきなりシリアに行くと告げられた時の戸惑いと悲しみ。
”子供というだけで、親のどんな理不尽な決定にも耐えなければならないのが、悔しくてならなかった”
しかし、最後に
”息子にとってこの世で誰よりも理不尽でありながらも、お人好しなほど優しい人間である母ヤマザキマリ。そんな母のおかげで国境のない生き方を身につけられた私は、おかげさまでこれから先も、たったひとりきりになったとしても、世界の何処であろうと生きていけるだろう”
息子にこんな風に書かれたら、母親冥利に尽きるでしょうね。

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反田恭平「終止符のない人生」

2023年01月02日 | 

隔離期間中に読んだ本の一冊。
ショパン・コンクールで2位を取った反田氏がどのような境遇に生まれ育ち、どのようにしてあの栄冠を勝ち取ったのか、興味がありました。

反田恭平1994年生まれ、名古屋にいた3歳の時、ヤマハ音楽教室に通い始める。
4歳で東京に引っ越すと「一音階ミュージックスクール」に通い、その頃から音当てクイズが得意で周りを驚かせる。
しかし本人はサッカーの方に夢中でピアノはその次だったのだが、11歳の時に試合中の事故で手首を骨折。そのあまりの痛さにサッカー選手になる夢を断念し、桐朋学園大学音楽部付属「子供のための音楽教室」に入る。
そして桐朋高校音楽科に入学。
反田家にもその親戚にも、ピアニストや音楽家は一人もいないのだそうです。
母上はスティービー・ワンダーが好きという程度、父上に至っては音楽にはまるで無関心だったと。

2012年、桐朋高校在学中に日本音楽コンクールで第1位に入賞し、その縁で国立モスクワ音楽学院に留学。
こちらがクラシック音楽の牙城であることは有名ですが、モスクワを旅行した際、サービス全般やインフラ設備のあまりの悪さに、留学生はどうしているのだろうと不思議でしたが、この本によるとやっぱり。
寮のトイレは便座がない、シャワーはお湯が出ない、しょっちゅう断水が続いてトイレも流せない、窓は壊れていてマイナス20℃の外から隙間風がビュービュー入る、タクシーにはぼったくられる、いきなり拳銃を突きつけられる。
そんな中で著者はピアノとロシア語を必死で勉強したのだそうです。
「一段劣ったアジア人」と教師陣からも差別的に見られる中、実技試験で主席を取ったら、途端に周りの態度が変わったのだと。

その後の活躍ぶりは周知の通り。
2015年、イタリアの「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」で優勝。
2021年、第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位、これは内田光子さん以来51年ぶり。
3週間に渡って行われるショパン・コンクールの内幕が細かく書いてあって、その壮絶な様子に息を呑みました。
あのチョンマゲ風ヘアスタイルも、自己アピールのひとつだったのですって。
本全体から、物凄くアグレッシブな、何処までも強気の若者像が浮かんできます。
やる気のない草食系の若者が増えていると言われる今、頼もしい限りです。

桐朋学園の子供音楽教室から一緒で、ショパンコンクールで4位だった小林愛実さんのことにも触れられていて、彼女は誰よりも近しい、仲のよい幼馴染であり、尊敬するライバルであると。
その彼女との結婚&妊娠の報告が今日発表され、なんとも嬉しいお正月ニュースでした。


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「ザリガニの鳴くところ」

2022年12月24日 | 


映画を観て、どうしても気になって原作を読んでみました。
ディーリア・オーエンズ著、全世界1500万部突破というベストセラー。

映画と同じように、チェイス・アンドルーズの殺人事件とカイアの成育シーンが交互に語られます。
やはり心理描写は、本の方がずっときめ細やかです。
カイアの母親がある朝出て行ったまま帰らなかったこと、その母を待ち続ける幼い少女の気持ちが何度も何度も繰り返されて、痛々しい。
上の兄弟たちも暴力的な父親に愛想をつかして次第に家を出て行き、遂にすぐ上のジョディも出て行ってしまう。
ジョディとカイアはとても仲が良かったのに、どうしてジョディは彼女を連れて行かなかったのかと映画では不思議でしたが、本を読んで納得しました。
後にジョディがカイアと再会した時に語るのですが、彼はその時75セントしか持っていなかったのだと。
彼とてもその時、10歳くらいだった筈。
それで6歳の妹を連れて行くことは、不可能ですね。

