緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

座位になると呼吸が苦しくなる肺病変がない患者さんの病態は・・・

2016年08月14日 | 医療

研修医の先生から報告がありました。

「横になると楽なのですが、
 座ると苦しいっておっしゃるんです。」



通常、患者さんが呼吸困難を訴えられる時は、
座ると楽になり、寝ると(横になると)苦しくなります。

胸水がたまっていたり、
腫瘤、肺炎、リンパ管症があったりすると
座っている方が楽なのです。

ん? 

と思いました。



研修医の先生、素晴らしかったのは、
この臥位と座位の症状の差を見落とさなかったことです。

そして、自分なりに調べてみたと言います。

「肝肺症候群を疑います」と。




おお!!!・・・やるなあ
と思いました。



肝疾患の患者さんでした。






肝肺症候群

肺に問題がないにもかかわらず、
肝機能障害、門脈圧亢進症によって
肺内血管の拡張や(動静脈シャント)の形成により
血中酸素濃度に低下を認める症候群です。

3臨床徴候
・肝疾患があること
・肺のガス交換障害
・肺内血管拡張

〇臨床的には、
座位にて呼吸困難が誘発され、
座位時に、SpO2に低下を認めます。

〇病態としては、
肺血管拡張+のため、
換気障害-にも関わらず、
肺胞通過血液量↑ となることによって、
血液酸素化↓となります。

座位や立位で呼吸困難が悪化する機序は、
立位では下肺に血流が増加することにより、
換気血流比がさらに不均衡になり、
動脈血酸素化の悪化を引き起こすためと考えられています。
http://www.jmedj.co.jp/article/detail.php?article_id=15147



一酸化窒素も本症候群に関与していると
考えられることが多いです。

一酸化窒素↑ →肺血管拡張
   ↑
一酸化窒素合成酵素活性↑

コントラスト(造影)心エコーで
生食撹拌静注後の微小気泡の7心拍以内での左心房到達の確認

・・・エアが血中に入ると・・と
思われるかもしれませんが、
実は、気泡が静脈内に入ると、
血管から肺胞での換気によって、
呼気(吐く息)となって、体外に出てしまいます。

ところが、肝肺症候群に至っていると、
肺の血管が拡張していて、
気泡は微小血管に引っかからず、
そのまま血流に乗って左心房に到達してしまいます。

ただ・・・この左心房に到達した後の気泡が
大循環に乗ると問題ではないかと思われ、
こうした検査で突き詰めるより、
私は、肝機能障害があり、座位になると苦しくなる患者さんには、
酸素モニターで臥位と座位でのSpO2の変動を見たりすることでよいと思っています。

慢性疾患の状態であれば、
長期的なコントロールが日常生活に大きな影響を及ぼしますが、
がん患者さんにおいては、
経鼻等からの酸素投与での対処、
ゆっくりと動くことなどの対処が主体となるからです。





呼吸困難に何でも酸素投与と考えないこと・・と言われますが、
座位で誘発される呼吸困難には、
肺に問題がない場合でも、
酸素投与が必要となることがあるため、
座位時のSpO2を確認することが大切という症例でした。



 


<参考>以下は、がんの患者さんではなく、一般論として記載されていますので、治療には肝移植等が示されています。

診 断
  診断には,コントラスト心エコーが有用である.生理食塩水を振盪することで微小気泡を混入した後,静脈注射する.正常では,微小気泡は肺毛細血管に捕捉さ れるが,HPSでは肺血管拡張のため捕捉されず肺を通過する.このため,微小気泡が右心腔に描出された後,7心拍以内に左心室に描出される.ま た,99mTc-大凝集人血清アルブミン(macroaggregated albumin;MAA)肺血流シンチグラフィもHPSの診断に有用である.MAAは直径10~50μmで肺毛細血管径より大きいため,正常では肺へ集積 する.一方,HPSでは,肺を通過するため脳,腎臓,肝臓,脾臓など肺外臓器に集積が認められる.

治 療
  HPSに対する有効な内科的治療法は現在,存在せず,肝移植が唯一の治療法である.HPSは進行性で,低酸素血症の程度は肝予備能および患者予後に影響を 及ぼすだけでなく,PaO2<50mmHgとなると肝移植の成績も低下することが報告されている.このため,低酸素血症の重症度判定は,肝移植の時期を検討する上で重要である.

http://www.jmedj.co.jp/article/detail.php?article_id=15147
週刊医事新報 No.4612(2012年9月15日発行


メルクマニュアル

血管拡張物質の肝臓での産生の増加または肝クリアランスの減少によると考えられており,おそらく一酸化窒素が関与する。血管の拡張が,換気量に対する相対 的な血流過剰を引き起こし,低酸素血症を招く。病変はしばしば肺底部により多く存在することから,肝肺症候群は坐位および立位において呼吸困難および起立 性低血圧を引き起こすが,臥位にて軽減する。ほとんどの患者に,くも状血管腫などの慢性肝疾患の徴候がみられる。しかしながら,約20%の患者は肺の症状 のみを呈する。

肝疾患を有することが分かっている患者で呼吸困難を訴える患者は,全て肝肺症候群が疑われる。臨床的に重大な症状を伴う患者は,パルスオキシメトリーを測定するべきである。肝肺症候群が進行性であれば,シャント率を判定するためにABGを空気および100%O2にて測定すべきである。

有用な診断検査はコントラスト心エコー検査である。攪拌した生理食塩水による微小気泡を静注すると,正常では肺毛細 血管により遮断されるが,本症では急速に肺を通過,7心拍動以内に左心房に現れる。同様に,テクネチウム-99m標識アルブミンを静注すると,肺を通過 し,腎臓および脳に現れる。肺血管造影では,びまん性の細かい血管構造,または斑点状の血管構造を認めうる。血管造影は,血栓塞栓症が疑われない限り,一 般的には必要ない。

主な治療は,症状に対するO2補給である。血管拡張を抑制するソマスタチンなどの他の療法 は,ごく一部の患者にわずかに有効である。コイル塞栓術は病変の数と大きさにより実質的に不可能である。吸入一酸化窒素合成阻害薬は将来的な治療法となり うる。肝肺症候群は,肝移植後,または肝臓の基礎疾患が軽減すれば,改善する可能性がある。治療を受けなければ,予後は不良である(生存期間が2年未満)。

http://merckmanual.jp/mmpej/sec05/ch058/ch058c.html
メルクマニュアル 18版 肝肺症候群


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