プロメテウスの政治経済コラム

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航空機トラブル続出  ここにも規制緩和が

2006-04-10 16:44:55 | 政治経済
「事故を起こせば競争に負けるのだから安全を低下させる経営者はいない」などと九〇年代後半から本格化した航空法の規制緩和のもとで、各社の整備・安全体制の基盤が掘り崩されてきました。事故で一度失った命は二度と戻りません。事故を起こした企業が市場から消えるだけで済むというような問題ではありません。

大量交通機関、とりわけ航空機にまず第一に求められるのは言うまでもなく安全性の確保です。
日本航空では深刻なトラブルが相次ぎ、格安運賃で売る新規参入航空会社スカイマークエアラインズ(SKY)の安全軽視も表面化しました。機体の重大な不備を修理せず、きわめて危険な状態で、長期間運航していました。政府が九〇年代後半から本格化させた航空の規制緩和と、それを背景にした航空会社の利益至上主義経営が厳しく問われる事態です。

航空業界を規制している航空法第一条「・・・航空機の航行の安全及び航空機の運航に起因する障害の防止を図るための方法を定め・・・事業の秩序を確立し、もって航空の発達を図ることを目的とする」中の「秩序を確立し、もつて航空の発達を図る」が「適正かつ合理的な運営を確保してその利用者の利便の増進を図ることにより、航空の発達を図り・・・」に改められたのは1999年6月のことです。
国際条約に基づいて、安全の維持を第一と考え、航空事業の秩序を確立して航空の発展を図ることが重要であり、そのために規制は設けられるとしていたのが、規制を緩和して航空事業の適正かつ合理的な運営の確保が第一となったのです。

このようにして「国際競争力をつける」という名目ではじまった航空の規制緩和は、航空会社の新規参入や運賃設定を原則自由化するとともに、整備、検査などの安全規制の撤廃・緩和を次々すすめました。
とくに問題なのは、「自社運航」・「自社整備」という航空法の基本原則をとりはらったことです。航空会社が、自社の航空機と乗務員、整備体制で運航を維持するというこの原則は、企業の責任を明確にし、整備能力の維持・発展を支える生命線でした
ところが、運輸省(現国交省)の強い後押しを受けて新規参入し、規制緩和の「申し子」とも呼ばれたSKYは、機材はリース、整備は他社まかせ、社員の多くは契約という会社でした(航空機をリースする際に、機体だけでなく運航乗務員や客室乗務員、機体整備等まで引っ括めてリースするやり方を「ウエットリース」といいます)。
こんな業態の会社が解禁されたことで、航空各社のコスト削減競争に拍車がかかりました。整備の海外委託・外注化、整備部門の別会社化がすすみ、パイロットへの長時間乗務押し付け、客室乗務員の子会社化・派遣置き換えなど、利益第一の経営が横行したのです。

競争によるコスト削減は必然的に労働条件の過酷化に繋がります。
乗務員の疲労を蓄積させないようにすることが安全上不可欠であるのに世界に先駆けて12時間の飛行を交代要員も乗せないで行わせるように運航規定が改められました。
飛行間点検(到着から次の出発までの間に航空機の整備を行いながら品質維持をすること)をする確認整備士の人員が以前は2~3名であったのが1名に規制緩和されました。これでは十分な整備点検が行えません。

効率化は数字に現れる成果だけを追い求めがちです。数字で見えにくいのが安全です。
規制緩和が進む中で、各社は高収益路線を拡大する一方で、不採算路線からは次々と撤退しています。幅運賃導入以降、早割や特売りが宣伝され、運賃が安くなったように感じられますが、実は普通運賃は値上がりしています。また、需要の多い路線では、値引き競争で安くなったとしても、その他の路線では高い運賃がそのまま適用されています。

高い公共性と安全性が求められる航空産業に、競争万能の規制緩和はなじみません。重大事故が発生する前に、国の安全規制を抜本的に強化し、積み重なったゆがみを早急にただすことを要求するときです。



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