ホワイト・トラッシュ(貧乏白人)であるところの父親が、どんな家に生まれ、どうして飲んだくれの暴力男になってしまったかも、本では詳しく語られています。
暴力的な父親と二人きりになってしまったカイアだったが、ごくたまに父親と穏やかな時を持てたこともあった。
そしてとうとうその父親にも見捨てられ、たった一人になってしまった少女の孤独の叫びには胸が苦しくなります。

映画では語られなかった「ザリガニの鳴くところ」の意味も、説明があります。
学校にも行かなかったカイアに読み書きを教えてくれた少年テイトが、こう言うのです。
「茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きている場所ってことさ」と。

映画でも本でも、ラストのどんでん返しに驚愕するのは同じですが、本の中の例えばこうした文章がその理由を正当づけしているかもしれません。
”ここには善悪の判断など無用だと、カイアは知っていた。そこに悪意はなく、あるのはただ拍動する命だけなのだ。たとえ一部の者は犠牲になるとしても。生物学では、善と悪は基本的に同じであり、見る角度によって替わるものだと捉えられている”
ミステリーとしてはやや弱い所があるのは否めませんが、家族に捨てられ、湿地の中でただ一人生きて来た孤独な少女の成長物語をじっくり味わうことができました。

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「奏鳴曲 北里と鴎外」

2022年12月18日 | 

万座の宿で夢中になった本、読み終わりました。
この二人がこんなライバルであったとは…

北里柴三郎は熊本の小村の庄屋に生まれ、幼い頃からきかん坊で軍人になりたかったが、二人の弟をコレラで亡くしたこともあって医者になることを決意する。
森林太郎は津和野の御典医の坊っちゃんとして生まれ、早くから神童と見なされ、一族の期待を一身に背負う。
二人は時を同じくして東京医学校(現東京大学医学部)に入学し、ほぼ同時期にドイツに留学する。
明治・大正の日本の衛生医学の指導者として生涯のライバルとなり、人生を複雑に絡ませて行く。

ドイツでコッホに師事し、ペスト菌を発見し、「日本の細菌学の父」の異名を持つ北里。
この人のことは実に豪快に描かれています。
「不肖柴三郎、いざ参るったい」というのが口癖で、体格も性格も肥後もっこすそのもの。
日本に妻がいながらドイツでは下宿先の女主人モニカとねんごろになり、晩年も新橋の芸者などと浮名を流したようですが、その大らかな性格からか、憎む気にならない。

かたや森林太郎は、非常に優秀ではあるが、あんまり好きになれない男として書かれている。
「北里が上昇気流に乗ると、ぼくの失速が始まった」「北里が上げ潮に乗れば、ぼくは退潮になる」
といった調子で、一人称の彼の独白からは、神経質さや嫉妬心ばかりが目に付くのです。
林太郎がドイツから追いかけて来た恋人エリスを棄てた話は有名ですが、この本によると、彼はドイツではエリスと結婚するつもりであったらしいですね。
それで彼女に、日本への船のチケットを渡して帰国するのです。
ところがエリスの父親が軍人であったことから、軍医の彼は、外国の軍人の親族との結婚は禁じられていると石黒忠悳に諫められます。
いずれにしても彼を慕う恋人を裏切ったことに違いはないのですが、当時、莫大な国費を使っての留学をした身であっては、国と親族を裏切ることはできなかったのでしょう。
そして順天堂閨閥の娘、登志子と見合い結婚をする。
罪の意識に耐えかねて結婚早々「舞姫」などを出版したせいか、登志子とも離縁してしまうのですが。
10年ほど経って、また条件の良い18歳下の娘と再婚しています。



