霊能師江原氏番組に警鐘 問題を霊のせいにしても何も解決しない 思考放棄社会ばんざい！

ＮＨＫと民放が作る「放送倫理・番組向上機構」（ＢＰＯ）の放送倫理検証委員会は２１日、フジテレビが昨年７月に放送したバラエティー番組「ＦＮＳ２７時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」内でスピリチュアルカウンセラーの江原啓之氏（４３）が登場したシーンについて「倫理に反する」との審議結果を発表した。検証委は「（フジテレビ系列である関西テレビの）『発掘！あるある大事典２』の教訓が生かされていない」と反省を促した（スポーツ報知2008年1月22日06時00分）。科学の立場からすれば、「霊が見える」というのはまったくのナンセンスである。それでも「見える」と主張するなら、それは「ウソ」か「幻覚」以外の何ものでもない。「霊能者」といわれる人物は「虚言癖」か「幻覚体質」をもつということに他ならない（安斎育郎『だまし博士のだまされない知恵』新日本出版社2007）。

番組は、地震被災者らにリンゴを送る活動をしている東北地方の女性に、スピリチュアル・カウンセラーの江原啓之氏が面会、女性の亡父の言葉を伝えるという内容。その中で江原氏は、女性が取り組んでいる被災者などにリンゴを贈る活動が美容院を経営難にしていると、亡父の「言葉」を伝えた。美容院の従業員が「りんごをタダで送るため、美容院の経営が苦しくなってしまった。亡き父がいれば何と言ってくれるのかとＡさんが悩んでいる」との手紙を番組あてに出し、江原氏がその情報を聞いて「亡き父親の言葉」として伝えただけのはなし（スポーツ報知　同上）。

放送倫理検証委員会は、霊能師ありきの企画・構成や、美容院を「経営難」と断定している二点について、「倫理上の疑義がある」と指摘。「放送倫理基準が慎重な扱いを求める『スピリチュアルカウンセリング』なるものを、『おもしろく』見せるために、一方的に出演させた人の生活状況を十分な裏付けも取らずにおとしめている」としている。マスコミ界はＢＰＯ・放送倫理検証委員会の指摘を、当該番組だけでなく「スピリチュアル」番組全体への警鐘と受けとめるべきだろう（「しんぶん赤旗」1月22日）。

若者を中心とした、死後の世界や「生まれ変わり」を信じるなどという「スピリチュアルブーム」のかげで、悪質な商法が急増している。占いや気学で「今なんとかしないと、とんでもないことになる」と不安をあおり、高額なアクセサリーや数珠などを売りつけたり、法外な「祈とう料」を請求する「開運商法」と呼ばれる手口である。ある２０代の女性は、女性誌の広告を見て３万円ほどの「開運ペンダント」を申し込んだ。「２週間で効果がある」と書いてあったのに、効果がなかったので広告先にクレームの電話をかけた。すると「あなたの前世に問題がある。えらい先生に鑑定してもらうので写真を送ってください」と広告先。女性は携帯メールで自分の顔写真を送信。鑑定の結果、オーラに問題があるので２５万円の数珠を買うよう薦められる。「３カ月間、様子を見るよう言われた。もうすぐその期限になるが、なんだかおかしな感じがする」と女性（「しんぶん赤旗」2007年12月17日）。

「霊」は暗闇にも出るから、それが見えるためには「霊」自身が光を発して、見る人の網膜上に光の刺激を与えなければならない。「霊」が光を出すには光化学反応を起こす物質系でなければならず、遺体が火葬された後、発光システムをもった物質系として再構成されるなど、まったく狂気の沙汰である。もし本当に霊が光を発して網膜上に像を結んでいるのなら、江原氏以上に視力のある人物にも霊が見えなければならない。それにもかかわらず江原氏にしか見えないとすれば、江原氏が見えた「霊」なるものは「幻覚」に他ならないということになる（安斎育郎　同上）。

本来、人間が不幸に陥るのには、三つの原因がある。第一には「社会のありように関わる構造的原因」、第二には「自分自身の生き方に関わる原因」、第三には「災害や事故などの偶発的な原因」である（安斎育郎　同上）。不幸の原因に霊が入り込む余地はない。人々の悩みや社会の不安に霊界を使った短絡的な結論を押しつけることは、なぜそうなるのか考える努力を放棄さることを意味する。なぜ、マスコミが「スピリチュアルブーム」をつくり出すのか。金銭上の欲得のほかにさまざまな不幸を生み出す「社会のありように関わる構造的原因」に人びとの考えが及ばないようにするためである。支配階級にとって、現実の苦しみを「たましい」の問題にすり替えて、人びとが一喜一憂してくれるほど有難いことはない。誰も、社会が変革の対象になるなどと意識しない。思考放棄社会ばんざい！