緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

在宅訪問診療の思い出(2)

2007年10月31日 | 医療

がん性腹膜炎で、すでに腸閉塞の状態でした。
口からはまったく食事はとれていません。
食べられないので
食事に代わる高カロリー輸液が
24時間点滴で投与されていました。
食事はそれで大丈夫なのですが
兎に角、吐き続けていました。


多すぎる点滴で、腸液が沢山分泌され
腸管は閉塞していますから流れていくことができず
5分おきに嘔吐をしていました。
今でこそ、サンドスタチンという
腸閉塞の薬剤が発売されているので
症状の緩和も楽になりましたが
当時はまだありませんでした。
通常の診療科では、このようになった場合
鼻から管をいれ
胃や腸にたまった腸液を排泄(ドレナージ)させることによって
吐かないで済むように処置を行います。

でも、管は少しでも少ないに越したことはありませんでした。
ご本人にそのことを説明し
もし、行うとすれば
高カロリー輸液の量を減量させることを
付け加えました。
多くの患者さんは、このような減量は
十分なカロリーや水分が体に入らなるのではないかと
心配されます。
そうではなく
体が使いこなせる量を超えた投与になっているため
体の中でも弱いところ、つまり
がんの部位から余剰な点滴が腸液となり染み出していき
結果的に嘔吐になっているわけですから
その余剰分を減量しても、体にとっては
同じ必要量は投与されていることになります。

そこで、投与されていた2,000mlの高カロリー輸液を
30
%ずつ次第に減量していくことにしました。
また、上腹部-みぞおちのところに痛みがありました。
これは、胃と一致する場所でもあります。
すでに大学病院でモルヒネが投与されていましたが
高カロリー輸液に混和されていました。

私たち緩和ケア医は
とても痛いときに追加投与ができるようにし
急な痛みにもすぐに対応できるようにします。
これをレスキュー・ドーズといいます。
常時一定量でモルヒネは流れています。
特に痛いときは、一時間量のモルヒネが
安全に追加できるようなポンプがあり
それを設定しておきます。
そうすると、在宅で医療者がいないときでも
痛みを我慢しないで調整していくことができるのです。
したがって、点滴とは別に
モルヒネ用のポンプをもう一つ準備しました。
また、がんの痛みはモルヒネだけでは調整できません。
非ステロイド性抗炎症薬を併用すると
とても上手に痛みを取り除くことができます。
それも、大学病院では投与されておりませんでしたので
追加することにしました。
もちろん、そうした薬剤の副作用の説明もしました。
副作用を防ぐために私たちが何を気をつけながら見ていくか
といったことも話し、あきさんの了解をもらいました。
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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (アビシニアン)
2007-11-01 13:40:01
お疲れ様です。
ためになるお話でした。
補液量の多すぎる
返信する
Unknown (アビシニアン)
2007-11-01 13:50:06
とても、ためになるお話でした。
薬剤師の立場からは、
補液の減量に関しては、難しいですね。
どうしても、というときは、
「人工呼吸器を止めるという行為ではないので、ためしに補液を減らしても、急変することは限らない…」
などと、過激なことを医師に申し出たりして、
それで、
実際、補液を減らすことによって、消化器症状が落ち着いてくれば、医師も納得してくれるわけですが。

もう一度、日本緩和医療学会のガイドラインを熟読しようと思いました。

患者とその家族に説明するときが難しいです。
・・・などと考えたりしました。
つくづく、医療はチームで行わなければならないと
感じました。

返信する
我が家と同じ・・・。 (ぴょん)
2007-11-01 20:49:00
主人は、幸いにも、吐くことがありませんでした。
そして、サンドスタチンもありました。

素人が見た感じでは、状態は、主人と同じ感じ。

心まで、折れないように・・・。それだけを祈る気持ちであります。
過去のことでありましょうが・・・。
返信する
(質問)輸液の減量について (miminneko)
2007-11-02 20:25:49
外科病棟で緩和ケアの患者さんたちは、放置されているに等しいということ、私も病棟担当(薬剤師)のときには同様のことを感じ、これはいけないと思いました。

あきさん、よかったです。

そこで輸液の減量について、質問させていただけますか?

がん性腹膜炎、腸閉塞による嘔吐。
高カロリー輸液2000mL⇒1400mL⇒1000mL⇒700mLでしょうか。高カロリー輸液なのか、維持輸液なのか、切り替えの目安を教えて頂けたら幸いです。
がん性腹膜炎、腹水貯留、浮腫みのときとは異なりますか?

どう、担当医に示したらよいのか・・
緩和医療学会から出た輸液のガイドラインを見せながら意見を提示しても、どうも高カロリー輸液からの切り替えをしぶる当院某科の医師たちへの対策として、お時間許せばお願い致します。
返信する
Unknown (nagano)
2007-11-05 14:45:17
先生 大丈夫ですか?
事故・病気?
早くお元気になられますよう、祈っております。
返信する
コメントありがとうございます。 (aruga)
2007-11-05 22:57:01
アビシニアンさん
倫理的なことも含まれるため、慎重になりますが、チームであること本当に大切ですね。

ぴょんさん
がん腫が異なると症状も変わってきますが、本当にご主人よかったですね!

miminnekoさん
高カロリーが入っていましたので、高カロリー輸液を減量していきました。量が落ち着いてとった採血データー上、末梢維持輸液を併用する必要はないと判断できましたので。2~3日かけながら3割以内を減量していきますが、1回減量したのち、血管内、外が定常状態になってから次の減量に移ります。急な減量は、単純に血管内の脱水を引き起こし、急性腎不全などの原因になる可能性も生じます。減量後、血管外の水か血管内に戻り始めることが大切です。例えば、50ml/hでの投与を45ml/hにしただけでも患者さんは楽になった等お話してくれます。(痰が減った、浮腫みがちょっとだけよくなったなど)減量していくことを提示するというより、何かの困り(痰、浮腫、嘔吐など)を示し、それが改善するか1割でも減らしてみて症状の変化をみることを提案したらどうでしょうか。輸液量を変更するのは、難しいことではありません。そのことで、何がよくなったかを共有できれば、医師は理解できると思います。ただし、何か悪くなる可能性があるかは整理しておく必要がありますが。

シンポジウムでご一緒させて頂いた鈴木先生が、薬学会記の記事にコメントくださっていたところを読みましたよとお話くださいました。

naganoさん
本当にご心配おかけいたしました。
国外出張のため、アップが途中でとまった状況になってしまいました。出張前があまりの多忙さで、以前書き溜めていたものを連載していたものですので、途中切れになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。naganoさんのコメント、とても嬉しかったです。これからも、続ける活力になりました。

返信する
感謝です (miminneko)
2007-11-09 23:17:14
 お忙しいのに、ご帰国早々ご丁寧な回答を頂きまして恐縮です。

 私は久しぶりに風邪をひき撃沈しておりお礼が遅くなりすみません。

 さて、輸液減量に関するご回答は永久保存させて頂きます。これほどまでに納得のいくご回答は初めてでした。分かってはいるけれど、どう説明したらよいのか・・というとき、今後緩和ケアチームメンバーでこの手法を使わせていただきます。

 この説明なら当該科の医師たちも・・きっと変わってくれるのではないかと思います。本当に有難うございました。

 それにしても先生のバイタリティーには脱帽です。ご無理のないペースでご更新くださいね、とちょっと違う応援を・・。
 旅のお疲れ、癒してくださいね。

 恩師にもチェックされていたとは・・。
 しっかりしないと・・。
 
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