姑息な手段を使って北里を蹴落とそうとしたり(それは結局失敗に終わる)、
自らが主張する米食主義に固執して、日清・日露戦争で陸軍内に脚気により何万人もの死者を出したりと、文豪森鴎外の裏の面をここまで書いちゃっていいの?と心配になる位ですが、明治天皇、後藤新平、福沢諭吉、石黒忠悳などあの時代の著名人との複雑な関りが出てきて、説得力があります。
明治22年、二人がまだ若くてドイツに留学していた頃の、北里と後藤新平との会話に、ライバル二人の立ち位置がよく分かるような気がします。
北里「チビスケには難儀させられたと」
後藤「チビスケって誰のことだ?」
北里「今や陸軍軍医の出世頭の、森林太郎閣下たい。我執の塊で、自分の意思ば弱く、思うように生きられんのを人のせいばしちょる。どんだけ偉くなっても、根っこはチビスケのままじゃ」

450ページのどのページも読み捨てできないような、ギッシリと濃い本でした。

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「あの家に暮らす4人の女」「砂嵐に星屑」

2022年11月28日 | 

昨夜のコスタリカ戦はいいとこなしの試合で、ガーッカリしましたが…
選手たちはもっとガッカリしているのでしょうね。



「あの家に暮らす四人の女」三浦しおん著
杉並の古い洋館に暮らす、詩集作家の佐知(37歳)と気ままな母、佐知の友人リアリストの雪乃とダメ男に甘い、その後輩多恵美。
開かずの間から河童のミイラが現れたり、多恵美がストーカーに付きまとわれたりと、日々の珍事に事欠かない。
恋愛や結婚ばかりがすべてではないと思わせる、女たちの笑いに満ちた緩やかな日々。
気の合う女4人で暮らす生活は、それは楽しいだろうけれど、綺麗に描かれ過ぎているような気もします。
一つ屋根の下に暮らせば、小さなアラが気になったり、一人若くて可愛く、デートにいそしむ多恵美に嫉妬したりとマイナスの面も多少は出てくると思うのですが…
世田谷の空の主、カラスが語り手になったり、抜かれる時に悲鳴を上げるという人型の植物、マンゴラドラまで登場する、しをんワールド全開の楽しい小説です。



「砂嵐に星屑」一穂ミチ著
大阪のテレビ局が舞台。
社内不倫の前科で左遷され、腫れ物扱いの四十代独身女性アナウンサー、娘からはマスゴミとバカにされ、同期の早期退職に悩む五十代の報道デスク、好きになった男がゲイで望みゼロなのに同居している二十代タイムキーパー女子、非正規社員の現状にぬるく絶望している三十代AD男子。それぞれが人生に悩み、絶望しているようすが、テンポの良い関西弁で語られる。
私は三章の女子の悲しみに心打たれましたが、彼女、結花の台詞が凄い。
”わたしのことを好きになってくれへんのなら、せめて一発やらせてください。
「何やねんお前、ほんま何やねん、最悪や、出てけ」
顔を背け、呻くような泣くような声を漏らす由郎を見下ろしているうちにだんだん衝動が収まり、遅まきながら冷静になってきて、「ごめん」と無意味な謝罪を残して離れた。好きな人が自分を好きじゃないこと、好きな人に優しくできないこと、あんな男にまんまとやられてしまったこと。蛇行し乱高下する結花の軌道は惑うどころか迷走の極致だった”
結ばれることがない人を好きになった結花の悲しみは分かるけれど、だからといって「せめて一発」とか、その相手と同居するとか、或いは他の男に安易に抱かれるという辺りが私には理解できませんが、それでもヒリヒリする痛みが伝わってきました。
全編を通して、生きることの息苦しさ、それにもがく人間たちへの応援歌を歌い上げたような短編集です。

