橋下氏は、言動をくるくる変えながら、派手な言葉とパフォーマンスで提灯持ちマスコミの注目をひきつけながら、「ＷＴＣへの府庁移転」や「大阪都」構想を政略的に打ち出し、それに反対する勢力を抵抗勢力として徹底批判する手口でB級大衆の支持を取り付け、「選挙で選ばれたということで、僕の感覚というのは、基本的には府民感覚だ」とうそぶき、「民意」をかざしてファッショ・独裁体制を確立しようとしている。その背景にあるのは、大衆の間に充満する政治と社会への不満・閉塞感である。
一般に「大衆扇動・迎合政治」（ポピュリズム）は、分かり易い「敵」（公務員、既成政党・議員など）を設定して、それを激しく攻撃するヒーローを演じて、人びとを扇動し支持を集める。政治リーダーの権威の強調と、非合理的で単純化した巧みな宣伝を特徴とする。ポピュリスト政治家は、人びとの関心や「敵」の弱点を見抜く能力に優れており、マスコミを動員するプロパガンダ技術のうまさを備えている。しかし、それだけでは、ポピュリズム政治家が跋扈することにはならない。
橋下主義（ハシズム）問題を考えるとき、単に橋下・「維新の会」の無茶苦茶で特異なファッショ性を指摘するだけでは十分でない。確かに、橋下氏は、「大阪維新の会」をたちあげ、ＷＴＣ府庁移転条例案が２回否決されたにもかかわらず、ビル買い取りを強行したことをはじめ、地方議会を形骸化に導く「大阪都」構想を掲げ、「地方自治破壊の突撃部隊」というべき数々の攻撃を加えてきた。そして、「維新の会」が府議会で過半数を得るや、「君が代」強制条例、大幅な定数削減を数の力で強行した。さらに最近では、そのファッショ性をだれの目にも明らかにしたのが、「教育基本条例案」と「職員基本条例案」であった。確かにこの人物を絶対に当選させてはならない。
しかし問題はそれだけではない。むしろ問題の核心は、平松市長も既成政党も衰退する大阪市を魅力あふれる街にするための説得力をもった案を提示できていないことであり、そして自分で主体的に考えず強いリーダーや非合理的な宣伝やマスコミに簡単に従う多数のB級大衆の存在である。
なぜ、現代日本において政治と社会の閉塞感は充満するのか。
まず、議会制民主主義の機能不全がある。
「政治改革」と称して小選挙区並立制を導入して以来１７年。小選挙区制導入後、５回の総選挙で、小選挙区では、議席に結びつかない「死票」が過半数を超え、比較第１党が４割台の得票で７割もの議席を占有する実態が明瞭になった。２００５年総選挙では自民党が、０９年総選挙では民主党が、４７％台の得票率で７３％台の議席を占めた。０５年総選挙で小泉政権は「郵政選挙」で自・公の与党３分の２議席を獲得。多数の力で押し通す政治が横行し、一部の国民の批判は掻き消された。支配階級の巻き返しのなかで、民主党政権は、マニフェストでかかげた「公約」をつぎつぎ覆す。参院選で敗北し「ねじれ国会」となると、今度は、国民不在の妥協をくりかえす。民意を「集約」したと称する「虚構の多数」政権による強引な政治、多数のおごりは、結局、民意から乖離し、国民の政治不信・閉塞感となっている。
支配階級がやすやすと巻き返すことが出来るのは、時代を切り拓く対抗構想・革新の共同綱領が未だ一部の努力の範囲にとどまり、政策立案力で支配階級に比べ圧倒的に劣勢にあるからである。平松市長にも既成政党にも衰退する大阪市を魅力あふれる街にするための説得力をもった対抗構想・革新の共同綱領がない。橋下の政策の実績の評価や出鱈目さは批判できても、それではどうするのかがB級大衆に何も届かない。
時代を切り拓く対抗構想・革新の共同綱領を作成するためには、現代資本主義体制の科学的分析が大前提となる。しかし、これは言うは易く、大変な難題である。当然、多数の叡智を結集する集団的共同研究が必要だが、時代を切り拓くべき共産党の社会科学研究所は、不破哲三所長に象徴されるように、未だに、マルクス主義の古典をいじくり回しているだけである。猪木武徳（国際日本文化研究センター所長）さんが言うように、“経済学は、物理学ならニュートン力学以前のレベル”にとどまっている（「朝日」2011年11月8日）。現代資本主義が、かつての「全般的危機論」とちがう意味で真の“全般的危機”に陥っているのに対抗構想・革新の共同綱領を打ち出せないことが、現代日本における政治と社会の閉塞感の根源的原因である。
＜続く＞
