去年亡くなったテレビ演出家Oさんの奥さんがきてくれた。広尾時代、俺は番組制作会社の社長であり、有名な演出家でもあったOさんに、新人脚本家の台本でテレビなんかに一度も出たことのない新人俳優を使った芝居を演出して貰ったことがある。Oさんは全ての肩書を捨て、まるで学生時代に戻ったかの様に生き生きとその数カ月を過ごしてくれた。Oさんはその楽しさが忘れられなかったのか、乃木坂での新しいイベントスペースでのこけら落とし公演を俺が持ちかけたら即座に乗ってくれた。だが、台本を準備中に病魔に倒れ、結局その夢は叶わぬことになってしまった。俺はOさんと企画した芝居を何とか実現する義務をその時から背負うことになった。いつか、いや今年中にはきっと台本を含めて企画を起動させなくてはと奥さんと話しながら決意する。