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「自転しながら公転する」「ロシア点描」

2022年10月24日 | 

「自転しながら公転する」
東京で働いていた32歳の都は、親の看病のために実家に戻り、近所のモール内のブティックで働き始める。恋愛、家族の世話、仕事、そして結婚もしなくちゃなんてと悲鳴を上げる彼女は、ある日寿司職人の寛一に出会う…
意味あり気なタイトルから期待したのですが、要するに少々面倒くさい女の恋愛物語でした。
自転とは自分の人生の動き、公転とは自分の周りの動きを意味するのかな?
確かに環境は自分の意のままには動かないし、それによって自分自身もブレてしまうことが人生には多々ある。
ごく普通の、学歴もキャリアも強い意思もない女性である主人公が、環境に振り回されながらどうやって人生を切り開いていったか?
恋愛についても散々迷いながらだった彼女の、終章の「明日死んでも百年生きても、触れたいのは彼だけだった」というセリフには感じ入りました。



「ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔」

”こんなひどい戦争を始めたロシアのことなど理解したくない、という意見もあるでしょう。しかし、理解することと賛同することは違います”とは前書きの言葉。
この本は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった後の、今年3月に出版されています。
ロシア通の著者が、人々、住宅、地下空間、街並み、食について面白おかしく、そして国際関係、プーチン権力について易しい言葉で説明してくれます。
ロシアというと大国というイメージですが、実はGDPは日本の三分の一以下であり、2020年の国別ランキングでは11位でトップ10にも入っていないのだと。
国土は日本の45倍で確かに広大だが、人口は1億4400万人で、日本より2千万人程多いだけ。
それなのに何故そんなイメージが?
”ロシアを『大国』たらしめているのは意志の力、つまり自国を『大国』であると強く信じ、周囲にもそれを認めさせようとするところにある”と。
ロシアをほんの少しばかり旅行した私、なんとなく納得してしまいました。

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「線は、僕を描く」水墨画の世界

2022年10月21日 | 


高校生の時に両親を突然の事故で亡くし、孤独の底から這い上がれないでいる霜介。
勉強にも運動にもやる気を出せず、なんとか付属校から大学に進学したものの、日々を無為に過ごしていた。
ある日、水墨画の大家の湖山に出会い、ひょんなことからその内弟子となる。
水墨画の世界に没頭し、努力する日々の中で色々な人に会い、世界を広げて行く霜介。
2019年メフィスト賞受賞。

今週、映画館でこの映画の予告編を観て興味を持ち、原作を読んでみました。
水墨画にまったく無縁であった霜介が、大家の内弟子になる経緯はあまりに御都合主義な気がするし、本書の中で水墨画の大家やその兄弟子たちが語る言葉は、少々哲学的過ぎる嫌いもあります。
「形ではなくて、命を見なさい」「花に教えを請え」「美の祖型を見なさい」
「心がどれくらい清らかで伸びやかで生き生きと描かれているかどうかが問題」
「形や技術なんて枝葉に過ぎない」「心の内側の宇宙を見ろ」等々。
しかしこの本の筆者が、有名な水墨画家であると知って驚きました。
本のカバーを外すと、著者が描いたという水墨画が現れました。
水墨画の奥の深さを教えてくれると同時に、孤独な自分の世界から一歩も出られないでいた青年が、少しずつその殻を打ち破っていく成長物語でもあります。



原作を読んだ後、その映像化を観て感動することってあまりないのですが、例えば「蜂蜜と遠雷」はその例外の一つでした。
国際的ピアノコンサートを舞台とするこの小説には色々な楽曲の名前が出てきてクラッシック音楽に疎い私には分かりにくかったのを、映画ではたやすく聴かせてくれましたから。
この本も、水墨画を文字であらわす表現力は素晴らしいと思うのですが、それを映像で観られたらどんなに楽しいか。
この週末から公開されるという、横浜流星主演の映画が楽しみです。


