緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

がん治療はそろそろ難しくなってきました。でも、元気になったら再開も・・

2017年05月28日 | 医療

がん治療医が「抗がん治療を止めましょう」と伝える時、

「また、元気になったら再開することもあります」

と、付け加える場合があります。

そして、同時に治療医から

「緩和ケア病棟に申し込みをしたいのですが、」

という相談を受けることがあります。




抗がん治療の一つの目安に、
PS2より良い状態
(2を含む)
であることが挙げられます。

疾病や抗がん治療の種類によって、
そうばかりでもないのですが、
基本的な目安として覚えるには、
よい指標です。

PS2とは、一日の50%以上は
起きて過ごすことができる状態をさします。

つまり、それくらいの元気さがないと
抗がん治療の副作用の方が上回ってしまう場合が
多いことを意味します。




ですから、元気になったら、
抗がん治療を再開する可能性があることは
嘘ではないのですが、
はたしてそれくらい元気になる可能性があるかと問うと、
「いや、ないです。
ただ、抗がん治療を止め切るといってしまうと
患者さんにショックを与えてしまうのではないか
と思って・・」
つまり、優しさを込めて、元気になったら~と
付け加えてしまっているわけです。



これには、実は弊害があります。



患者さんの目線でみると、

「今は抗がん治療は休止しているけれど、
元気になれば、再開するのだから、
がんばらなければ!」

元気になるためにはどうすればよいか。
それは、それは、誰だって、一生懸命になって
当然です。




でも、実際には、もう難しいと主治医は考えていて、
結果、患者さんはがん治療の再開に注力していることは、
空回りしてしまうのです。
そうではなく、きちんと難しいことは難しいと説明し、
その難しさを受け止めるためのサポートやケアを
しっかりするのが、本当の優しさなはずです。
そうすることで、
そのエネルギーを生活や
ご家族など、人生そのものを考えるために
使っていただくことができるのです。




さらに、抗がん治療の再開の可能性を
伝えながら、
「緩和ケア病棟に申し込みましょう」
と言われてしまうことに、
患者さんご家族は驚いてしまいます。

「いえ、先生、元気になれば
抗がん治療を再開するのでしょう?」

混乱しながら、
それでも、早いうちから緩和ケアを
受けるべきと今は言われているわけだから、
緩和ケア病棟の話を聞き外来に行ってきます
と言われます。

でも、受診した緩和ケア病棟では、
緩和ケア病棟での診療体制では
抗がん治療に適した内容ではなく、
療養することに主眼が置かれているため、
心電図やモニター以上に、
居心地の良さが重視され、
化学療法薬の副作用対応などに
速やかに行われる体制にはありません。

だから、「抗がん治療の再開の可能性があるのなら、
主治医をよく相談してからもう一度来てください」
と、言われてしまうわけです。



がん治療医が意図する緩和ケアは
抗がん治療が終了した後に転院等する
緩和ケア病棟をさしており、

患者さんがそれでも
早期から考えてもよいのだから
という緩和ケアとは、
治療を併行して実施する心理支援や
症状緩和のことを指し、

ここでも、齟齬を生じているわけです。






「元気になったら再開しましょう」
という言葉。
元気になることはないと思いながら
そう言っている場合では、
患者さんにこれから先のことを
考える機会を奪いかねない場合があることに
がん治療医は、是非、気づいてほしいと思うのです。

そのために、支える緩和ケアチーム
(これはがん治療の早いうちから併診をしていきます)
を上手く活用してほしいとつくづく思います。


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