プロメテウスの政治経済コラム

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NHKの「自主・自律」が試される右翼攻撃   歴史教育の間隙を衝く反動攻撃

2009-06-14 18:41:03 | 政治経済
5月18日のサンケイ新聞の桜チャンネルを窓口にした右翼の一面全面の意見広告には、驚いた。「NHKの大罪」と銘打った広告は、4月5日放送のNHKプロジェクトJAPANの番組、「ジャパンデビュー 第1回『アジアの一等国』」を激しく攻撃する。多方面からの番組批判は自由だが、この意見広告は批判を通りこして、脅しに近い。放送の自主自律、表現の自由を守る立場に真っ向から挑むものである。
これらの右翼集団については、沖縄の「集団自決」問題では、生き証人が多数存命なので、「ウソ」攻撃に失敗した。北朝鮮問題でも次の一手がなかなか見出せずに行き詰っている。ところが、台湾の植民地支配の実態に関する歴史教育は、国民の間に十分いきわたっているとはいえない。その間隙をぬって、放送倫理・番組向上機構(BPO)の意見書で放送への政治介入を問題にされた安倍晋三、酩酊会見で男を下げた中川昭一らが反撃に出た。今後、BPOから、「自主・自律の危うさ」を指摘されたNHKがどれだけ毅然と対応できるかは、世論の後押しにかかっている。

一、NHKは「JAPANデビュー」において、「やらせ」取材、歪曲取材、印象操作編集による偏向報道を行ったことを反省して訂正・放送を実行し、本シリーズの制作と放送を中止せよ。
一、NHKの番組制作担当者、広報担当者、経営者は、日本国民と台湾国民、全視聴者に謝罪し、全員辞任せよ。
一、放送法第32条の「NHK視聴強制加入」を改正して自由契約を実現し、全国民のNHK受信料不払いを実現しよう。
と呼びかけるサンケイ意見広告



4月5日放送のプロジェクトJAPAN「ジャパンデビュー①アジアの 一等国」への執拗な右翼の攻撃が続いている。意見広告の後も、NHKには、FAXや電話などでの嫌がらせが続いているという。6/8にも、5月30日付けの「ジャパンデビューに抗議する国民 大行動」参加一同名の決議文がFAXされてきて、それも同じものが嫌がらせのように10通近く届いているということだ。番組批判の自由を超えた暴力団的振る舞いである。
この「国民大行動」の主催者に名を連ねているのは、「草莽全国地方議員の会」「日本李登輝友の会」「日本世論の会」(台湾団結連盟日本支部メルガマ「台湾の声」)「日本文化チャンネル 桜二千人委員会有志の会」などの右翼集団である。彼らは5月30日に代々木公園のNHK近くの広場でNHKに抗議する「国民大行動」第2弾を企画。デモ行進には、約1000名が参加したという。
彼らが実施した「国民大運動」第一弾というのは5月17日に渋谷 ハチ公前で行ったデモンストレーションで、読売や産経など右翼系各紙が 取り上げたようだが、参加者は目視で凡そ100名から150名、 日の丸30本、「草莽決起」旗30本、抗議ゼッケンなどで集会を目だたせていたようで、自民党杉並区議会議員松浦芳子氏が司会、先の各団体の代表が挨拶、40代から70代男性が目立っていたとのこと。集会には例の田母神俊雄氏も参加、他に、こいそ明都議(自民)、吉田 康一郎都議(民主)などの顔もみられたとのことである。

6月11日には、自民党有志議員が国会内で「公共放送のあり方について考える議員の会」(古屋圭司会長)の設立総会を開いた。森喜朗、安倍晋三や中川昭一ら約60人が参加。今後、学識経験者らを招き、番組内容を検証していく方針を決めたという。古屋会長は会合終了後、記者団に「放送法にのっとって番組が作られたのか、真摯に検討する必要がある」と指摘。当面はNHKに説明や訂正を求めず、行政の対応を見守ると凄んでみせた。
「ジャパンデビュー①アジアの 一等国」は、日清戦争後、日本が50年にわたって行った台湾の植民地支配を、人々の証言や統治の実態を明らかにする資料「台湾総督府文書」などをもとにリアルに描こうとするものだった。これを安倍、中川らが偏向番組と決め付けた。『ETV2001シリーズ戦争をどう裁くか』第2回『問われる戦時性暴力』の放送前後に、NHK幹部が訪問した与党有力政治家の再登場である。彼らは、事実にもとづいた歴史番組にことさら危機感を持つ。そして、その攻撃の威勢のよさに、少なからずの若者が付和雷同する。何の権力も無い者が、勇ましい非科学的言辞を弄することで、自己の存在を誇示したいと思うのは勝手である。問題は、支配階級に属する政治的権力者が個別番組の編集に介入することである

政治的権力者が個別番組の編集に介入することは、表現の自由に対する「政治的介入」そのものである。プロジェクトJAPANの制作は、今後も続く。 今後のシリーズへの影響はないのか(「プロジェクトJAPAN」は3ヵ年にわたる大型企画)。5月3日に放送された「天皇と憲法」の担当ディレクターは『同じように攻撃に晒されるのではないか』と制作最中から心配していたとの情報もある。
いまのところ、NHKの福地茂雄会長は、「番組についてさまざまな角度から批判はできますが、今回の番組は、日本の植民地支配に軸足を置き、アジアの“一等国”を目指していた当時の日本の姿を描こうという製作意図から作った番組ですので、番組の内容はこれでいいのではないかと思います」「すべて事実に基づいて描いているという自信を持ちました」と述べている。しかし、ほっておけば自己規制が強まる懸念がある

BPOから、「自主・自律の危うさ」を指摘されたNHKが今後、どれだけ毅然と対応できるかは、視聴者の励ましや世論の後押しにかかっている。思想・文化の面における反動勢力とのたたかいは、経済、政治の分野とともに発達した資本主義国における階級闘争の重要な一分野なのだ。

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