プロメテウスの政治経済コラム

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核兵器廃絶への新たな機運  オバマ演説が提起したもの、しなかったもの

2009-07-16 21:52:12 | 政治経済
4月5日、オバマ米大統領がプラハでおこなった演説を機に、核兵器廃絶への機運が新たな高まりを迎えている。2001年1月のブッシュ政権成立以来、「対テロ戦争」を掲げ、核軍縮を拒否するアメリカは、核兵器廃絶のための国際的な努力をことごとく妨害してきた。そのアメリカが「核兵器のない世界を追求する」と宣言したのである。核軍縮・廃絶をめぐる国際政治の雰囲気を一気に変えたのは、あまりにも当然であった(高草木 博「核兵器のない世界へ 全面禁止の合意を」『前衛』2009・8/No.846)。
核軍縮の議論を世界的に活性化させたオバマ演説は何を提起し、何をなお今後の課題として残したのか。米国は60年以上にわたって核超大国である。オバマ氏の「核兵器のない世界へ」の志を実現するためには、核兵器廃絶そのものを目標とした国際交渉の開始が決定的に重要である。このチャンスを生かして「廃絶条約の交渉開始」を迫る国際世論を大きく盛り上げることは、被爆国日本国民の歴史的な責務である

 広島平和文化センター理事長のスティーブン・リーパーさんは、「オバマ氏個人は、できるだけ早く核をなくしたいと考えていると思います。しかしオバマ氏は米国の大統領です。米国は60年以上も核超大国であり続け、とても軍事化された国です。そのような国で核をなくすには、みんなを巻き込んで進むほかありません。さもなければ反動が起き、頓挫することにもなりかねません」と語っている(「しんぶん赤旗」2009年7月16日)。
オバマ米大統領はプラハで「米国は、核兵器国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核兵器国として、行動する道義的責任がある。米国だけではうまくいかないが、米国は指導的役割を果たすことができる。今日、私は核兵器のない世界の平和と安全保障を追求するという米国の約束を、明確に、かつ確信をもって表明する」と宣言した。

 ニューヨーク・タイムズ紙の記者は「オバマ氏の(核兵器廃絶の)ビジョンは深い根をもっている」という。オバマ大統領がコロンビア大学の学生だった1983年に「核のない世界」に言及した論文を校内誌に書いていたことが話題になっている。「核攻撃から生き残る核能力を持つことが相手に攻撃を思いとどまらせる。このゆがんだロジックこそ巨大軍事企業に奉仕する理論だ」―26年前、レーガン政権の登場で米ソの軍事競争が激化しているとき、当時コロンビア大学政治学部4回生のバラク・オバマは核軍拡を正当化する抑止論をこう痛烈に批判した。「戦争メンタリティー(思考方法)の打破」と題されたこの論文は、当時のレーガンの大軍拡に反対する運動としての核凍結運動の限界を超えて、「核のない世界」を志向する性格を強く持つものであった。
オバマ論文を紹介したニューヨーク・タイムズ電子版5日付によれば、オバマ氏はゼミの指導教官に提出した別の論文で、米大統領がロシア側と核軍縮交渉をする方法を考察。同教官は、「彼は、この問題を長期にわたって考えてきた。顧問の一人が『これを提案したらどう?』と声をかけて言い出したようなことではない」と語っている(「しんぶん赤旗」2009年7月16日)。

オバマ大統領のイニシアチブにたしては、「米ロの削減に北朝鮮やイランが核放棄で応じると考えるのは危険な理想論だ」―米議会の保守派や軍事専門家から早速、反対と攻撃の矢が飛び始めているという。オバマ氏は「米ロや同盟国が核を増強しながら、放棄の圧力をかけられると考える方が幼稚だ」と反論している。

 核なき世界への道筋として、オバマ演説が具体的に提起した軍縮の措置は、①ことし12月5日で期限の切れる米ロ戦略核削減条約に代わる新たな条約の交渉、②包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准・発効、③核分裂物質製造禁止(カットオフ条約)の三つである。CTBTもカットオフ条約もブッシュ政権はすべて履行を妨げていた。オバマ米大統領とロシアのメドベージェフ大統領は7月6日、モスクワで会談し、戦略核兵器の核弾頭数とミサイルや爆撃機などの運搬手段を削減する枠組みについての共同文書に署名した。ロシアとの合意はプラハ演説具体化の一歩である
オバマ氏は会談後の共同記者会見で核軍縮について「われわれは自ら模範を示して主導しなければならない」と表明。メドベージェフ氏もイランや北朝鮮の核開発阻止に向け「最大限の努力を行うのが両国の責務だ」と強調した(「しんぶん赤旗」2009年7月8日)。

 オバマ氏は、プラハ演説で「核兵器のない世界」を目標として宣言し、当面の軍縮措置として上記の3点を明確にした。核不拡散条約(NPT)を協力の基礎として強化するとも述べた。しかし、核兵器のない世界というビジョンは明確になっても、それを達成する手段には言及しなかった。米国の大統領として、日本や韓国の指導者に会えば「核の傘」を維持するとも表明している。核兵器の廃絶は、個別の措置を積み重ねるだけでは実現しない。「禁止し、廃絶する」という強い意思をもって、交渉し合意に達するほかないのだ

最大の焦点は、来年5月にニューヨークで開催される次の核不拡散条約(NPT)再検討会議である。現在、核兵器廃絶の新しい流れが生まれている。変化をつくりだしたのもそれを生かすのも運動の力である。日本の平和勢力の奮闘がますます求められている。

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