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「親のトリセツ」「ドキュメント女子割礼」

2022年09月27日 | 


「親のトリセツ」カータン著
元CAのカリスマ主婦ブロガー、カータンが描く、コミックエッセイブログ。
コミックというので失礼ながらあんまり期待していなかったのですが、共感できることばかりでした。
「健康以下、介護未満」という言葉が示すように、医療的な介護が要るほどではないけれど、物忘れ、鬱、思い込み、頼り切りが激しく、自分だけでは生活できない親とどうつき合うか?
「年老いた親とのつき合いは、切なさと苛立ちの連続」という言葉、私が日々痛感していることです。
自分を保護してくれる大きな存在だった親が、いつか自分が保護しなくてはならない弱い存在になってしまったということ。
その現実を認めた上で、どうしたら明るく相手をすることができるか?
そのノウハウ(経験談)が具体的に書いてあってありがたい。
しかしこの著者には、助け合い励ま合い、共に戦ってくれたお姉さんがごく近所にいらっしゃるのです。
羨ましい限り…




「ドキュメント女子割礼」内海夏子著



女子割礼(FGM)という野蛮な習慣については、以前から私は憤りを覚えていたのですが、この本でその実態、背景、歴史などを詳細に知ることができました。
少し古いですが2000年のエジプト人口健康統計調査では、既婚女性の97%がFGMを受けて、11〜19歳の未婚女性でも、既に78%が受けていたと。
そして今も、アフリカの28ヶ国、そしてアラビア半島の一部で広く行われていると。
その具体的な方法についてはあまりにも生々しいので省略しますが、つまるところ、クリトリス切除も陰部封鎖も、”女の性欲を取り去り、処女性を守るため”という男性優位社会から生まれたものに他ならないようです。
そうしないと結婚できない、淫乱と思われる、地域社会に入れて貰えない等という理由から、その地域の女性たちには、選択の余地はないようです。
それによっての健康被害、精神的なダメージで一生苦しんでいる女性は少なくないというのに…

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「姑の遺品整理は、迷惑です」「月の満ち欠け」

2022年09月10日 | 

「姑の遺品整理は、迷惑です」垣谷美雨著

郊外の団地で一人暮らしをしていた姑が突然亡くなり、嫁の望登子は遺品整理を始めるが…
膨大な数の物、物、物、エレベーターのない4階の上り下りに五十代の望登子は悲鳴を上げる。
「お義母さん、どうしてこんなに溜め込んだのですか?なんで少しは捨てておいてくれなかったのですか?」
という言葉が何度も何度も彼女の口から出てくる。
それに比べて実母は、癌を宣告されてから見事に身辺整理して何一つ残さなかったのにと。
何十回も通う内に、姑の知らなかった人間臭い顔が見えてきて、それが故に近所の人たちから片付けを助けて貰ったりもする。
そして完璧だったと思っていた実母の、意外な面も見えてくるのですが…
表題通りの中身が、サラリと書かれた作品でした。



「月の満ち欠け」佐藤正午著

2017年直木賞受賞、そして映画化決定というので読んでみました。
「あたしは月のように死んで生まれ変わる」
目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?
「瑠璃も波瑠も照らせば光る」という諺から「瑠璃」と名付けられた少女。
その少女と三人の男の、三十余年に渡って複雑に絡み合う人生。
輪廻転生、時空を超えた愛、これは好みが分かれるだろうなあと、読んで思いました。
場所と時代が何度も交差した後にいざなわれたラストは、私にとっては残念ながらあまり衝撃にはなりませんでしたので…
しかし緻密に計算された設定、幾重にも張り巡らされた伏線には、読み終わってから唸らされます。
大泉洋、有村架純、目黒蓮、柴咲コウなど出演の映画が、今年12月に公開されるそうです。

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