プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

アメリカ発世界不況の懸念  世界の構造転換のはじまり

2008-01-26 19:12:39 | 政治経済
米緊急利下げと財政出動を柱とする景気対策によって、投資家心理は幾分改善したようだ。しかし、貧富の格差が拡大し、中産階級の所得が増えないなかで、アメリカ経済を引っ張ってきたのは、住宅価格の上昇と金融詐術による個人消費であった。昨年からの住宅価格の下落傾向によって、米国の中産階級は、借金して消費する状態を続けられなくなり、逆に消費を切り詰めて借金を返す時代に入りつつある。2008年は米国の消費が減り、不況に突入する可能性が高い。アメリカは戦後ずっと、世界中から旺盛に商品を買い続け、大消費国として世界経済を牽引してきた。アメリカの不況は世界の不況につながる。2008年は、アメリカの世界覇権の転換点となる可能性が高い(「アメリカ発の世界不況」 田中宇の国際ニュース解説 2008年1月22日)。

米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、臨時の会合を開き、政策金利を0.75%幅引き下げた。FF(フェデラルファンド)金利が今月末の定例の連邦公開市場委員会を待たずに、緊急の形で金利引き下げが発表されるのは2001年9月の同時テロ直後以来のことだ。また一気に0・75%の引き下げも23年ぶりである。単なる資金の量的供給では間に合わず、インフレ懸念があろうとも大幅な金利水準の引き下げに踏み切った。金融機関の危機がそれだけ深刻なのであろう。中央銀行が低利で資金供給するということは、日本の例と同じく安易な貸し出しを積み重ねてきた金融機関の救済につながるものだ。
いま、アメリカをはじめ、金融の自由化で、余ったお金がもうけを求めて自由に動いている。優良な(プライム)ところにお金を貸して、ちゃんと利子付きで返してもらうというのが、正常な資金の動きであり、本来の金融機関の役割である。ところが、それだけではもうけが足りないということで、返ってくるのが怪しいところにまで、もっともらしく「サブプライム」と名付け、金を注ぎ込んだ。住宅ローンは、住宅の価格があがっているうちは、金を返せなくなっても住宅を売りに出せばよかった。だが、住宅価格が下がってくると、住宅を売ってもローン分に届かない。それだけではない。ふつうだったら、お金の貸し手と借り手が明確で、むちゃな貸し借りはしないようになっている。ところが、金融の自由化で何でもありになり、サブプライムローンの貸し手は、細かく分割され、世界中にばらばらに存在するという。それが証券として次々と転売される。金融技術の発展というが、誰が貸し手なのかわからないような状況では、責任という概念があいまいになってしまう。これが、今回のアメリカ発の国際金融市場混乱の実体である(「世界同時株安の根本対策は何か」松竹伸幸『編集者が見た日本と世界』HP参照)。

ブッシュ政権は、消費と投資を誘発するため、減税を中心とした総額1500億ドルの財政的な景気対策を行うことにしたが、この対策は効果が薄く、時期的にもう遅すぎるとも指摘されている。戻し税は、一回限りであり、低所得層には恩恵はわずかである。アメリカの今の政権と議会は、産業界や農民、医者などが作る各種の政治圧力団体(ロビイスト)からの要請に弱いことで有名だ。今回の景気対策も、議会で、各種の利権のひも付きになっている議員たちにいじり回された挙げ句、景気対策とはほど遠い予算の無駄遣いになる可能性が高い。米政府はすでに巨額の財政赤字を抱え、支出増の一方で不況で税収が減りそうな中、景気対策に財政を無駄遣いすることは、非常に危険である。財政赤字と金利引き下げは、ドル不安に拍車をかけることになるだろう(田中宇 同上)。
米国の専門家の間では、住宅市況の悪化はまだ序の口だと考えられており、2008年から2009年にかけて住宅ローンの破綻はさらに増えるという予測もある。銀行の損失計上額がさらに増え、高リスク債市場の開店休業状態は続き、米国企業の資金調達は困難なままだと予測される。高リスク債の債務不履行(デフォルト)を保証するモノライン保険会社に危機が波及し、今年、米国の金融危機はさらに悪化する。アメリカ政府は、信用崩壊を救済するために「公的資金」の投入に追い込まれるかもしれない。アメリカの、今年からの不況は、金融危機を併発しているため、2000年よりはるかに大規模で長期的なものになりそうだ(田中宇 同上)。

日本も中国やインドなどの新興経済大国も、対米輸出が減って経済が減速するだろう。「アメリカが消費しなくなっても、その分を新興大国が消費するので世界経済は高成長し続ける」というデカップリング説がどこまで通用するか。
中長期的に考えると世界経済は、中国、インドやその他の大小の新興国の人々が、貧乏人から中産階級へと上がっていく際の消費力によって牽引されていくしかないのだろう。最大の消費者である大多数の国民を犠牲としつつ、さらに発展を望む先進資本主義国は早晩行き詰る。 2008年は、アメリカの世界覇権の転換点となる可能性が高い。その従属国である日本も困難に陥るだろう。

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1 コメント

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はじめまして (くみこ)
2008-01-30 20:45:39
いつもこちらのブログで勉強させて頂いております。



ヘッジファンドって昔の日本の米相場のようなものですか?



先物取引っていつの時代にもあったのに、なぜここに来て悪者扱いされるのでしょうね。



いつかヘッジファンドについて初歩的な知識を書いて欲しいです。



本は苦手なので。
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