プロメテウスの政治経済コラム

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労働審判制度施行1年 紛争解決に一定の役割 解雇の金銭解決に課題 労働組合による集団交渉が原則

2007-05-14 19:03:26 | 政治経済
労働審判制度は司法制度改革のひとつとして、裁判員制度(2009年5月スタートの予定)と違って,地味な取り扱いで出発した。全国50の地方裁判所本庁に設けられ、申し立てをうけ、労働審判官(裁判官)と労働審判員(労働者と使用者側から任命)の計三人で労働審判委員会を構成。争いのポイントを整理し、証拠を調べ、三回の「期日」(民事裁判の口頭弁論にあたる)以内に解決をはかることを原則としている。労働組合未加入の非正規労働者が増え、突然の解雇や雇い止め、賃金・退職金の未払いという無法が横行しており、労働審判制度は,こうした労働者個人と事業主間における紛争について、裁判所における訴訟よりも短い期間で,事案の実情に即した柔軟な解決を図ることを目的として導入された。
労使の専門家が審理,判断に加わるこの制度は,国民の司法参加の一つの形態であり,司法制度改革の一環として導入されたものである(「しんぶん赤旗」2006年3月12日)。

労働審判手続の対象となるのは,解雇や賃金の不払というような事業主と労働者との間に生じたトラブル(「個別労働関係民事紛争」)である(労働組合と事業者、公務員と国・自治体との争いは除外)。労働審判官(裁判官)と労働審判員労働者と使用者側から任命)の計三人で構成される労働審判委員会は,3回以内の期日(申し立てから概ね三カ月で期日を終えることを想定)において,紛争に関する双方の言い分を聴き,争いになっている点を整理し,必要な証拠調べを行う。労働審判委員会は,審理の過程で,話合いによる解決の見込みがあれば調停を試み,調停が成立しなければ労働審判(判決)を行うことになる。審判は、委員会を構成する三人の多数決によって決める。労働審判は、三回の期日で解決することを目的にしており、この期日で証拠調べができない複雑な争いなどは途中で手続きが終了させられる。労働審判は、裁判の判決と同じ効力をもち、相手が従わないときには、強制執行できる。審判に不服の場合は、二週間以内に異議の申し立を行い、その場合には、審判は失効し、争いは自動的に通常の訴訟に移行する。ただし、労働審判の結論がそのまま裁判の判決となる可能性が高いものと思われる(「しんぶん赤旗」同上)。

最高裁のまとめによれば、申し立て943件のうち676件が終局となり、要した日数は平均73日であった。終局した事案のうち、地位確認(解雇や雇い止めの無効)が過半数の345件(51・0%)で、賃金が162件(24・0%)、退職金57件(8・4%)である。
調停成立は472件(69・8%)あり、労働審判(判決)にいたったものは125件(18・5%)であった。労働審判125件のうちこれを不服として通常の訴訟に移行したのは、65件で60件はそのまま確定した。調停成立と合わせると、8割近くが労働審判制度で紛争を解決している(「しんぶん赤旗」2007年5月14日)。

課題は、調停や審判のなかで、解雇の金銭解決が多いということである。解雇の金銭解決は、日本経団連・財界のかねてからの要求であり、労働契約法に盛り込むことを画策している。解雇が無効と判断され、労働者本人が職場復帰をのぞんでいる場合にも、金銭補償による労働審判を下し、労働者側が泣き寝入りになっていないか危惧される。
大企業のリストラ、小泉構造改革による規制緩和によって、パート、派遣、個人請負という働き方が急増している昨今の状況を考えると「個々の労働者と事業主の間に生じた紛争」解決の手段としての労働審判制度の存在意義を否定するものではないが、私は労使間の紛争は、労働組合を通じた集団的労使交渉によって解決するのが本筋だと思う。個々の労働者と使用者は、決して対等ではないからである。労働力売買契約は対等というのは、資本主義的擬制に過ぎない。パート、派遣、個人請負者も、組合に結集し、連帯し、団結することによってのみ、使用者との交渉力をもつことができるのだ。

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