プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

2007年度予算成立 新自由主義改革の日本的特徴 新自由主義改革に対する抵抗が弱いのはなぜか

2007-03-28 19:14:14 | 政治経済
政府・自公の2007年度予算は、減価償却制度の見直しで7千億円、証券優遇税制の延長で1兆円など、労働者を貧困に押しやって空前の利益を上げている大企業、巨額の配当を受けている大資産家への減税をさらに拡大する一方で、定率減税を廃止し、生活保護の母子加算の段階的廃止、雇用対策費の半減など、貧困問題をいっそう深刻にする予算である。
多国籍大企業の税・社会保障負担を軽減し、労働力を含めた調達コスト削減が可能な体制を保障して競争力を回復させるというのが、新自由主義改革の眼目である。その意味で、安倍政権の2007年度予算は、小泉構造改革を忠実に継承するものである。

日本型開発主義国家は強力な官僚体制主導のもとで、産業構造を(1)所得弾力性基準(将来にわたって需要の伸びのはやい“成長産業”を選択する)、(2)生産性上昇基準(生産性上昇で国際競争力強化の見込まれる産業を選択する)の二つで『高度化』することをめざし、そこに資源、資金、労働力を計画的に集中した。労働者は企業別に縦割りに統合され、労働者の政治的要求は企業の成長・繁栄と一体化した。国家は、経済成長を促進するために系統的に介入し、福祉国家のように資本蓄積に規制を加えるのではなく、資本蓄積を促進する役割を果たした。
日本型開発主義国家のもう一つの特質は、労働者党政権による福祉国家的再分配に代わって、成長による税収の増加を梃子に自民党一党政権による利益誘導型政治によって成長の恩恵を直接被らない地域や農業、中小零細企業に所得再分配することであった。

しかし、日本の強蓄積体制を支えてきた、この官僚機構による介入主義体制、自民党の利益誘導政治体制は企業の海外展開とグローバル競争の激化のもとで、かえって企業の成長にとって桎梏となった。海外での強烈な競争に打ち克つためには、国内の産業構造、蓄積条件を再編し、非効率を淘汰し、高価格、高コスト体制を多国籍企業本位に再編することを財界は強く望んだ。こうして官僚=自民党独裁政治による日本型開発主義国家体制の根本的な再編が日本の新自由主義改革の主題となった。つまり、日本における新自由主義改革のターゲットは、反官僚主義、反パターナリズムであり、自民党一党政権の周辺部に対する利益誘導型政治、族議員の癒着体質の打破であった。同じ新自由主義改革といっても、欧米における福祉国家による階級妥協態勢からの階級権力の再確立とは、大きく様相を異にするものである。

なぜ、日本国民は、小泉構造改革にあっさり乗せられたか。反官僚主義、反パターナリズム、自民党一党政権による癒着体質を打破するという構造改革は、時代閉塞感が強まるもとで、日本の都市上層部から中間層までが広く望むところであり、容易に賛同するものであったのだ。小泉は旧い自民党を「抵抗勢力」として巧みに国民を誘導した。そしていま、小泉構造改革の結果、多国籍大企業が繁栄する一方で、格差と貧困の広まりで、深刻な社会統合の解体と社会の分裂がもたらされている。本格的な福祉国家を経験していない日本では、社会保障や所得再分制度は脆弱であり、労働者階級への破壊的影響は欧米よりもはるかに深刻である。政府・財界はその貧弱な社会保障や所得再分制度まで破壊しようとしている。しかし、階級闘争の経験を持たない日本の労働者階級は政府・財界に効果的に対抗するよりも逆に、安倍の新保守主義に絡め取られる危険さえ見せている。残念ながら、これが日本の厳しい現実である。

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