プロメテウスの政治経済コラム

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「安心社会実現」報告書 現実の矛盾の本質を掴まないでは、旗印を立てたくても立てられない 

2009-06-18 21:05:09 | 政治経済
麻生太郎首相の私的懇談会、「安心社会実現会議」(座長・成田豊電通最高顧問)が報告書をまとめた。貧困と格差の広がりと、ズタズタにされた社会保障にたいする国民の怒りに直面して、総選挙を前に、麻生首相は、「安心社会」のアドバルーンを揚げる必要に迫られていた。会議の発足の際に、「日本が目指すべき国家像について議論をしていただきたい」と言い、選挙前に政権の「旗印」を立てようというのが狙いであった。しかし、国民の「不安」がよって来る原因―現在の階級矛盾の本質を掴まない処方箋は、矛盾を深めるだけである。報告書が、完全に「空振り」に終わるのは、必然であった。

「安心社会実現」報告書は、深刻な国民生活の現実の一端を指摘するが、国民の「不安」や社会保障の「機能不全」、「貧困と格差」拡大のよって来る原因である新自由主義「構造改革」路線への反省は、ただの一言もない。現在の階級矛盾の本質=新自由主義「構造改革」路線こそは、グローバル競争に打ち勝つことを至上命題として、日本の不十分な福祉国家を破壊し、財界・大企業の搾取と収奪体制を立て直すものであった。財界・大企業が搾取と収奪体制を立て直すとは、労働者階級に対する低賃金不安定雇用や長時間労働の強制であり、国民大衆からの(中)福祉施策や税金の収奪であり、高コスト削減のための規制緩和、中小零細企業イジメであった。
したがって、「安心社会実現」のためには、労働者、働く国民大衆に対する財界・大企業の犠牲転嫁の横暴を抑えること=ある程度のかれらの利潤率の低下を甘受させることが必須課題となる。この課題を実現するためには、「財界言いなり」の政権では絶対に不可能である。「安心社会実現」報告書のように、財源といえば庶民に重い消費税増税の一方、大企業には保険料の負担が増えるから「法人税引き下げ」というようでは、「安心社会の実現」は永久に不可能である

原因を正さなければ根本対策は打ち出せない。だから高齢者を苦しませている「後期高齢者医療制度」や、障害が重い人ほど負担が重い「障害者自立支援法」の抜本見直し・廃止も掲げられない。2200億円の社会保障抑制路線の転換さえ明確にできないのでは、お話にならない。
非正規労働者への社会保険適用拡大についていえば、本来適用されるべき雇用保険や厚生年金、健康保険を非正規雇用に直ちに適用するのは当然である。ところが、これによって企業の負担が増す分、法人税を引き下げると言う。低所得者や子育て世代への給付金付きの税額控除制度など、一般論としては検討に値する施策も、消費税増税が前提である。
雇用を「安心の扇の要」としながら、対策は「中途採用、職業紹介」などもっぱら「一生チャレンジし続けることができる条件づくり」という“雇用の流動化”を主張するだけである。企業に雇用を守らせ、破壊された雇用のルールを立て直す立場はない。
深刻な状況にある医療・介護も、社会保障の「機能強化」「緊急医療の重点化」の名で、病床を減らし、入院日数を短縮して、金のかからない「在宅」化を図るという財界要求そのままである。

「安心社会実現」報告書は、「社会保障の綻び」への対応をいいながら、結局、財界要求の消費税増税にもっていこうとする。“社会保障を良くしたければ消費税を上げろ”というわけだ。矛盾が噴出しているにもかかわらず、「構造改革」路線を転換できない。「構造改革」の司令塔・財界にモノが言えない。徹頭徹尾、財界にとって痛くもかゆくもない施策ばかり。これでは、「安心社会実現」の旗印を立てたくても絶対に立てることはできない。自民党政治の末期的症状を示す「安心社会実現」報告書であった。



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