桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2012・2・1

2012年02月02日 | Weblog
朝八時半に起きた途端、何故かどうしてもビーフシチューが食べたくなって、冷凍してあった牛肉を解凍してから玉葱と人参と解凍した牛肉を炒め、多めのワインと水で煮始める。それから最低一時間はかかる。出来たら一時間半は欲しい。その間に新聞を読んでから風呂に入る。今日から風呂の中では以前読んだ「レクイエム」(Aタブッキ)。以前読んだ時に感激するあまり当時一緒に住んでいた女性に貸したら別れた後当然返って来なかったので昨日もう一度読みたくなって買ったのだけど、以前読んだ時よりもっと俺の脳髄に染み込んでくる。リスボンを舞台に俺の尊敬する詩人ペソアを影の主人公にしているからか?……みたいな文学的記述を続けていたいのだけど、実は途中で主人公が金を意味もなく他人からせびられたりするあたりから、俺の脳髄には自分自身の金銭問題が忍び込む。今日きたAさんや昨日きた法律事務所勤務のNさんや経理の専門家のIさんは、そんなに売上不振で家賃や借りたお金が返済できないなら一層のこと会社を倒産させてしまったらどうかと勧める。確かに一時的にはすっきりするかもしれない。でも、会社が借りている700万近い借金(毎月25万円)の返済は免れてもその債務は連帯保証人になっている代表取締役の俺にかかってくる。だったら桃井章自身も同時に自己破産してしまえばいいと全員がいう。そうすれば全てがチャラだ。でも、都合のいいことばかりじゃない。その代償として八年間は借金(カードの使用も含めて)が出来なくなる。とすると、店を何処かで新しく始めようにも個人的に何百万ものお金を都合しなくてはいけなくなる。うーん、それはちょっと無理。となると、どうなるのか?ちょうど牛肉が柔かくなったのでルーもいれてじゃが芋も加えて出来上がるのを待ちながらも考える。会社や店をやる訳にはいかないとすると、今更モノカキの仕事はないし、何処かで働かせてもらうしかないのか?新聞広告の求人欄を何十年ぶりかに見る。でも、何十年前と違うのは年齢。なんてたって64だ。そうおいそれと見つかる訳がないとその間に出来上がったビーフシチューにミルクを垂らしながら思う。ミルクや牛乳が嫌いな俺だけど、料理や珈琲には時々使うので用意してあるのが不思議。それにしてもうまい。早くから作り出してよかったと思いつつも、又しても俺の関心は味覚から経営問題へも戻る。だったら赤坂の小料理屋のOさんに勧められたように月20万の家賃の店に移ったらどうか?倒産してない今だったらお金も500万円程度は借りられそうだ。でも(またデモだ)、客席が10程度のカウンターの店では全部埋まっても一日の売上が3万円から4万円程度。うまくいって月の売上が25日営業で75万から100万。これじゃ無理。今までの借金返済分25万円に更に借りたお金の返済が5万加わって30万、それに家賃が20万に仕入れが25万から30万として、それだけで75万から80万。他の経費をいれたら100万近くになる。ハハハと笑ってしまう。俺は霞を食って生きていかなくてはならなくなる。それに売上100万というのは希望的数字だ。一月は20日営業でイベントでの売上を除くと55万。一日平均3万円もなかったのだ。それなのに毎日10人もの人が来店してくれて4000円ずつ使ってくれるなんてありえないと、2時からのポルトガル語の個人授業の間にも考えてしまう。でも、そんな邪念に捕らわれつつもM先生からは前置詞や冠詞の使い方がパーフェクトだと誉められる。殆どカンなんだけど、カンの方が語学はいいのか?経営はカンでは駄目なのか?いや、カンだろう。頭で考えたことなんかで経済は動かない……なんていうと毎日世界や日本の経済を考えている人に怒られてしまうし、うちの経営問題を一緒にするつもりはないけど、店を始めた時やそれから十数年間何とか続けてこれたのはカンが鋭かったからだろうし、今追い詰められているのは俺のカンが鈍って来ているからに違いない……と思いつつ、今日も9時半にAさんが来てくれるまでの4時間近くひとりきり。さすがにそればかり考えていると、昨日みたいに自暴自棄的にグラスを割ったりするので、一旦忘れて「レクリエム」。リスボンの匂いが漂ってくる。リスボンにいきたい。先日来てくれたMさんが貸してくれた「リスボンの夜と昼」という彼女の写真集を開いて、飛んでいきたい気持ちを抑える。そうしていたらAさんに続いて今日はホタルイカの素干しをお土産にライターのIさん、映画プロデューサーのKさん、そしてイチゲンで階段をおりてきてくれた近所のNさんなどで辛うじて店らしくなる。でも(またまたデモだ)、その男性四人だけで、今日も色つきの女性客はひとりも来てくれない。女性を遠ざける腐臭でもつぶれかけた店は放っているのだろうか?と思いつつ12時半に店を飛び出し、タクシー代を倹約する為に最終電車に飛び乗る。途端、生ゴミを捨てるのを忘れたことに気づく。明日は店から本当に腐臭が漂っているかもしれない。