プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

アメリカ国債デフォルトの危機   リーマンショックの後遺症は今も続く

2011-05-18 21:13:55 | 政治経済

米連邦政府債務が16日、142940億ドル(約1,155兆円)の法定上限に達した。議会で上限引き上げが承認されない限り、米政府はこの枠を超えて借り入れ(国債発行)ができない。従来なら、赤字が上限に達するまでの間に、米議会が上限引き上げ法案を可決して事なきを得るのだが、昨年11月の中間選挙で共和党のティーパーティ(茶会派)と呼ばれる財政緊縮の強硬派が多数当選し民主党が大敗、ネジレ国会となったため、ホワイトハウスと議会は4カ月前から財政緊縮策を議論しているが、合意に至っていない。米政府は、財源の4割を国債発行に頼っているので、国債発行ができないと、公務員の給料、発注企業への支払い、メディケアなど官制健康保険や失業保険の支払いがとどこおる。加えて、国債の利払いや償還もできなくなり、今や、米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る危機である(日本も公債特例法案が宙に浮いたままとなっている)。

今、先進資本主義諸国は、米国も欧州も日本も深刻な財政危機に陥っている。もともとこれらの諸国では、資本蓄積の矛盾が進行し、財政危機が深刻化していた上に、リーマンショック後の世界資本主義体制の危機を乗り越える、なりふり構わぬ「銀行・証券・大企業救済」「流動性供給」のための財政出動によって、なんとか破局は免れたが、財政赤字は抜き差しならない状況に陥った。にもかかわらず、現代資本主義の再生産構造の矛盾と資本の過剰蓄積がもたらす災厄を克服することは容易でない。

 

オバマ政権は、デフォルトを回避するために、政府職員の退職年金基金への支出を取り止めるなどして、連邦債務の上限引き上げ期限を8月2日まで延ばすようだが、2012年の大統領選に向けた選挙活動シーズンはすでに始まっており、共和党は、上限引き上げの条件として大幅な歳出削減の要求を強めている。

財政赤字に陥ったとき、先進資本主義諸国政府の対応策はどこも共通している。歳出削減は、社会保障の公的負担の削減や弱者の負担増であり、大企業や富裕層の負担増による歳入増が決してとられることはない。

米議会では財政緊縮の主張が強いものの、実際には軍事費(防衛費)の増額など支出増の議案が簡単に可決され続けている。米国の来年度の軍事費は6900億ドルで、茶会派などの反対で7000億ドル超えは避けられたものの、今年度の6686億ドルから増え、史上最高額を更新する。

今、EUでは、アイルランド、ギリシャに続いて、ポルトガルの財政危機への支援策が話合われている。そんな折も折、ユーロ圏の主要諸国とともに重要な役割を果たしていた国際通貨基金(IMF)のトップが、スキャンダルに巻き込まれた。私は最初、ドミニク・ストロスカーンが米当局によって婦女暴行容疑で逮捕されたのは、ストロスカーンらが主導するギリシャ国債危機への救済策(ユーロ救済)を阻害してドルの危機を延命させようとする米当局の濡れ衣逮捕かもしれないと思ったが、この人物は前科もあり、真相ははっきりしない。

 

80年代以降、長期にわたってとられた新自由主義的政策の結果、労働組合は弱体化し、雇用と賃金に過大な犠牲を強いるとともに、多国籍大企業と富裕層は過剰な貨幣資本を蓄積してきた。そして、その過剰な貨幣資本こそ、ウォール街と富裕層がバブル依存の投機的利得を追求することを可能とし、挙句に先の経済危機を惹起したのである。その後始末のために、前例のない財政出動がおこなわれ、これによって、ウォール街と富裕層は救済されたが、片や、結果としての財政危機のしわ寄せは、労働者階級などの弱者に降りかかろうとしている

こうして、資本制的生産様式それ自体の根源的な矛盾、すなわち資本(資本蓄積・利潤)と労働(雇用・賃金)との間における極度に深刻化・先鋭化した矛盾が確実に累積されている。

にもかかわらず、先進資本主義国での政治権力と癒着した経済権力(巨大金融機関や多国籍大企業、それらが組織するさまざまな財界ロビースト)の支配力は依然強力である。世界の組織された労働者階級の反撃は、部分的にとどまる。観測史上最大の地震に直面した日本。原発事故は、今現在なお混乱のまっただ中だが、日本人の行動やモラルは世界から賞賛されている。助け合い、律儀、紳士的精神は、本来、敵対的関係にある支配権力にたいしても同じである。

現代資本主義の再生産構造の矛盾と資本の過剰蓄積がもたらす災厄を克服することは容易でない。

 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (サムライ)
2011-07-06 15:06:54
見事な分析。一見平穏を保つ世界経済の暗部を抉り出している。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-07-28 14:06:02
検索で引っかかって見てみましたが、久しぶりにこの様な意見を見て、日本にまだこの様な意見の方が居られる事に感心しました。
今後、資本経済の矛盾をどう有利に埋めてゆくか、それだけが一部の人間の望みになりつつある。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。