桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2009・3・18

2009年03月19日 | Weblog
テレビを点けたら、お昼の長寿番組『W』にゲストとして出演している料理人Mさんのふっくらとした顔が映し出された。その途端、時の流れをしみじみ感じてしまう。25年前、Mさんと初めて会ったのは、俺が時々通っていた四谷の小さな寿司屋だ。そこで彼はタンパク質は味見や試食で取りすぎているからとカッパ巻きばかり食べながら、痩せて何処か険しさを漂わせた顔で自分の料理哲学を朴訥に語っていた。俺はその話に感銘を受けて、それから学習院初等科近くにあった彼のレストランに通うようになった。彼の料理は素材を存分に生かした独創的なもので、料金は安くなかったけど、その価値は十分あるものだった。それからしばらくしてMさんは色々なマスコミでも取り上げられて、カリスマ料理人になり、お店も四谷だけでなく、全国展開をするようになっていった。それに比例するように天の邪鬼な俺は彼の店から足が遠のいて行ったが、Mさんは今も寿司屋でカッパ巻きばかり食べているのだろうか?あの店の味は以前と同じ質を保っているのだろうかと、彼のふっくら穏やかな顔を見ながら思っている内に、何故か食事の用意をするのが嫌になってしまい、Mを誘って近所のポルトガル料理の店にランチしに行った。別にポルトガル料理でなくてもよかったのだけど、Mさんの店で初めて食べた料理の様に見知らぬ味を食べてみたくなったのだ。でも、ランチタイムだったからか、メニューには魚介類のリゾットとか鶏肉ときのこのソティとかよくある料理しかなく、俺の欲望は満たされることがなく、俺は仕方なく店を出ると、近所のスーパーで鰯を買い込み、様々な香草とニンニクと唐がらしとオリーブオイルで見知らぬ味を求めて鰯の包み焼きに挑戦した。レシピがある訳じゃなかったからどんな味になるか分からなかったが、食べてみた時の「見知らぬ味覚」は俺を充分満足させた。穏やかでふっくらとしたMさんをテレビで見たお蔭で、俺の料理心がちょっぴり刺激されたのかもしれない。