緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

鎮咳剤の乱用のこと

2019年09月16日 | 社会時事
今日の、日本経済新聞にWeb版に、
昨日の日付で
「せき止め乱用、10代で急増 厚労省の薬物依存調査」
というタイトルでニュースが配信されていました。

2018年に薬物依存などで全国の精神科で治療を受けた10代患者の4割以上が、せき止め薬や風邪薬などの市販薬を乱用していたことが厚生労働省研究班の実態調査で分かった。14年の調査では1人もおらず、近年急増していることを示した。取り締まりが強化された危険ドラッグの10代の乱用者は1人もいなかった。
全国の入院設備のある精神科1566施設を対象に調査を実施。18年9~10月に薬物関連の治療を受けた患者のうち同意が得られるなどした2609人を分析した。
(中略)
10代は34人で、41%が市販薬を使用し、次いで大麻が21%だった。危険ドラッグは1人もいなかった。前々回の14年調査では市販薬0%、大麻4%、危険ドラッグ48%で、傾向が変化していた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49853540V10C19A9CR8000/)



この出典となっているのは、

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 薬物依存研究部
研究報告書
https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/index.html

この中の

平成30年度厚労科研 
医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業
全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査
https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NMHS_2018.pdf

から、引用したものと思われます。



この報告書の要旨には、

薬物関連精神疾患症例において、
危険ドラック乱用が減少傾向である一方、
市販薬と大麻の割合が増加しており、
今後慎重な注視が必要

と考察しています。



ちなみに、その市販薬。
この報告書には表になっています。

そのうち、せき止め薬は、
この乱用を受けて
1980年代には液剤は
発売中止となっていますが、
錠剤は発売が続いています。


最多のブロン錠は、
発売元のWebサイトを見ると

12錠(成人1日量)中
成分 分量 はたらき
ジヒドロコデインリン酸塩30mg延髄にあるせきの中枢に作用し、せきの発生をおさえます。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩50mg気管支筋の緊張を和らげ、せきをしずめ、たんの排出を促します。
クロルフェニラミンマレイン酸塩8mgアレルギー性のせきをしずめます。
無水カフェイン90mg他の成分の働きをたすけます。
と、掲載されています。


一瓶は 84錠、
つまり7日分です。


ジヒドロコデインリン酸塩(以下、コデインリン酸塩)は、
1:6~10
の割合で、
肝臓のCYP-2D6で
モルヒネに変換されます。

1日量30㎎とは、
つまり、モルヒネ3~5㎎に
変換されることになります。

1瓶では、コデインリン酸塩は
210㎎でから、
21~35㎎のモルヒネとなります。

モルヒネのがん疼痛への
1日最初の処方量は
20㎎ですから、
このコデインリン酸塩量が
驚くような量であることが
わかっていただけるのではないかと思います。


日本では、
コデインリン酸塩
1%は通常処方で、
10%は麻薬処方となります。

ですから、
濃度が低ければ市販薬で発売可能となります。





一方で、アメリカでは
FDAは、12歳以下への投与は禁忌としており、
schedule 2 に分類されています。

アメリカ、オーストラリア、フランスなどでは、
規制されており、
医師の処方箋なしには
購入ができない薬剤です。

つまり、薬局などで簡単には買える薬剤ではありません。
https://www.tga.gov.au/book-page/14-codeine





どんなに薄い(含有が少ない)錠剤でも、
それを大量に飲めば、
がん疼痛鎮痛療法の用量です。

強い疼痛がない状態で服用すること
つまり、
乱用すれば、
体内、特に脳内で起きることは
鎮痛療法とはまったく意味が違うことが起きます。




さらに、メチルエフェドリンも精神症状の一因になります。




東京女子医科大学病院精神科から
「思春期におけるブロン乱用患者の 1例」
というタイトルで
16歳の依存の症例報告が
Web上にも掲載されています。

退院まで72日間が
必要だったようです。




2017年のアエラの記事にも
同じようなテーマのものがありました。
「一日に700錠も…蔓延するせき止め薬「乱用」はなぜ、なくならないのか」
https://dot.asahi.com/dot/2017050200075.html?page=1




昨日の共同通信から配信されていて、
Yahooニュースにも配信されていました。
そのコメント投稿欄に、
薬局と思われる方の書き込みがありました。
そこには、
棚買いしていく客がいて、
薬局としては、陳列棚には
小出ししていくしかなかったと
書かれていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/cm/main?d=20190915-00000102-kyodonews-soci





世の中、こんなことになっていたとは・・・

がん疼痛治療の啓発は
医療用麻薬の適正使用の啓発です。

国内での市販薬は
セルフメディケーションの考え方に
基づいてるのだと思いますが、
一人ひとりが自己判断ができるようにしていくためには
安全を担保するための規制は必要です。

考える時期に来ているのではないでしょうか。

オリンピックによる薬物の問題は
方々で、注意喚起がされているところです。

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