プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

日本の財政危機と税制の空洞化(その3・完)

2011-01-31 20:52:08 | 政治経済

日本の財政危機の主な原因は、これまで明らかにしてきたように、建設国債の乱発(歳出の浪費)、経済の停滞(成長戦略の誤り)、税制の空洞化(応能負担の放棄)の結果である。歳出の浪費については、当面5兆円規模の軍事費から1兆円を減らすことは充分可能である(思いやり予算を含めた地位協定外の米軍支援や領土防衛に無関係な装備費など)。公共事業も多国籍大企業の便宜のための産業基盤、高速道路無料化予算などあらゆる浪費にメスを入れれば4兆円くらいの歳出削減が可能だろう。しかし、これだけでは、これから増大する社会保障関係を賄えないことは確かである。税収を引き上げるための税制改革と経済の再建が喫緊の課題である。

 

【暮らし重視、内需中心の経済再建】

前回、日本が長期にわたって経済成長が止まってしまった世界でも稀な特異な国となったことを述べた。なぜそうなったか。一言でいえば、財界の権力が強く、財界本位の政治に対する国民の側の抵抗が弱いから、政府の施策と一体となった多国籍大資本の搾取と収奪を強化する新自由主義「構造改革」が、他国以上に特別に進んだからであるだから、政治を財界本位から国民本位へ抜本的に方向転換することが経済再建の第一歩となる。

そんなことをすれば、日本の多国籍企業が海外市場で競争に負ける、海外に逃避してしまうという声が聞こえてきそうである。勿論、企業が生きていけないような締め上げをやってはならないだろう。しかし、私の見るところ自動車、電気機器などの日本の多国籍大企業の競争力はまだまだ強い。240兆円をも超える内部留保があるのだから、労働者や中小企業への分配率をもっと引き上げざるを得ない法的規制(例えば、労働時間の上限を規制する、低賃金派遣労働を規制する、サービス残業に対する監督指導を強める、最低賃金を引き上げる、法定福利費負担を強化する、下請け単価買いたたきに対する監督指導を強めるなど)を実施しても大丈夫である。いまの経済学のレベルでは、将来の細かい数字を心配しても先を予測するのは不可能だから支配階級のイデオロギー操作に騙されないことである。肝心なことは、先ずは政治の方向を逆方向に切りかえること、政策の強度は、具体的な経済情勢をモニタリングしながら、機動的に適宜変更することである。

さらに、多国籍大企業の動向に攪乱されない国民経済の再生基盤を強化する「国民生活重視型」の産業政策を別途きちっともち、農林漁業、地場産業など、市場メカニズムに対する規制と計画に基づき国民生活に直結する比較劣位の産業もできるだけ維持・創出することである比較優位の国際競争力重視型産業のみの産業構造はきわめて脆弱でアンバランスである。TPP(環太平洋連携協定)は完全に誤っている。

 

【税制の民主的改革】

税収の確保というと、金持ち(財界、富裕層)の政治的代理人である民主も自民もその他オール与党や大マスコミは、「消費税増税」しか言わない。しかし、前回述べたように、消費税は財政上の必要に迫られて導入されたのではなく、金持ちの減税財源として導入されたのだ。消費税導入時89年の国税税収は55兆円(うち消費税3.2兆円)、翌90年の税収は過去最高の60兆円(うち消費税4.6兆円)であった。消費税導入によって「応能負担」という租税の民主的公平原則が突き崩され、その後、消費税増税を引き当てにして、大企業、富裕層への減税が相次ぎ行われたことも前回述べた。

消費税は、国税の滞納額のうち常に一位を占める(08年度の統計で45.8%)。延滞税の利息の高さを考えたら誰も好んで滞納しない。支払う能力のないところに課税するから滞納が起る。応能負担原則に適っていないからそういうことになるのだ歳入確保のためには、応能負担原則に適う税制でなければならない。

とりあえず、所得税の最高税率を消費税導入前の50%に戻すこと、個人住民税の一律10%を所得税に準じて超過累進税率に戻すことである。法人税は各種の租税特別措置により大企業の実質的な税負担率は大幅に下がっている。これらの不公平な措置を廃止するとともに、中小企業への軽課措置を拡充し、儲けの額に応じた累進税率を導入すべきである。その際、最高税率を消費税導入前の42%に戻すことである。「不公平な税制をただす会・財源試算研究会」の2010年度分試算によれば、法人税・所得税、地方税等にある不公平税制・租税特別措置をなくせば国税で約19兆円、地方税で約13兆円、合計32兆円の税収が確保できる。この額は現行5%の消費税税収125千億円をはるかに上回る。民主、自民は当面10%への消費税増税を狙っているが、応能負担原則に立ち返り、税制の空洞化による大穴を塞げば、消費税の増税はまったく必要ないのだ


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