プロメテウスの政治経済コラム

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個人消費が低迷しても景気は回復? 7―9月実質GDP前期比0.5%増

2006-11-15 20:16:25 | 政治経済
「いざなぎ景気」の4年9ヶ月の実質平均成長率は11・5%(名目18・4%)であるのに対し今回の景気拡大期の成長率は実質で年平均2・4%、名目では1・0%に過ぎない。「現在の貧弱な景気回復を、いざなぎ景気と並べて論じても、あまり意味はない」(大和総研・原田泰チーフエコノミスト)。
今回の景気を引っ張ってきたのは企業だ。全企業の経常利益の伸びは年平均10・8%とバブル期に匹敵する高さ。資金に余裕がでてきた結果、設備投資が伸びてGDPを押し上げた。ところが企業の稼ぎは従業員には還元されなかった。毎月勤労統計調査の定期給与(月給)を見ると、いざなぎでは5年弱79・2%伸びたのに、今回は逆に1・2%減っている(「朝日新聞」2006年11月15日)。

7―9月実質GDP速報でも個人消費は前期比0・7%減と失速し、大企業の好決算が賃金に還元されず、雇用者報酬が横ばいとなっていることが響いている。 一方、財貨・サービスの輸出は、米国への自動車輸出などが伸び2・7%増と今年最大の増加となり、成長率を押し上げた。企業の設備投資は2・9%増と前期に比べ鈍化した。輸出は勿論、設備投資も外需を目的としたものであり、経済成長はすべて外需頼みといっていい。民間住宅は0・1%増。公共投資は6・7%減であった。
さすがに大田弘子経済財政担当相も「回復は確認された」としながらも、「消費がマイナスに転じたのは気になる」と述べざるを得なかった(「しんぶん赤旗」2006年11月15日)。

現代日本が従来の日本型企業国家から「新自由主義的企業国家」に舵を切ったのは90年代半ばからである。日本の大企業は従来の輸出主導型蓄積をあらため、「輸出プラス海外生産」の本格的多国籍企業型蓄積にむけてカーブをきった。こうして日本企業による海外生産額が輸出額を上回ることになった。大企業体制の多国籍企業化とともに従来の終身雇用と年功序列賃金は見直され、総人件費削減と個別労務管理を目指し、成果主義賃金の導入や非正規労働者への置き換えが行われた。政府の新自由主義的国家改造も橋本政権の6大改革から小泉構造改革へと進められた。大企業が儲ければ、やがて家計にゆきわたるという従来の言い古された話はもはや通用しない。雇用規制を緩めて大企業の収益力を強める「構造改革」は派遣・契約、偽装請負をまん延させ、低賃金で劣悪な雇用を急激に広げた。大企業が家計から儲けを吸い上げる構図であり、大企業から家計に利益が波及するといういわゆるトリクルダウンとはまさに正反対の姿である。

日本の大企業は欧米に一歩遅れて経済のグローバル化の波に巻き込まれた。伝統的に労働組合の力が弱く、財界の政治支配力が強い日本の「新自由主義的企業国家」は他国以上に財界の階級的利害の実現を推し進めることになった。財界の利害とは、一言でいえば「国際競争力の強化」である。資本の蓄積に邪魔になる公的負担の軽減を要求し、法的規制の緩和・撤廃を求め、資本活動を援助する補助金や公的サービスの民間市場開放を望む。社会の亀裂は治安強化で対処し、強者に従順な人間になるようなイデオロギー操作をする。「国際競争力というのはまさに脅しのための呪文(じゅもん)」(山家悠紀夫・暮らしと経済研究室主宰)である。
新自由主義に対抗する20世紀社会主義に替わる、革新勢力の新しい対抗構想が俟たれる。

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